最先端の技術を支える仕事
鶴岡市の住宅街のなかにあるオフィス。外見は一般住宅のようで、もしかしたら初めは見落としてしまうかもしれない。そんな住宅街に溶け込むようなオフィスが扱うのは、最先端技術の研究の場で使用される理化学機械。このギャップだけですでに興味深い。今回伺ったサカタ理化学株式会社は1980年の創業以来、研究機関で使用する理化学機械の販売を手がけてきた。取引先は大学などの教育機関から民間企業の研究機関まで幅広い。研究で用いる理化学機械を取扱い、最先端の技術を支える仕事をしている。
理化学機械というと一般に理工学、生物学の分野で理化学的な教育研究に用いる機器装置類を指す。実験環境を作り出す装置から測定、観測、分析などさまざまな装置がある。「理化学」という言葉からは専門的で特別な知識が必要な機械を扱うのだろうと予想できる。たしかに扱う機械のサンプルを見せてもらっても、一般の人間ではどういったものかわからないものも多い。専門的な知識が必要なのだろうと思うが、営業を務める小松原雄大は「知識ゼロで入社しました」と笑って言う。
お手伝いをすることで自分も先頭にいたい
小松原は酒田市の出身。高校では土木科で学んだのち、東北公益文科大学で福祉の勉強をした。学校を卒業したあとに東京へ出て生活をしたあと子育てのことも考えて7年前に帰郷した。帰京後は学生時代の知識を活かして建設関係の営業に従事していたが転職を決意。フリーランスでグラフィックデザインなどの仕事をしたのちサカタ理化学に入社した。生活のためにも安定した会社員になりたいという考えもあったというが、それと同時に時代の最先端に関わりたいという想いもあったという。
「いろいろと不安があったんだと思います。置いていかれてしまうというか。そうして結果的に仕事も先細りになってしまうんじゃないかとか。そう考えているところで、じゃあ先頭に立っていればいいじゃないか、一番先にずっといれば未来に続くんじゃないかと思ったんです。けっこう安易ですけど」
そのなかで最先端の技術を生み出している研究機関の仕事などを探しているうちにサカタ理化学を見つけたという。そのときに専門的な知識はまったくなかったという。それよりもその分野で最も先を行く現場で仕事ができるということに興味を持ったそうだ。
「もちろんそこからある程度知識をつけていったわけですけど、それはあまり苦にはならなかったですね。それよりもお客様は最先端の技術を研究している現場なので、常に新しいことを聞かれるんです。営業という仕事なのでこちらから提案していかないといけないんですけど、逆にお客様に協力していただいているというところもありますね」
そうして常に新しい領域に踏み込んでいける環境で仕事ができている毎日がすごく充実していると話してくれた。
研究に参加する感覚
「お客様に協力していただいているという感覚とともに、共同研究というと言いすぎですが、いっしょに研究に参加しているという感覚もあってそれがすごくやりがいにつながっています」
そう話すのは、同じく営業を務める丸山裕晃。丸山は高校卒業後に釧路公立大学に進学。就職を機に庄内に戻ってきた。本人は営業職を望んでいたが、新卒で入社した会社では経理を担当。入社後も営業への異動希望を出し数年後に営業職に就いた。
「ただ、そこは私ひとりだったんです。営業を希望していましたが経験ゼロ。それでひとりきりというのは正直なところつらかったです。サカタ理化学では商品知識はゼロでしたが、そのかわり先輩からいろいろ教えてもらえる。その環境はすごくうれしいですね。学生時代にラーメン屋でバイトをしていたときに思ったことですが、仕事って何をするかより誰とするかのほうが自分にとっては大事だなって。その面ではいまの環境はとてもありがたいと感じています」
話してくれたように、丸山も小松原と同じく専門的な知識はゼロでの入社だった。その後職場で先輩や上司に教えてもらうとともに、メーカーの研修会、研究会に参加し知識をつけていった。そのモチベーションとなったのは「研究に参加している」という感覚だったという。
「例えばずっと山形大学農学部の先生とお仕事をさせていただいているんですが、まず研究の一連の流れを聞かせてもらうんですね。もちろんわかるところとわからないところがあるし、自分の仕事と直接関係がないところもあります。でもそうやってひとつの研究の行き着く先が見えることで、自分たち仕事がどう形になるのかもわかるし、会社が協力できるところも見えてくる。それがあるかないかで大きくモチベーションは変わってきますね」
最初に話を聞いた小松原も同じことを話してくれた。自分たちが関わって新しい技術ができる。その技術を先取りして想像できる。「なるほど。こんなことができるようになるんだってワクワクしますね」と楽しそうに話してくれた。
「モノを売る営業という仕事ですが、お客さんと何か協力して仕事をしたいという感覚はありますね。だって商品はネットでも買えるのに、わざわざ営業という仕事がある。それは“人”とのコミュニケーションがやっぱり必要だということだと思うんです。だから積極的にいろいろなことに参加していきたいと思っています」
もちろん、取引先から注文を受けてそれを納品するという、言ってしまえば御用聞きのように仕事をすることもできるのだろう。専門的な現場であるがゆえにそういうシーンもあるはずだ。だが、コミュニケーションを積極的にとることで、自らも“参加”しながらクリエイティブな仕事ができる場面を作ることもできる。クリエイティブな現場を楽しみながら働く二人の表情は常に楽しそうに輝いていた。