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庄内のランドマークとなる。水田に浮かぶホテルのいまとこれから。

株式会社LOCAL RESORTS / SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE/庄内の魅力発信担当(フロントスタッフ・レストランサービススタッフ)

インタビュー記事

更新日 : 2024年11月18日

水田に浮かぶように建つホテル、SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(以下スイデンテラス)。2018年のオープン以来、県内外のみならず海外からも多くの人が訪れる。2021年6月に中弥生氏が新たに総支配人に就任し、“地域密着型”をより深化する形で進んでいく。新型コロナウイルス感染症の流行という未曽有の事態にも見舞われるなか、スイデンテラスはどう変わろうとしているのか、中総支配人と現場で働く3人に聞いた。

株式会社LOCAL RESORTS 事業概要

スイデンテラスは、山形庄内の街づくり会社株式会社SHONAIが運営するホテル。その名が示す通り、庄内の原風景のひとつである“水田”のなかに浮かぶように建つホテルだ。 2016年に着工。設計はフランス芸術文化勲章コマンドゥール(2014)、プリツカー建築賞(2014)など数々の賞を受賞している世界的建築家、坂茂氏が手がけた。2018年のグランドオープン以来、県内外だけでなく、海外からの旅行客でも賑わう。ホテル内のレストランでは地元の食材を使ったメニューが多く、宿泊に訪れる方だけでなく、地元の方々にも評判が良い。2020年8月にはバーラウンジとライブラリ、新たに露天風呂を新設し男女入替制とし、2021年4月にはデザイナーズサウナを新設した。2021年6月には中弥生氏が新たに総支配人に就任し、地域とのつながりをより深める形でハードとソフトともに常に進化し続けている。


 

“建築物”としても評価の高いホテル

春には水を張ったばかりの田んぼに浮かぶ。夏には力強い緑の田んぼの中に存在感を漂わせる。そして秋には黄金に色づいた稲穂に囲まれる。一年のなかで、さまざまな表情を見せるスイデンテラス。庄内において多くの事業を通じて地域の課題を解決するまちづくり会社 ヤマガタデザインが運営するホテルだ。

世界的な建築家の坂茂氏が設計を手掛け、建物そのものとしても評価が高い。坂氏は「四季折々表情を変える水田風景に、いかに建築を調和させるかが重要でした」(公式HPより)と述べている。その言葉通り、田植えの時期には青々とした風景になじみ、秋には稲穂の金色のなかに佇むといったようにひとつの庄内の風景としてそこに存在する。また基幹部以外はほぼ木造建築となっているほか、坂氏がよく使用する紙をテーマにしたプロダクトをここでも使用しホテル空間内には紙管(しかん)の装飾や椅子などが配置されている。外観も内観も自然に溶け込みながらも、その存在感を身体に感じる建築物だ。

「庄内観光の拠点ホテルとして利用してくれるお客様とともに、“スイデンテラスそのものを目指してきてくれる人”が多いと思っている」と話すのは、2021年6月より総支配人に就任した中弥生だ。中は日本全国のラグジュアリーホテルなどでホテル運営を経験し、宿泊施設としてだけでない付加価値の創出に尽力するという銀座グランドホテルのリブランドプロジェクトに参画するなどした人物。その後、三井ガーデンホテルズではそれまでの経験を生かし、地域の価値を生かしたホテル運営を実践した。2019年からスイデンテラスの運営にも参加し、2021年6月から総支配人に就任した。

「坂さんの設計やそのコンセプトを含んだ“建物”という点においては競合がいない。これは日本全国でも珍しいと思います。だからその点では必ずオンリーワンになれると信じています」

まちづくりの発信基地になる

 中は続けてこう言う。「まずはスイデンテラスそのものを目指して来ていただく。そして次はエリアのよさを伝えたいと考えています。ホテルとしてはまだまだ地域とのネットワークが弱いと感じているので、これからはより深めていきたいと思っています」

 中がスイデンテラスに関わるようになったのは、2019年12月から。新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し始めるまさにそのときだった。その後は語るまでもないが我々の生活は変化し、それとともに観光業界も激変していった。そもそも、日本のレジャーの考え方は、仕事の合間に休みを取る、その休みを利用して旅行に行く、というものだと中は言う。だから観光業界は選択肢で言うと“最後”。そうなれば、新型コロナウイルス感染症というある意味有事ともいえる状況が、観光業界に与えたダメージは想像に難くない。

そのなかでスイデンテラスは2020年8月に大きなリニューアルオープンをした。新たに“晴耕雨読の時を過ごす、田んぼに浮かぶホテル”をコンセプトに掲げ、施設の充実だけでなく、農業体験をはじめとする様々な体験プログラムを用意してのリニューアルだった。まさに中が言う「地域とのネットワーク」を強めていくリニューアルだった。

「新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活を変えました。それにより新たに見えてきたこともあると思います。スイデンテラスとしては、“食の重要性”というものがより見えてきた。例えば“かっこいい”というのは、時代とともに変わるもの。だからホテルとしては客室しか提供しないというのでは長くは続かないんですね。そこで我々が感じた食の重要性をカタチにしていけたらと思っています」

2020年のリニューアルのポイントのひとつがレストラン環境の整備だった。スイデンテラスの掲げる「“Farm to Table”の実現」をより具体的に目指すものだった。中は株式会社SHONAIという、まちづくり会社におけるスイデンテラスの位置づけは“発信基地”という側面があると話してくれた。

「SHONAIのコンセプトをカタチにするという意味では、ホテル事業はわかりやすい分野のひとつ。事例としては、レストランなどでのSHONAI ROOTSとのコラボです」  SHONAI ROOTSとは、持続可能な農業を庄内からをコンセプトとして、地元JAと連携してSHONAIが立ち上げた有機農業等のブランド。その野菜をレストランで使うことで、利用客に庄内のよさを伝えるとともに、地域とより深くつながっていく。まさにSHONAIのまちづくりの発信基地的な役割といえるだろう。

宿泊をホテル運営における静のサービスだとするならば、レストランは動のサービスだという。“動”という言葉が表すようにレストランでのコラボのほかにも、ホテルのロビーでマルシェを開くといった形で庄内と利用客をつなぐサービスを提供している。

「食に関しては、SHONAIのリソースを使ってもっとできることがあると思っています。例えばソライと連携して、子どもたちの食育だってできる。そのほか、修学旅行などとコラボすることで、ソライ×教育×スイデンテラスという形で何かできるかもしれない」

そんなふうに今後のビジョンを中は話してくれた。

スイデンテラスでは、2021年4月にホテルと同じ坂氏の設計によるデザイナーズサウナを新設し、天然温泉・フィットネスを含む施設であるスパ棟をリニューアルオープンした。開放的なテラスで行う朝ヨガや、レストランでは自社栽培野菜を使用したヘルシーなメニューを準備するなど、新たなスパプログラムもスタートした。これにより、連泊のお客様も増えたという。利用客の満足度は高まり、ただ単に“泊まるだけ”ではない、体験という記憶を提供している。これも中の言う“動のサービス”のひとつだろう。

 

庄内の魅力を伝え、地元とつなぐ

“伝える”“つなぐ”というキーワードは現場で働く3人からも聞くことができた。現在料飲に所属し、レストランを担当している持田絢乃はIターンでスイデンテラスに入社した。きっかけは「庄内が好きになったから」だという。

「旅行で庄内に来たときに、すごく素敵だなと思って。食はいつ来ても旬があるし、地元の人たちがすごくあたたかい。来るたびに“よぐ来たのー”と言ってくれるんです。私にとってすごく記憶に残る場所だったんです。だからこれから庄内を訪れる人にもそうなってほしい。また、今後は地元の農家の方など、生産者の方たちとスイデンテラス利用者の方をつなぐことを積極的にしていきたいと思います」

鶴岡出身で大学卒業後、ラジオ局に就職。そののちに旅行会社に転職した佐藤雄太も、同じように地元の魅力を伝えたいという想いでスイデンテラスに就職した。

「地元の魅力を発信したいと思って仕事を探したんです。鶴岡は魅力的なものが多いんですよ。観光資源もたくさんあるし、ゆっくりしたい、おいしいものを食べたいというニーズにもこたえられる。そんな贅沢な場所なんです。それをスイデンテラスから発信していきたいと考えています。コロナ以降の変化でワーケーションという考え方が広まってきました。庄内、鶴岡、スイデンテラスはそれに適している場所だと思うので、ワーケーションでの利用という発信もしていければうれしいです」

 2019年に新卒として入社した渡部瑞希も地元出身。千葉の大学を卒業後、就職の際には地元に帰ることを考えていたという。

「地元に帰りたいというのと、英語を使った仕事をしたいということを考えて仕事を探していました。それで、SHONAI、スイデンテラスに面接に来ました。でもここで働きたいと思った決定打は、ホテルそのものやそれを含んだ景色が“きれいだな”ってそのときに思ったことでした」

そんなふうに笑って話す。団体客では香港や中国、個人ではアメリカやイギリスのお客様が多く、英語でのコミュニケーションも必要になっている。現在は、経営企画室に勤務するが、地元と世界をつなぐ仕事ができたらと考えているという。

 地元の魅力を伝え、“つなぐ”というキーワードで未来を描くスイデンテラス。まちづくりの本質とホテル業の本質はもしかしたら近いところにあるのかもしれないと言ったうえで中はこう話してくれた。「地域密着型を目指すホテルは数多くありますが、地域の魅力を理解し、考え、協業することは一朝一夕でできることではありません。心も体も思考も駆使し続けることが重要。とても大変なことですが、とても充実した時間でもあります。利用者に何を提供でき、地域とどうつながれるか。これからも考え続けていきたいと思います」 スイデンテラスというホテルは、何と何をつなぐのか。農家などの生産者とホテルを訪れるゲスト。地元と子どもたち。庄内と世界。その接続の先には大きな広がりと可能性を秘めている。