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「人は食を抜きにしては生活できない」清潔な工場で、安心・安全な製品づくり

竹本産業株式会社 / 豚脂で日本中の食を支える食品製造業

インタビュー記事

更新日 : 2023年12月07日

私たちがいつも口にするウインナーやハム。そこに脂がなければ、味気ないものになってしまう。ウインナーやハムは肉のおいしさももちろんだが、副原料としての脂が食味の決め手のひとつになる。その「おいしさ」を担っているのが、今回話を伺った竹本産業株式会社だ。どんな想いが全国トップシェアを作り出したのか聞いてみた。
 

竹本産業株式会社 事業概要

1985年、酒田市に豚脂の加工業者として設立された。豚脂加工品とは、サラミやソーセージ、そのほかシュウマイなどの冷凍食品、即席麺のスープなどに使われるもの。製品の風味や食味には欠かせない副原料のひとつだ。全国でもこの業態は珍しく、全国シェアも大きく、とくにサラミなどに使う食用油脂製品に関しては7割近くを占めている。
 創業から3年後には酒田市大宮町に自社工場を建て、2004年には遊佐町の鳥海南工業団地内に1000坪の新工場を構えるなど、生産体制の拡充をしてきた。全量国産豚を使用し品質面での維持、向上を目指すほか、衛生面にも細心の注意を払っている。
 また、2004年に豚脂の粒状加工において特許技術を開発。大手食品会社から多くの受注があった。そのほか自社開発の技術「トンネルフリーザー」は、冷凍のまま製造に使える豚脂を作るもの。食品製造メーカー側が豚脂を解凍するコストを削減することができ、メーカーから高い評価を得ている。「人は食を抜きにしては生活できない」を経営理念として新しい製品開発に日々挑戦している会社だ。

他の追随を許さないこだわり

 竹本産業は1985年に設立された食用油脂加工会社。食用油脂とは、食材本来の脂とは別に、副原料として使われる脂だ。例えばハムやソーセージ類などを作る際に、味や香り、食味を整えるために使われる。そのほか、シュウマイやギョウザといった各種冷凍食品に使用される油脂も製造している。また、即席麺などのラーメンスープに使われるラードの製造もしている。「全国でも珍しい業態」と代表取締役の竹本栄藏は言うが、竹本産業は例えばサラミに関しては大手メーカーといわれる2社のほぼすべての油脂を製造しており、全国シェアでも7割近くを占めている。
 その理由のひとつがこだわりだ。竹本は「人は食を抜きに生きていくことはできません。だからこそ、口にするものが、おいしくて安全であることは最も大事だと考えています」と話す。その理念から、品質管理、安全・衛生管理にとことんこだわっている。竹本産業が扱うのは100%国産の豚脂。価格面を考えれば、輸入豚を使うことも視野に入れたほうがいいかもしれないのだが、試してみたところやはり味が安定しないということで、100%国産での製造を決めた。メーカーからは「安くできないか」と価格でオファーを受けることもあるというが、品質面を考えてそれはできないと断っているという。衛生面も含めて、品質管理に徹底的に努めており、この業界ではほとんどないISO9001(品質管理)、ISO22000(衛生面を含めた食品安全管理)を取得している。それが評価されて、現在のシェアにたどり着き、維持できているのだ。

新技術を自社で開発

 竹本産業が支持されるもうひとつの理由は、メーカーを考えた開発だ。お客様を意識するというのは当たり前のことのようにも思えるが、竹本産業はそれを徹底している。例えば「豚身の粒状加工ライン」という特許を取得した。主にサラミ・ソーセージ向け製品で、サイズ1.5mm~10mmの米粒のように細かくカットした脂を「トンネルフリーザー」と呼ばれる自社開発の新技術を通して瞬間凍結する。これにより新鮮なピンク色を残した生の状態に近くなり、使用する際に解凍の手間を省くことができるようになった。
 「このトンネルフリーザーは、メーカーさんの『使うときに解凍が大変なんだ』という声から開発が始まりました。解凍せずに使える油脂製品を作れれば、メーカーとしては大幅なコスト削減になります。また、保存の際に酸化で味が落ちることはないし、長持ちもする。そこで、地元の業者と協力して自社でトンネルフリーザーを開発したんです」
 竹本がそう話すように、この特許新技術は「メーカーの声」から開発されたのだ。また、2004年には遊佐町の鳥海南工業団地内に1000坪の新工場を構えたことも、設備を充実させて、品質の向上、安定した生産体制などを作り出すため、メーカーのことを考えたうえでの英断だったという。さらに、従業員にゆとりをもって働いてもらうためでもあった。「そのゆとりが衛生面にも気を使うことのできるゆとりとなっていったのだと思います」と言う。現在、さらなる新工場も設立し、より対応力の大きな生産体制を作り出している。


働きがいのある職場

 今回インタビューに答えてくれた、第4工場でラード部門を担当する佐藤清太郎は、東京にある化学分析系の専門学校を卒業した人物。友人も多くが食品関連の科学研究職に就くなか、地元の庄内に戻り竹本産業に研究職として就職した。
 「やはり、学生時代に学んだ化学分析系の仕事ができればいいなと思って仕事を探していました。そのなかで見つけたのが竹本産業でした。食品として一般の消費者の方に提供するもの自体を作っているわけではありませんが、たくさんの食品のなかに自社商品が使われている。一般の人に知られていないけど、全国に普及しているのもおもしろいと思ったんです」と佐藤は言う。
 また、新商品の開発に加われることがやりがいのひとつだという。「どういう原料を使って、どれぐらいの時間をかけて工程を加えていくと、どういう製品ができるのか。それをゼロから分析できるのがやりがいです。脂の種類は当然ですが、温度を上げると香ばしくなるなど、ひとつの要素が違えばまるで違うものができるんです。そういったことを分析していくことはとても楽しい作業です」

 仕事のやりがいに関して、もうひとりインタビューに応じてくれた熊谷千秋はまた違った観点からこう話してくれた。
 「ここに入社するまでスーパーの惣菜関連部署で働いていました。だから転職の際も食品関連がいいなと考えていました。そこで、竹本産業を見つけたのですが、履歴書を持ってきた時に工場を見学させてもらったんです。そのときに驚いたのが、清潔さでした。豚の脂を加工する、というと、もしかしたら臭い、汚いというイメージがあるかもしれませんが、正反対でした。きれいで、明るく、働く人の感じもとてもよかったんです。当社は食の安心安全を謳っていますが、工場を見てもらえればそれが行き届いているのがすぐにわかると思います」

 また、福利厚生、職場の雰囲気もやりがいに通じているという。「私も産休をとらせていただきましたが、なにより『とりやすい雰囲気』があるのがうれしい。女性が多いということもありますが、復帰してもすぐに溶け込める雰囲気もあります。また、個人の事情を汲んでくれる働き方もできます。私自身、個人的な都合で午後の6時から病院にいかなくてはならない時期がありました。定時の5時30分まで働いているとそれに間に合わない。そのとき上司に相談したら、働く時間を調節してもらえたんです。そういった相談ができる雰囲気もあります。そういった働く環境は間違いなく、竹本産業で働いていてよかったという仕事のやりがいにつながっていると思います」
 代表取締役の竹本が目指した、仕事の内容、職場環境の充実は、そのようにきちんと伝わっていた。

庄内の地から全国へ

 竹本産業はさらに先を見据えている。品質の向上、安心の提供に力を入れているというのは、これまで話したとおりだが、その先の「環境の配慮」にも尽力している。
 「もともと、遊佐町に工場を移転した理由には、豊かな地下水という利点がありました」と竹本は話す。「水道の水を使うと、温度が高いので工場で一度冷却してから使わないといけないんです。だから、水がきれいなのはいうまでもありませんが、いつでも13度前後という一定した温度の地下水が豊富にあることはまさに私たちにとって恵みだったんです」
 その他にも、水資源の保護、持続可能な畜産業の構築のために、環境に配慮した製造を心がけている。例えば工場を動かすエネルギー。製造工程で発生する排水を脂と水に分離し、脂は工場を稼働させるエネルギー等として100%再利用している。排水としての基準をクリアすることはもちろんだが、コスト管理を徹底することで効率的な稼動を実現している。この取り組みは、震災時の燃料不足時にも、事業継続の強みなったという。そのほか「自社発の産業廃棄物ゼロ」を掲げ、リユース容器や非ダンボール出荷体制の構築など、ランニングコスト削減と環境への配慮を両立させた運営を心がけている。

 「新工場では稼働率を向上しより増産体制を構築してきたいと思っています。一日に全国で6万5000頭ほどの豚が食肉となっています。そのうちの約4500頭ほどを、私たちがさらに油脂加工を行っています。そこから月に300t前後の油脂を生産しています。実はこの油脂は人工合成のできないものなのでこれではまだまだ足りない状態です。あと2000頭ほど、つまり全国の1割ぐらいを扱って畜産農家さんを支援したいと思っています。また、そのうち庄内の豚は少ないといっていい状態です。庄内は豚のおいしい地域なので、もっと地元庄内の豚も扱っていきたいと考えています」
 最後に竹本はそう話してくれた。庄内の地の恵み、そして庄内の企業、人が生み出したものを全国に届けたい。そんな思いで竹本産業は動いている。