地域資源を活用して外貨を獲得する
株式会社SHONAIが山形県鶴岡市で創業したのは、たまたまのご縁がきっかけだった。創業者で代表の山中大介は、大手デベロッパーに勤務し充実した日々を過ごしながらも、30歳を前に「社会に新たな価値を創出する」ことを目指し、ゼロからキャリアをスタートする土地として庄内地方を選んだ。日本創生会議が推計した全国の消滅可能性都市に5市町すべてが含まれた庄内地方で、街づくりに取り組もうと考えたのだ。
「まず、街づくりという言葉は非常に胡散臭い言葉です。世の中できちんと定義されていなくて、いわゆるデベロッパーが行う開発投資を街づくりとする企業があれば、カフェを作ることやイベントを行うことが街づくりだと考える人もいる。それだけ曖昧なので、私たちは『地域課題を解決する事業をデザインすること』と街づくりを定義づけました。地域のローカルな課題を解決して、未来に希望を持てる社会をデザインすること。地域課題というのは日本全国で共通しています。人口減少、若年層の流出、経済の縮小が起こっていて、財源も頭打ちの行政主導で課題解決するのには限界がありますから、民間と行政がそれぞれの強みを活かして地域課題に対応し、街づくりを行っていくのがSHONAIの目指しているところです」
2018年に開業した「スイデンテラス」は、庄内の豊かな水田の原風景に地域資源としての価値を見出し、水田に囲まれて宿泊できるホテルとしてデザインされた。庄内地方を知らない人がここにやってくれば、庄内という地域を知ることができる。そして、メディアで紹介されるなどして高く評価されると、そこには地元の人々も誇りを持ち、さらに外から人を呼び込む流れが生まれる。地域を改めてブランディングし、外貨を獲得する手段が観光業だ。歴史や自然、食なども含めた文化という地域資源を掘り起こし、来訪者に提示することで地域のファンは増えていく。SHONAIが考える事業としての「観光」の持続可能性はそこにある。
スイデンテラス 田園ビュー テラス付ダブルルーム
「スイデンテラス」と同じく2018年にオープンした子どもたちの教育施設である「ソライ」は、日々プログラムを拡充し変化し続けており、その背景には山中の教育に対する強い思いがある。
「子どもたちが希望を持てる社会を実現するために、一番と言えるぐらいに重要なのが教育なんです」
山中は「ソライ」のコンセプト「夢中体験」について説明する。
「現在の教育に求められているのは、不確実な未来を生き抜ける力を育てることだと考えています。教育論を色々読むと、どれも方法論は違えども共通しています。すなわち子どもたちにはあらかじめ力が備わっていて、それを引き出してあげるのが教育だといっているんです。だからこそ我々みたいな異端な道を切り拓くチームが教育にフィードバックできることは必ずあるはずです。子どもたちから天性のものを引き出してあげるためのコンセプトとして、『夢中体験』という言葉を使っています。不確実な未来に向けて、自分にはこういう役割が果たせると自己肯定できる感覚を生み出すのは夢中体験だと思いますし、そのきっかけをたくさん提供してあげたいと思っています」
「ソライ」では地域課題の解決に向け、学童教育も開始した。そして、地域全体が教育に参加できる仕組みを作ろうと、電気料金の一部が教育に投資される電力「ソライでんき」も創業し、コンセプトに賛同する契約者は増加している。
キッズドームソライ 外観
キッズドームソライ ツクルバ
キッズドームソライ アソビバ
豊かな人材と教育の充実は未来に不可欠
さらに必要なのは、人口減少を抑えるための施策だ。つまり「人材」である。進学や就職のために都市部へと流出した若者たちをどうやって呼び戻すか。もしくは都市部以外での生き方を検討している若者をどう取り込むのか。地域内にも若者を成長させる意識を持った企業は多くあるのだが、顕在化していないがために、「地元にはおもしろい仕事がない」と決めつけて若者たちは地元に戻ろうとしない。地域にも魅力的な仕事があり、同時に、豊かな生活も実現できる魅力があることを発信するために、「ショウナイズカン」という庄内地域に特化したリクルートメディアを立ち上げた。
「この仕組みは全国の地方都市に展開することができるビジネスモデルです。若い人に向けてメッセージを発信する未来志向の企業と手を組み、各地で地域の魅力を発信し、若くて意欲的な人材を呼び戻すことは可能だと考えています」
ショウナイズカン
最後に、若者の職業の一つの選択肢として大きなポテンシャルを持つのが、持続可能な有機農業だ。日本は農業生産国として気候にも恵まれており、また有機農業はマーケットとしても成長を続けている。生産と流通の仕組みを整備して有機農業の産地形成を実現することで地域の経済は豊かになっていく。そのために山中は、農地での生産を知らずに農業を語ることはできないと考え、まず2018年にビニールハウスを自社で設置し有機野菜の生産を開始した。やがて「NEWGREEN」として分社化して流通にも着手し、自社生産した野菜のみではなく、地域の農家と連携して高品質な野菜を「ショウナイルーツ」のブランドで地域内外のスーパーマーケットやデパート、ECで販売網を広げている。また、スイデンテラスを訪れるゲストへの収穫体験プランも提供しており、単なる農業生産には留まらない。
生産を続けて得た経験や、協力農家から得た知見からは、さらに人材育成やロボット開発にも展開し、有機米を効率よく育てるロボット開発(通称:アイガモロボット)に取り組む。その先には、日本の農業を持続可能にすることを力強く見据えている。
NEWGREEN圃場
SHONAI ROOTSセット一例
研修風景
アイガモロボット
「地域に何が必要かを考え事業化する際には、自分たちにとっても関係者にとっても地域にとってもメリットがあるか、そして何よりそれはワクワクするものなのか。その感覚が一番大事。我々のモチベーションは社会を良くすることであって、自分たちで価値を生み出し、未来にワクワクしたい。そのために資金は必要だけど、お金稼ぎが目的となってはいけない。どういう社会を実現したいのかの議論が先にあり、それを実現するためにビジネスがある。僕らは理想の社会づくりにビジネスで挑む。そのためにあらゆるリスクをとっていくのがSHONAIです」
庄内を日本の地方都市のロールモデルに
地域の企業や金融、個人の出資から事業が動き始めたヤマガタデザインだが、事業規模が大きくなればさらなる発展のためにはより多くの資本が必要となってくる。2020年7月にクールジャパン機構から、「スイデンテラス」をハブとするインバウンド・地方創生事業に最大15億円の出資が決まったことをはじめ、地域外の提携企業からの出資も増えている。これまでの取り組みと未来への展望が評価され、日本全国の課題を解決するポテンシャルに投資しようと、各地の企業や団体がヤマガタデザインに注目するようになった。
「地域の外から資金を調達できるようになったのは、グループとして大きな成長だと思っています。地域の課題を地域の資本だけで解決することには限界がありますし、地域の人に主体性を持ってやりましょうと声がけをしたときに、数パーセントの人にはすごく響き、共感してもらえるのですが、当然ながら受け身の人たちが大多数いるのも事実です。そうなったときに、外から資金を引っ張ってきてより大きな視点で事業展望を掲げることで、関わってもらえる地域の人は確実に増え、事業としてもさらに成長できます」
庄内をロールモデルに、現時点では「観光」「教育」「人材」「農業」の4カテゴリーで、日本の社会の課題解決に向け、各地の行政や企業との知見やビジョンの共有を目指す。
「全国の地方都市が共通の課題を抱える現在、僕らは山形庄内というひとつの地域の課題を解決することが、日本社会全体の解決につながるということを訴え続けてきました。つまり、設立からの7年間、僕らが何に投資をしてきたかというと、私たちの取り組みそのものに対する共感の獲得なんですよ。自分たちが暮らす地域の課題を把握し、事業としてクリエイティブに解決する。その積み重ねで住みやすい魅力的な街をつくることができる。私たちは今、庄内地域の街づくりで得たノウハウを全国展開用のプラットフォームとして構築し、全国の地方都市の街づくりのお手伝いができる段階にまできたと考えています。」
人間性、経済性、環境性というバランスが取れた社会をどのように実現するか。これからの時代の大きなテーマをそう捉えている山中は、庄内地方をひとつのロールモデルに、地域課題を解決する事業をデザインし続ける。
自分たちが作りたい未来は自分たちが作っていく
4カテゴリーで事業を展開し、それぞれにスピード感を持って成長を続けるSHONAIではオープンポジションの求人を開始する。山中が望むのは「当事者意識と責任感を持ち、その解決に向けてやり抜ける人」だ。
「仕事があるから人がいるのか、人がいるから仕事が生まれるのか、どちらのケースもあることが事業を続けてきてわかりました。その可能性にかけ続けることは大切です。地方都市で経済規模が縮小していくなかで、リスクをとって先行投資をしていかないことには、どうしても縮小を止めることはできません。だからこそオープンポジションでの人材募集が必要なのです。ヤマガタデザインはエキサイティングな会社だと思いますよ」
自分たちが作りたい未来は自分たちで作っていく。SHONAI内で社員たちが共有しているのは、そうしたマインドだ。事業を成功させて経済成長を果たしたら、地域をさらに住みやすくするために事業を考案し、再投資することで持続可能な開発を進める。さらには庄内地方をロールモデルに、全国の地方都市や農村部などの課題解決のために経験を共有する。事業内容を限定することなく活動を続けてきて、山中はひとつの目標があるという。
「いつか、地方都市や農村部の子どもが、東京などの大学を経由せずにハーバードなど海外の優秀な大学に直接進学できる社会を作りたいと思っています。それは何を意味しているか。ひとつは日本人がアメリカの大学に行くとなると、数百万円の学費と滞在費、それを支払えるだけの年収を農業が実現しているということ。もうひとつが、それだけの教育環境が地域にあるということ。高い教育に触れる機会がなければ、そうした大学を目指す動機は生まれませんから。SHONAIはこれからも事業成長を続け、夢見る子どもたちが海外に留学するときの返還不要な奨学金を出せるようになりたいと思っています」
庄内を世界で最も幸福な地域にしたい。そんな思いから創業したSHONAIは、地方都市の課題解決も見据えて、事業をデザインする会社として進化を続けている。分野も職種も問わず、地域課題に対して問題意識を持つ人々には働きがいのある職場となるはずだ。