−まずは、お二人の経歴から教えていただけますか。
森 友花(以下、森):私は生まれも育ちも関西で、高知の大学に進学しました。博士課程が終わってからもポスドクとして高知で過ごしたので、10年間住んでいたことになりますね。植物を病気にしてしまう細菌について、ずっと研究してきました。
伊藤 正樹(以下、伊藤):私は三重県で生まれ育ち、進学で移り住んだ北海道で博士課程修了までの9年間を過ごしました。大学では化学を学び、大学院では「生命ってなんだ?」というモチベーションから、まずは自分の手でつくれないものかと考えて研究を始めました。自分のつくった分子たちがダイナミックに運動したり群れをつくったり、まるで生きているかのように振る舞う様子にのめり込み、博士課程の修了まで6年間、研究に没頭していました。
−お二人とも、便とは違う研究をされてきたんですね。どのような動機で入社されたんでしょう?
伊藤:大学院では、分子を一から組み上げて生命を目指すアプローチをとっていたのですが、次第に、生命を俯瞰的に捉えることに興味が湧いてきました。スケールを大きくするならいっそ世界中の人々に関わることがしたい。人間に共通するのは食と健康と排泄だ、と考えているときにメタジェンのことを知り、次の瞬間には福田にメールを送っていました。
−それはアツいですね。反応はどうでしたか?
伊藤:まったくの分野外からの連絡だったからか、1度落ち着くようにとたしなめられました。その後メタジェンとその技術について調べ、鶴岡に足を運んでメタジェンのビジョンや目指す世界について話を聞くうちに、病気ゼロ社会をともに実現したいと考えるようになりました。
−森さんは、どんな動機だったんでしょう?
森:そもそもメタジェンに興味を持ったきっかけは、植物と土壌中の細菌の関係性と、人間と腸内細菌の関係性に共通点を見出したことでした。土壌にはたくさんの細菌がいて、いい働きをするものもいれば、悪い働きもするものもいる。そんな、植物の健康を左右する細菌についての研究経験が、メタジェンで活かせるんじゃないかと思ったんです。
−対象が植物から人間に変わることには、違和感はなかったんでしょうか。
森:あまりなかったですね。人間の病気も植物の病気も、私にとっては同じ「社会問題」なので。植物、特に農作物が病気になることは食料供給にも影響を及ぼす問題で、社会全体にとって大きなマイナスです。それをなんとかしたいという植物研究のモチベーションと、メタジェンの一員として「病気ゼロ社会の実現」を目指すことが、私の中ではイコールなんですよね。今は便から人の健康を考えていますが、将来的に植物の健康にも転用できてもおもしろいかも、と思ったことも入社を後押しした要因です。
伊藤:森さんはずっと細菌の研究をしてきた経験を活かして、便に棲む腸内細菌のことを思いながら、日々研究しているんです。
森:今の技術では、腸内環境改善のために腸内細菌を移植するには、便ごと移植する必要がありますが、便を直接体内に戻すのって抵抗ありませんか?そんな抵抗をなくすための技術を、日々考えていますね。
−異分野からメタジェンに入られた方は、結構多いんでしょうか?
森:多いですね。ずっと腸内細菌の研究をしてきたのは、社長の福田と副社長の山田くらいで、あとはそれぞれ違う分野の研究をしてきたメンバーが集まっています。
伊藤:福田が、「自分が知らないことを知っている人に興味が沸く」というスタンスなのも大きいと思います。
森:その結果、バックグラウンドが違うメンバーが集まっているからこその強みが生まれてるよね。
伊藤:大体、福田の「こんなことできるかな?」っていう唐突な発言からはじまるんですけど、「これがあったらあれもできる、これもできる」みたいな感じで、まずは「おもしろそう」「やってみたい」という気持ちが先に出て、それを実現するにはどうするか、みんなで真剣に考える。その時に、強みが発揮されることが多いですね。
−メタジェンの好きなところを教えてください。
森:みんなが気軽に意見を言い合って、どんどん取り入れていこうという雰囲気がすごくあります。研究者って、自分の専門分野を守ろうと壁をつくってしまいがちなんですが、それがメタジェンにはまったくないんですよ。会社のミッション達成のために、それぞれが専門分野を活かしたアイデアを出し合っていい仕事をしていこうというこの空気がすごく好きで、楽しく働けています。
伊藤:僕は、サイエンスを見失わないところですかね。例えば共同研究をしている企業から「この商品に、こんな付加価値をつけたい」というリクエストがあったとしても、確固たるデータが出ていなければ絶対にNOと主張する。まあ、ある意味であたりまえのことではあるんですけど。
森:やっぱり、みんな研究者だからね(笑)。
−研究者の方は、研究のために暮らす場所を変えることに抵抗がないという印象があります。お二人も今までのキャリアを活かして楽しく働きたいと思ったからこその移住だったと思いますが、庄内という初めての土地で暮らすことに特に抵抗はなかったですか?
森・伊藤:すでに二人とも、学生時代に地元をかなり離れていたので、抵抗はなかったですね。
−庄内に来てみて、不便に感じたことはありましたか?
伊藤:移住する前何度かこちらに来たときに、カーシェアがなくて不便だなと感じました。こちらの方は、みなさん車を持っていらっしゃるので需要がないんだとは思いますが、外から来たばかりの人はあると便利なんじゃないですかね。
森:私は雪ですね。はじめてこちらで越す冬が大雪で、あまり出歩けないことがストレスでした。でもその分、ウインタースポーツでも始めようかなと思いましたね。
−実際に暮らしてみて、庄内はいかがですか?
伊藤:季節ごとにおいしい食べものがあるのが、いいですよね。特に、ごはんと漬物がおいしいのがいい。あと温泉がいっぱいあるのもいいですね。
森:私も食べものの話になりますが、大好きなフルーツがたくさんあるのが嬉しいですね。あとは、日本酒。高知もすごくお酒を飲む土地でしたが、こっちは米どころらしい、それだけで楽しめる味わい深いお酒が多いなという印象です。
−新しく入ってくるメンバーに求めることって、何かありますか?
伊藤:本気で病気ゼロ社会を実現するんだっていう強い気持ちが、何より大切だと思います。スキルとかよりも。
森:その気持ちを大前提として、さらに言うなら、自分の居場所を自分で見つけて、やりがいを持って自発的に動ける人がいいと思います。ベンチャーはどこでもそうかもしれませんが、待ちの姿勢になってしまう人は大変かなと思いますね。
−では、最後に今後の展望をお聞かせください。
森:私は、多くの人に便をもっと身近に感じてもらうことが、メタジェンの事業の第一歩なのかなと思っていて。「朝から家族で便の報告をする日常」とか「公共の場でも健康の指標として普通に便の話ができる世界」をつくっていきたいです。
−便から病気ゼロを目指すには、大事な一歩ですね。
森:口の中を健康に保つという考えが広く浸透したのは割と最近のことだと思いますが、それはCMで細菌の画像を流したりすることで、世間の意識が変わってきたからだと思うんです。便って、今はまだ多くの人にとって、トイレに流して手もきれいに洗って、できるだけ自分から遠ざけたいものでしかありません。先日医学部生が集まる場所で仕事の話をしていたときに、ぽろっと「便」の話をしたんですけど、実際に実習で便を扱っている医学部生でも一瞬引いていたくらいなので。でも、便の状態が個人の健康状態の指標になるなどの価値を伝えることができれば、必ず見え方が変わってくると思うんです。具体的に何をすれば効果的なのか見当がつかないし、道のりは長そうですが、世間の意識を変える働きかけにも力を入れていきたいですね。
伊藤:メタジェンは「腸内デザイン応援プロジェクト」(※現「腸内デザイン共創プロジェクト」)というコンソーシアムを組織していて、現在22社の企業に参画していただいています。(※2020年現在30社以上)この活動をもっと加速させるために、どうにかして企業の枠を越えた取り組みをしかけたいんですよね。企業間の枠を越えた商品開発をして、例えばもっとお腹によくなるものができたら、未来はもっと明るくなると思いませんか?
−それはおもしろそうですね。
伊藤:企業単位での取り組みだと、短期的な業績を求められてしまうし、特許の関係で他社商品との共同開発がNGだったりして、やっぱり難しいんです。ただ、企業の枠を越えた新たな商品の開発で世界がより健康に近づくことが証明できれば、これほど素敵な話はないと思っていて。研究者らしく、検証とエビデンスに基づいた提案を粘り強く続けていきたいです。