特殊な作業を要する基礎開発工事
株式会社大栄の創業は40年ほど前の1979年(昭和54年)。会社員時代から基礎開発工事に携わっていた、現社長の高橋舞の祖父が起業。鶴岡市七五三掛地区の地すべり対策から始まり、月山ダムの工事など様々な基礎開発工事に携わってきた。のちに、県外の仕事も受注するようになり発展を遂げてきた会社だ。
基礎開発工事という言葉はもしかしたらあまり聞かない言葉かもしれない。例えば住宅を建てるときにも建物の土台となる基礎を作る。それと同じように、道路や橋などにも土台となる基礎工事が必要になる。ただし道路、橋となればその規模が住宅に比べてはるかに大きいことは容易に想像できる。しかも住宅のように平地に建てるのではなく、山のなかなど複雑な地形の場所に建てることが多い。そのため工事も複雑かつ大規模なものになる。さらに言えば重機などの機械も特殊なものを使うことが多く工事の特殊性、専門性は高いといえる。高橋に自社の強みを聞いたときに最初に返ってきた答えがそれだった。
「道路などのインフラや防災対策の設備の基礎開発工事をしている会社は山形県内には一社のみ。東北に範囲を広げてもほとんどありません。それと大型の重機を自社で持っている会社はほとんどないと思います。実は重機のなかにはリースにもなかなか見つからないものもあるんです。そういったものを持っているというのは、作業効率が高く、コスト競争力もあります。創業から40年続けてきた経験とそうして積み上げてきたノウハウが当社の強みです」と話す。
人々の生活を“下”から支える
続けて高橋は「私たちの仕事は、暮らしを支える仕事だとも思っています」と言う。「そもそも創業が地すべりなどの災害対策の仕事をしたいというところから始まっていることもありますし、ダムや道路、橋などの生活インフラの工事が多い。だから自分たちを含めた周辺住民の生活を支えていると考えて日々の仕事を進めています」
今回インタビューを行った、佐藤安光、和田芳樹のふたりも同じように「生活を支える仕事」という意識を持っていた。現在、月山道で雪崩防止の防雪柵に関連する工事を担当している佐藤はこう話す。
「災害対策にしても橋脚の基礎工事にしても、自分たちの担当した部分というのは目に見えない部分なんです。簡単に言ってしまえば、穴を掘って工事をしてそれをまた埋めるわけですね。実はそこに少し寂しさもあります。工事が“終わった”という達成感があってもそれをまた埋めてその上に建造物が建っちゃうんで。文字通り縁の下の力持ちですね。それでもそこに関われたという充実感はあります。だから生活を支えているというプライドもどこかにあると思いますね」
ふたりは未経験からの途中入社だ。佐藤は農協からの転職。和田は家具職人からの転職と、ふたりともまったく違う分野からの入社だった。ふたりとも地元出身しかも大栄の近くで育ったということで馴染みがあったということもあるが、「未経験への挑戦で不安はあったけれど、やってみようというほ気持ちのほうが大きかった」と話してくれた。
そもそもさきほども述べたように工事自体が特殊な工事ということもあり、ほとんどの人間が未経験からのスタートということになるという。そのために人材育成には力を入れている。ふたりも入社からすぐに資格取得をしたというように、資格取得へのバックアップ体制も整えているし、なるべく機械に触れるようにして“実地”で経験を積ませる体制をとっている。そうして技術力の底上げをすることで、業務効率や安全性のアップを図っている。
“機械に触れる”といったが実は重機などの部分での技術革新というのはそれほど行われていない分野だとも話す。だからこそ“実地”というのがひとつのキーワードで経験とノウハウを早い段階から積み上げていくことが何よりの人材育成になるのだという。
「私たちの社是は“積極性、責任感、創意工夫”というものです。未経験の分野なので積極的に動いて覚えていかないといけないというのは当然ですが、現場での責任感、生活を支えている責任感を持つということが大切だと自分としては考えています」と和田は言う。佐藤は創意工夫について「機械はそれほど進化していない分野なんですね。それゆえに計画などに創意工夫が必要になるんだと思っています。それで大きく仕事が効率化できることもあるので、仕事への創意工夫はやりがいのひとつとも感じている」と話してくれた。
特別な仕事だからこそ実現できるワークライフバランス
大型インフラや地すべり、防雪などの災害対策工事が多いということもあり、建設現場は山形、他県に関わらず山のなかであることが多い。そのときには長期の出張になることもある。だがそれが仕事とプライベートのメリハリになることもあると和田は話す。
「山の中へ仕事に行く途中に川を目にすることがあるじゃないですか。自分は釣りが趣味なんですが、ふと“次はこの川に釣りに来てみようかな”って思うことがあるんですね。それで仕事をがんばれるというか。楽しみというか、この仕事ならではのメリハリだと思っています」
佐藤は「休みもきちんと取れているという感覚はあるし、和田の言うようにメリハリは確かに感じますね。自由というか、みんなそれぞれに締めるところは締める。休むところは休む。楽しむところは楽しむという感じがしています」と言う。そこで休みのときは何をしているのか佐藤に聞いてみた。
「実家の農業の手伝いですね。ヤマソーヴィニヨンの醸造用のぶどうを作ってるんですよ。もともとそういう作業は嫌いじゃなかったし、工事はチームでやるから気を使う部分もあるけど、農業は実家なのでひとりで何も考えずにできるし。今日も朝、畑に出てから出社しましたよ」と笑っていた。
最後にふたりに“これから”のことを聞いてみた。「若い人がもっと来てくれるようになって、盛り上がるといいな。そのためには仕事が特殊というだけでなく、その先の“生活を支える仕事”だということを理解してくれればと思っています」と佐藤。和田は「これまで会社としてやってこなかったボウリング工事を任されているのでまずはそれをやり遂げたい。そうすればオールインワンというか、簡単に行ってしまうと縦穴、横穴の両方を掘れる会社になるということですね。そうすると日本で唯一の会社になれる。そのふたつの作業を組み合わせることができれば作業がより効率化できるんです」と展望を語ってくれた。