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人を育てることが最大のリスクヘッジ。

酒井鈴木工業株式会社 / 建築技術者

インタビュー記事

更新日 : 2024年11月14日

港湾工事、道路舗装工事といったインフラ整備を事業の中心に据えている酒井鈴木工業は、地域の未来を見据え、資源のリサイクル分野での技術開発も展開している。
まちづくりを担う建設業ならではの視点やノウハウを生かした事業の中心は、やはり「人の力」にあるという。

酒井鈴木工業株式会社 事業概要

 港湾工事、道路舗装などの土木工事を中心に、建築物の修繕なども手掛ける総合建設会社。港湾工事では主に、防波堤の基礎となるケーソン(詳細後記)の製作を行っている。
 創業は1947年。鈴木工業の前身である酒田堀江工業株式会社として設立され、港湾工事を中心に土木事業を行っていた。
道路舗装工事を手掛けるようになったのは、2001年に道路舗装を主事業としていた酒井組と合併してからのこと。以来、港湾工事と道路舗装工事の両輪を軸に「インフラ整備」という形で地域に貢献してきた。
 また、新規事業として展開したリサイクル事業も、地域の発展を願ってのこと。
道路工事の現場から出るアスファルト廃材のリサイクルプラントや、火力発電所から排出される石炭灰に特殊な処理を施し、ブロックや砕石へと再資源化するプラントを構える。
地元で排出される廃棄物等の再資源化から活用に至るまでを全て地域の企業により行い、地元のまちづくりへと活かすことで、地域の活性化と循環型の事業展開を行う。
一方で、全国的に担い手不足とされる建設業界の人材確保に対し、現場作業員の技術力向上とともに、施工管理などの技術者を増やす方針を取っている。
そのため、社員が働きながら無理なく資格取得できるよう、学費や受験料の支援、業務スケジュールへ配慮し、柔軟に対応している。

インフラ整備で地域貢献をする

 酒井鈴木工業を代表する工事のひとつに、防波堤の基礎に使われるケーソンの製作工事がある。ケーソンとは、フランス語で「大きな箱」という意味。港湾建設に使われる、四角いコンクリートの箱のようなものをいう。
鉄筋を組立て、その周りに型枠をつけてコンクリートを流し込み固めたものがケーソンとなる。このケーソンが酒田港の防波堤を作り、港湾や地域の安全の保守に繋がっていく。

「私たちの仕事の多くが公共工事です。港湾土木などインフラの整備に関わる仕事ですので、地域貢献という点でも重要な仕事を担っていると責任を感じております」
 そう話すのは、代表取締役社長の鈴木啓一郎。
酒井鈴木工業の事業は、そのほとんどが公共工事だ。公共インフラと雇用の維持により、地域貢献としたいと思っているという。
「私どもは、創業から長く港湾工事をしていました。しかし港湾だけでは、公共工事という点において社会情勢などの変化もあり、見通しがなかなか立たないというデメリットがありました」

 そこで2001年に道路舗装を主事業としていた酒井組と合併し、リスクの分散を図った。
以来、港湾土木、道路舗装の両輪を軸に展開して、事業を安定させる体制をとっている。

 また、前述の通り建設業自体が先細りする可能性も見据え、リサイクル事業も開始した。
地元企業5社で構成されたLLP(有限責任事業組合)を設立し、特許取得した製法で地元の火力発電所から排出された石炭灰をリサイクルし、製品化したFRC(フライアッシュ・リサイクル・コンクリート)を開発。
砕石化し、主に道路路盤材としての販売実績を重ねてきたほか、軽量性や透水性を評価され、被災地への出荷実績も持つ。また、ブロックは国交省が主導する「酒田港大浜海岸を対象とした藻場造成実験」や「酒田港北港船だまりを対象としたブルーインフラ実証実験」に選定され、自然環境改善への取り組みも積極的に行っている。
この「海のゆりかご」的特質は、地元特産のイワガキの養殖にも応用できるのではないかと期待されており、漁業振興やそれに伴なう雇用の場の創設で、地域貢献の一助になる事が同社の望みである。
 更に、現在は未来を考えた事業として、バイオマス発電の燃焼灰を処理したリサイクル事業も研究を進めているところだ。

そうして、地域社会と会社をサスティナブルにつなげるように事業を革新している。

技術の向上を図るためのサポートを充実

 しかし、公共工事の需要は会社の都合によってあがるものではない。
道路舗装工事や、それ以外の港湾等の土木工事が均等にあるわけではなく、どうしても仕事に偏りが出てしまう。もともと、道路舗装を主としていた会社と港湾工事を主に行っていた会社が合併したのだから、従業員の専門も「舗装」と、「それ以外の港湾などの土木」にわかれている。これでは従業員の仕事量において差が出てしまう。
それを均すために、「舗装部門」と「土木部門」の垣根を取り払った。
「合併は会社全体のことを考えれば正しいと思います。
ただ、舗装と港湾などの土木というのは同じ公共事業でもスキルは全然違うものです。だから従業員、とくに現場で働く人や技術者は、なかなか相互理解が難しい部分があります。
それを融和し技能レベルを平均化するために、部門を横断的に行き来させる事で、従業員の技術力やスキルアップを図り、それに付随する研修などのサポートを厚くしています。」
そう鈴木は話す。この施策は、すでにエキスパートとして働いている社員だけでなく、若手社員のモチベーションを上げる結果にもなった。
今回話を聞いた4人の社員も「入社後の技術力向上」のことを話してくれた。

 2024年2月に入社した未就学児を持つ小野寺は、前職も建設会社で働いていたが主に総務経理といったバックオフィスの仕事をしていた。入社後に建設ディレクターの資格を取得し、現在は現場サポートの業務に従事している。
建設ディレクターとは、ITとコミュニケーションスキルで現場を支援する新しい職域。
具体的には、これまで現場の技術者が作成していた膨大な書類作成の一部を分業したり、国交省が勧めているICT施工の補助をしたりするといったものだ。
これまで現場の技術者などは書類やデータ管理等による時間外労働が多い傾向にあったが、建設ディレクターの導入によりバックオフィスでの業務支援を行い、技術職の負担の軽減を期待する事ができる。山形県全体で見ても建設ディレクターのポジションを設けている会社は多くなく、まだ新しい資格だ。
「建設ディレクターという資格自体は知っていて、興味もありました。でも、調べてみたら資金も時間もかかる。諦め半分でいた資格に対して、費用を会社で負担してくれる上、資格取得のための時間を作るために働き方を工夫してくれるといった会社の応援がありました。無事に修了テストに合格した時は、みんなに祝ってもらいました」と小野寺は笑って話す。
 また、建設の現場というと、力仕事の男の職場というイメージが強いかもしれない。しかし、先ほど述べたように、ITやICTの浸透で女性が活躍する場所も増えてきている。建設ディレクターという職域はまさにその最先端ということになる。
「私自身、子どもが小さい為残業が難しいし、急に休まなければいけない事もあります。だからキャリア形成は諦めていた部分がありました。ですが、建設ディレクターであれば残業も少なくキャリアを積むことができるので、やりがいがあります」と語る。建設ディレクターは女性にも建設という分野での可能性を広げている。

自分の力を資格で表現する

そして、職歴も学歴もまったく建設、建築と関係ないところから入社したのが、建築課で働く北村だ。
「私は大学で英語関係の学問を学びました。その後は、外資系のディーラーや英語塾で働いていました。だから、建設とはまったく関係ない分野を歩んできたんです」
 ではなぜ酒井鈴木工業に入社したのかを聞いてみると、こう答えてくれた。
「ひとつは、何かモノを作りだす仕事はいいなと感じていたことです。父がこちらの会社で働いていて、小さい頃に漠然と毎日モノづくりに関わっている姿はいいなと思っていたのかもしれません。そこで、思い切って入社しました」
 そして、それに加えて「自分の能力を適切に表現できるもの」を手にしたいからだと話す。
文系畑を歩んできたこともあり、例えばディーラーや英語塾でも営業などの部門で働いてきた。その場では楽しくやりがいもあったというが、
「あるとき、果たしていま身に付けたスキルは、この会社以外で通用するのだろうかと思ったんです。たぶん通用しないだろうなって。
そのとき、どこに行っても通用する資格をとって、自分の力を一様の基準で表現できるというものを目指したいと思いました。それならば、どこに行っても通用するはずだと」
そう話す北村は、現在入社2年目となる。
今後は施工管理の資格取得に向けて勉強を進め、将来的には技術者として現場に貢献したいと考えているという。また、
「勝手な偏見かもしれないですけど、建設の現場仕事というのは、見て覚えろ、みたいなところがあるのかなと思っていました。性格も強いというか…。でも実際はそんなことはまったくなく、きちんと教えてくれます。もちろん安全面もあるので厳しいところはありますが、優しく、正しく教えてくれるので、とても勉強になります」と話してくれた。

未経験から資格取得を目指して

 北村とともに建築課で活躍する五十嵐は「入社してから学ぶことのほうが大きかった」という。
「私は工業高校の出身なので、ある程度の知識を持って入社しました。しかし、“ある程度”でした。
入社してから実際の現場では高校で学んだものでは太刀打ちできない。毎日が学びでした。それとともに、資格の勉強もさせてもらいました。小野寺も言っていましたが、サポートは厚い。新卒で資格を取る時、もしかしたら『入社したばっかりだからそんなお金もないよ』となるところだったかもしれませんが、お金も時間もサポートしてもらって、勉強に集中することができました」
 そう話す五十嵐は入社から3年で2級建築士、2級建築施工管理技士の資格を取得した。これは実務経験が必要となる資格なので、最速で取得したことになる。
「資格の話が続いてしまいますが、実際に資格がないと仕事をやることができないという事実もあります。いくら経験と知識があっても、工事に参加できないという現実があるんです」という。
 五十嵐は高校を卒業してすぐに入社し6年が経つ。現在24歳だが、十億円を超える大規模な工事にも参加している。若手でもこれだけの規模の仕事ができるのは、きちんと資格のサポートをしながら、個人としてのキャリアアップを会社が考えているからにほかならない。

 同じく「学校での知識よりも現場で覚えたことの方が多い」と言っていたのが、作業課でケーソン製作の仕事をしている宮本。
 インタビューの最初のひと言が印象的だった。
第一声は 「仕事は楽しいですね」 というものから始まった。
「自分の身体を動かす仕事がしたいと思っていたので、いまの現場にはすごく満足しています。ひとつのケーソンを作るのに10か月から1年かかるので、できたときの達成感は大きい。モノづくりとしてすごく満足感のある仕事だと思っています。
あとは何よりいっしょに仕事をする人たちが優しくて、楽しくて、とてもいい環境で仕事をさせてもらっています」
 続けて、「チャレンジ」というキーワードも出してくれた。
「私も五十嵐同様、工業高校出身です。しかし、高校ではケーソンのことなど教えてもらえるわけもなく、現場で一から学びました。すると、現場でやるべきことが見えてくるんですね。そのためには、いろいろな資格が必要ということがわかりました。それは船舶、クレーンといった作業用機械の免許もそうです。」
「だから免許はいっぱい持ってますよ」と笑顔を見せた。
続けて、施工管理という技術者側の視点でも仕事を見つめるようにもなったという。そのためにはやはり資格が必要。これから、施工管理の資格取得にチャレンジしたいと話してくれた。

 業務の多様性については、「小野寺は明るい性格で現場にも入っていきやすいから、今まで手の回っていなかったSNSでの発信など色々なことをやってもらっています。」という社長の鈴木の言葉にもあらわされている。
そうして、さまざまな現場、さまざまな仕事ができるのも会社の雰囲気の特長のひとつだろう。
小野寺は笑いながら「これから5年、10年たったときに、社員のお母さん的な存在になりたい。これから技術職へ入社してくれる女性社員が、安心して活躍できる体制づくりを意識しながら私も成長していきたい。」と話す。
未来のイメージを話す若手社員の表情は、一様に明るく生き生きしている。
それも、先導するベテラン社員の築き上げてきた、酒井鈴木工業という企業の特徴だろう。
そうして人と人が関わり、常にチャレンジする社員が多いことが同社の強みなのだ。

 冒頭に「地域貢献」というキーワードが出たが、そのひとつが人をつなぎとめる雇用の場だろう。
最後に鈴木は
「建設の現場でもICTは進んでいるけれども、現場での人の力は欠かせません。
その為には、労働環境の整備や、雇用の窓口の拡充、そして何より、その人を育てることも、私たち会社の責任だと思っています。」と話してくれた。
会社として地域、環境を考え、持続可能な社会づくりに取り組んでいるが、そのなかでもっとも重要なのは「人の力」を育てることだという。
代表の意識が企業全体に息づき、ひとりひとりが伸びやかに成長する。
その根底には、酒井鈴木工業の「人の力を育てる」というゆるぎない思いがあるのだ。