掘削作業に必要不可欠な「泥水」
株式会社テルナイトは泥水技術総合企業だ。このように書くと、よほどの専門家でもない限り、どんなことをしている会社かわからないかもしれない。そもそも「泥水」とは何に使うものか。
「泥水にはいろいろな役割があります。例えば、地面を掘ると堀くずが出ますが、ドリルの先から泥水を噴射して掘りくずを地上に送り出したり、掘った穴の壁を崩れないように安定化したり、穴を深く掘るに伴いあがってくる地層の圧力を調整したりなどです」
そう説明してくれたのは、泥水技術部 技術サービス課課長(部長代理)の藤井塁だ。「私たちの提供する泥水の技術は何千メートルも深く地面を掘る際には必ず必要となるものです。温泉や水を汲みだすために地面を掘るというとみなさん想像しやすいかもしれません。このときも同じく泥水は必要となります」と言う。
あまり知られていないが、日本でも石油や天然ガスの開発は行われている。また、地熱エネルギーなどの掘削作業もある。そのすべてでテルナイトの泥水技術が必要なのだ。
社会を支え、そして未来を作り出す仕事
泥水と書いてしまうと、なんとなく子どもたちが砂場で遊んでいるような場面を想像してしまう。しかしもちろん、ここでいう泥水は単に泥を水に溶かしただけのものではない。ケミカルな材料を含め、さまざまなものを配合して作り出す流体だ。その材料の製造、そして研究や現場でのエンジニアによる技術サービス提供までトータルで提供できる、つまり泥水技術の総合企業として活躍するのは、日本でテルナイト一社のみ。そのため、エネルギー開発、さらに言えばメタンハイドレートの開発や巨大地震の発生メカニズムを解明するための科学掘削など、地面を掘ることに関連するあらゆることにテルナイトは関わっている。そういう意味で、テルナイトの仕事は社会的役割のとても大きなものだ。
「近年は二酸化炭素(CO2)を回収して地下に埋めるCCSといった新たな分野が注目されており、そこでも当社の泥水技術は必要となります。高まる需要に対して、若手技術者の育成と確保が課題です」と藤井は今後の展望を話してくれた。
つまり、現在の私たちの生活を支える社会的インフラだけではなく、テルナイトの仕事は持続可能な未来の社会を作り出す仕事でもあるのだ。
技術を継承していく現場
さて、このようにテルナイトの仕事を紹介すると、専門的で特別な知識や経験が必要に思えるかもしれない。確かに、実際にサービスを提供するとなればそれらは絶対に必要なものだ。ただ、大学などで専門的に研究をした人以外は、掘削作業における泥水の役割など知る機会はあまりないだろう。「私もこの会社に入るまで日本で石油を開発していることすら知らなかった」と藤井が笑って言うように、仕事を始める前に知識や経験を持っている必要はないという。
「経験者というのはまずいない世界ですから、入社してからきちんと教育制度があります」と話してくれたのは、現在泥水技術部のなかでも技術営業として働く石川佳孝。もともと藤井と同じく、入社当時から掘削現場において泥水技術を提供するマッド(泥水)エンジニアとして働いていた経歴がある。
「私たちは研究も行っています。そのラボで、まず泥水に慣れることも含めて泥水技術の知識を学びます。そしてエンジニアとなるべく、先輩エンジニアとともに現場で研修する。そこでさまざまなことを実地で学んでいって、2年目からは先輩のサポートつきでエンジニアとして現場を担当するようになります」
また、掘削作業そのものを知らないといけないので、グループ会社で掘削作業そのものを研修するという。「現場での経験が絶対的に必要となる」と話すのは現在エンジニアとして働く石川弘樹。「もちろん最初に地質などの情報から計画書が作られます。しかし実際に現場へ赴いてからのほうが大変です。掘削する条件にあっているかなどを試験し、適切な泥水を作るところから始まります」
テルナイトは70年という歴史のある会社なので、全国各地の地質を含めたさまざまなデータを持っている。その豊富な情報から泥水組成のあたりをつけるが、実際に現地に行って試験をして最適な泥水を作る。決まった答えのない作業なのだ。「なかなか難しい作業という反面、それぞれによって違うところが面白く、やりがいのあるところでもあります。また、掘削作業中も掘り進めれば状況が変わってくるので、それに合わせて泥水も作り替えていかないといけません」と言う。
泥水によって、掘削作業がうまくいかないことや、最悪の場合は作業がストップしてしまうこともある。泥水はそれほど大きな役割を果たしているのだ。「プレッシャーがないといえばうそになりますが、さっきも言ったようにそれだけ重要な作業だということでやりがいにもつながっています」と石川弘樹は話してくれた。
まさにいま研修中というのが、ミャンマー出身のAUNG YE HTUT(アゥン・エイ・トゥ)だ。母国の大学で石油工学を勉強し、その後日本の大学院で環境について学んだあとに、テルナイトに入社した。「テルナイトではビジネスマナーから学ばせてもらいました。ミャンマー出身ということもあり、文化や言葉が違うのでこの研修がとても役に立ちました。いまようやく現場で泥水技術を学んでいるところです。さまざま学ぶことがありとても楽しいです。今後はきちんと技術を身に付けて、お客様といいコミュニケーションをとっていきたいと思います。また、もし機会があるならばここで得た知識、技術をミャンマーに持ち帰って、インフラ整備などに協力できればと思っています」と話してくれた。
テルナイトは、もともと(株)INPEX(旧帝国石油)の製造子会社として始まった会社。1955年に「帝石テルナイト工業」として設立されて以来、70年近い歴史を持つ。その長い歴史のなかで、エネルギー開発、社会インフラの整備を通じ、日本の社会を支えてきた。またその技術も長年積み重なってきたものだ。藤井は「最初は水だけで掘っていたのが、そこにたまたま粘土が入ったものを使ってみたら穴が崩れなかったというのが、泥水技術の始まりになります。その後、泥水はさまざまな研究がなされて発展してきました。そして何より、掘削現場で経験を積んで、技術は磨かれていきました。その技術は未来へつないでいきたいと思っています」と話してくれた。
この技術をつなぐことは、未来を作ることになる。石油、天然ガス、地熱といったエネルギー開発はこれからも進むだろう。そしてインフラに関する工事もあるはずだ。そして何より、CCSを中心に環境へ配慮した取り組みが進められていくことで、持続可能な社会が作られていく。そのなかで活躍するのがテルナイトの技術なのだ。