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ユーザー・インで心を動かす 消費者の視点で、生活にワクワクと豊かさを

酒田米菓株式会社 / 酒田米菓株式会社/煎餅クリエイター、製造部幹部候補

インタビュー記事

更新日 : 2024年07月09日

山形のみならず、東北の人間なら誰もが知っている「オランダせんべい」。米の風味を活かした、庄内のソウルフードとも呼べるせんべいだ。そのオランダせんべいを作っているのが、昭和26年(1951年)創業という歴史を持つ酒田米菓。素材にこだわり地元山形県庄内産をはじめとした国産の米を使用している。ただし、古くからの伝統を守っているだけかといえばそうではない。精力的に新商品を開発するほか、一般公開している工場「オランダせんべいFACTORY」や米粉を使ったパンケーキなどが食べられるカフェ「cafe de ola」などさまざまな展開を試みている。その根底にあるのは「ユーザー・イン」という考え。老舗米菓会社がこれから庄内でできること。その未来を聞いた。

酒田米菓株式会社 事業概要

昭和26年(1951年)創業。70年近い歴史を持つ、老舗スナックメーカーだ。米どころ山形。創業者の佐藤栄一が「地元の特産品を守りたい」との想いから、庄内の米を使ったせんべいを売り出したのがはじまりだという。代表商品は「オランダせんべい」や「鏡せんべい」。特に昭和37年に発売された「オランダせんべい」は広く愛され、山形のみならず東北に住む人なら誰でも知っている銘菓となった。米の風味を活かすために、出荷まで自社工場で一貫して生産するこだわりようだ。また、機械製造だけでなく重要な工程はいまだに職人による手作業で仕上げており、安心して食せるふるさとの味を守りつづけている。 ただし、長い伝統を守るだけではない。精力的に新商品を開発。米菓だけでなく、チョコレートを使った商品や、国産米のせんべいが入った酒田米菓オリジナルのグラノーラなど幅広い商品を展開。そのほか一般公開している工場「オランダせんべいFACTORY」や米粉を使ったパンケーキなどが食べられるカフェ「cafe de ola」などさまざまな展開を試みている。「会社の資産、資材を使って生活を楽しくしたい」と代表取締役社長の佐藤栄司が言うように、常に新たなチャレンジを続ける老舗スナックメーカーだ。

プロダクト・アウトからユーザー・インに

「商品開発からすべてをユーザー・インで行わないと時代に即した会社になれないと思っています」。そう話すのは酒田米菓代表取締役の佐藤栄司だ。
「これまでのようにプロダクト・アウトで、これを作ったから買ってとこちらの都合を優先して商品開発をしていてはいい商品を作るのには限界がある。消費者のなかに入っていって商品開発をしてこそ“いま”の商品ができる」
時代とともに人も市場も当然ながら変わる。味覚はもちろん、物の選び方、買い方、つまり生活のスタイルも変わっていく。
「味だけではありません。買ってもらう、手にとってもらう形も変わってくる。例えばこれまでのように大手スーパーだけをビジネスの相手にするとどうしても値段ばかりが勝負になってしまうんです。足し算の商売とでもいうのでしょうか。それだけだと動けなくなってしまうんです。それよりもお客様が何を求めているか、お客様にどのように届けるかをユーザー・インの視点から導き出すようにしています」

そうして生まれた新商品のひとつが『カムフィット』シリーズの新商品「Happycome(ハッピーカム)」だ。カムフィットは人が生きていく原点である「噛む」ことの大切さを再認識し、健康で明るい未来が築かれることを願ってつくられたブランドで、新商品のハッピーカムは歯ごたえのある玄米クラッカーに、4種類のドライフルーツやナッツなどをバランスよく配合し、噛みごたえがあり、少量でも満腹感が得られるグラノーラ。小さくなっているせんべいを普段の食事にまぜて噛む力を強くするという予防医療的な発想から生まれたものだ。管理栄養士の指導のもと医学的観点を取り入れて開発された。小さな子どもから高齢者までさまざまな用途を考え、味も数種類用意。同時にレシピも開発しているという。2019年4月に行われた医療関係の定例勉強会でリリースされ、多くの関係者が興味を寄せている。一般販売も予定しているという。

「せんべい屋から始まった」と佐藤がいう米菓会社が、“お菓子”ではないものを作り出す。たしかに「足し算の商売」では生まれてこなかった商品だろう。

新しい市場でのチャレンジ

商品開発のみならず、一般公開している工場「オランダせんべいFACTORY」の開設や米粉を使ったパンケーキなどが食べられるカフェ「cafe de ola」など、老舗メーカーながら常に新しいチャレンジを試みる酒田米菓。その精神は現場ではどのように生かされているのか。企画室リーダーの小野賢人と企画室で商品開発を担当する大沼茉衣子の2人に話を聞いた。

-酒田米菓というと、オランダせんべいが有名で、老舗メーカーという印象もあるのですが、一方でチャンレンジングな会社という印象もあります。

小野:やりたいなと思ったことはすぐに提案できる雰囲気はありますね。

大沼:事業計画書がきちんと示されているので、それに沿っていればどんな提案でも受け入れてくれる。もちろん実現するかしないかというのは別として、まずは提案ができるという雰囲気があります。

小野:わたしはいつも、お米を「せんべい」以外に使えないかと考えているんです。

-せんべい以外に?

小野:はい。もちろん弊社は米菓メーカーなのでベースはせんべい作り。でもそれプラスアルファで何かを提供したいと。2018年に酒田東高校と取り組んだせんべいモザイクアートのギネス記録挑戦企画も“せんべい以外”のところもあります。

大沼:それでいくと、「九九せんべい」もそうかもしれない。せんべいにプラスアルファをする。

-その考えの中から具体的に商品になったものはどんなものが?

小野:犬のおやつを作ったんです。

大沼:これは確かにせんべい以外と言えばまさにそうですね。

小野:ある出版社の方とのつながりから、犬の気持ちを伝えることができるというアニマルコミュニケーターのアネラさんがプロデュースで、木村秋則さんが育てた無農薬、無施肥のリンゴと木村式自然栽培の玄米のみを使用した商品を作る企画に参加させてもらったんです。犬用の高級お菓子「犬の健康お菓子 ブラウンライスロースト」という商品です。犬用というのはかなりチャレンジでしたね。製造の過程もそうですが、人が口にするせんべいと同じラインを使うということでお客様からクレームが来ないかなど、さまざまな課題がありましたが、これまでの技術と経験を活かして製品化することができました。私たちとしては、新しい市場のチャレンジにもなりましたね。

風通しのいい社内で“楽しく”

-社長にお話を聞いたときに「弊社の資産、資材を使って楽しくなれば」という言葉も出てきました。

小野:そういう精神は現場にも伝わっていますね。

大沼:たしかに。私はまだ入社から日が浅いうえに、前職も米菓メーカーではありませんでした。それでもいきなり酒田米菓の顔ともいえる「オランダちゃん」関連グッズの企画、デザインを担当させてもらえたんです。いきなりで大変な部分もありましたが、それだけにすごく楽しかった。社内社外と折衝しながらよりいいものができればと楽しんで作ることができました。

小野:社長の言う「楽しくなれば」という言葉のなかには、私たち社員が楽しむとともに、お客様にも楽しんでもらうという意味も当然あると思います。だから「おいしいものを作ったよ」というだけでなく、どういったものを求めているかというところをリサーチして、この商品を買ってくれたお客様がどう変わっていくかということも想像しながらチャレンジをしています。

大沼:ちょっと話がそれるかもしれないのですが、私は旦那が子育てを機に地元に戻りたいということでIターンでこちらに移住してきました。仕事の探し方もわからないような状態だったんですね、実は。そんななか、移住前はできなかった責任のある仕事ができていまものすごく充実しています。移住前は友人から「山形なんて何もないよ」なんて言われていたんですが、こちらへ来てみると気持ちのいい生活ができています。最近釣りも始めたんです。いつかは船釣りをしてみたいなと思っています(笑)

米菓を含めた商品開発だけでなく、一般公開している工場「オランダせんべいFACTORY」の開設や米粉を使ったパンケーキなどが食べられるカフェ「cafe de ola」など、さまざまな方面でのチャレンジが目立つが、根本にはやはり“おいしいものを作ること”という想いがある。
「米をご飯として食べるときは“おいしいご飯”“安全な米”とこだわりますよね。それと同様にせんべいの素材として使う米にもこだわりを持っています」という。酒田米菓では地元山形県庄内産をはじめ、すべて国産の米で安全な商品を作っている。そのクオリティをクリアしたうえで「買った先にある楽しさ」を想像しながら、日々チャレンジが続いている。