庄内に本社を置く日産ディーラー
いわゆるモータリゼーションが日本で進んだのは1960年ごろ。1955年に当時の通産省が「国民車構想」を発表し、10年後の1965年には乗用車の保有台数は約8倍にもなるなど急速に成長を遂げていった。山形日産自動車販売株式会社の創業は1946年。いわば「自家用車黎明期」の創業ということになる。戦後急速に自動車が普及していくなかで、庄内の土地で生まれ70年以上の間、庄内地域で日産の販売店として活躍してきた老舗ディーラーだ。
「弊社は庄内地域密着型企業です」と言うのは、専務取締役の佐藤詩郎。「弊社の創業から約10年後の1955年には年収の3分の1で自動車が変える時代になったと言われていますが、それでも販売の需要はそれほど大きくなかった。そういったなかで整備などのサービスを中心に庄内地域でのカーライフを支えてきたという思いはあります」
時代とともに生活のスタイルが急速に変わっていくなかで、庄内地域の生活を支える車のあり方を考えながら営業を続けてきた。そのため、佐藤の話の中で出てきたのが“ちょっと立ち寄った”お客様や、“おじいちゃんの時代から”のお客様。それはとりもなおさず、山形日産自動車販売が地元に根付いている証拠だと言えるだろう。では、そのつながりの理由はどこにあるのだろうか。
全国トップクラスの顧客満足度
答えは至極単純。「お客様へのサービスの充実」だ。もちろん、デザインや技術力などの日産自動車製品そのものの魅力や、全国ネットワークによる充実で安心のサービスといったことも大きな要素ではあるだろうが、それだけではさきほどの“ちょっと立ち寄った”お客様が存在することはないはずだ。つまり「山形日産自動車販売だからこそ」のサービスが評価されているということ。事実、全国にある日産自動車の122の販売会社のうち、お客様満足度調査で2010年から上位一桁。2016年からは3年連続で2位という驚異的な結果を残している。「お客様へのサービスの充実」と答えは簡単なのだが、この曖昧でありながらももっとも重要なものを充実させるのは容易なことではない。この高いCSを実現するために、山形日産自動車販売ではさまざまな施策を講じている。
具体的な施策のひとつが全社で行われる“CS大会”。文字通り、顧客満足を上げるためのロールプレイ大会だ。全店舗が代表をたて、営業や整備といったそれぞれのポジションで競い合う、全社、全社員参加の大会だ。代表として出場する社員以外は、審査員や運営として大会に参加する。そのため審査側、つまりお客様としての評価など、あらゆる面からサービスを検証して、共有できるということになる。
そのほかに、全社で行う改善ミーティング報告会や、より質の高いサービスのためのスマートプロジェクト会議というものもある。
こういったことの情報を“当事者”として全社員で共有することで、弊社のボトムアップという気質が育まれているところもあると思っています」と佐藤詩郎は話す
「私たちは常に現場の頭で考えるということを意識しています。お客様対応から店長、部長といったそれぞれの現場の頭で考える。それぞれのある程度の権限を委譲して行動してもらう。そうすることでボトムアップの気質が生まれていると考えています」
サービスのクオリティを上げるのは“働きやすさ”
現場ではそれらの施策はどう活かされ、ボトムアップの気質はどのように作用しているか、お客様と直接対面するショールームの現場で働く3人に話を聞いた。
営業を担当する川井奈津美の口から最初に出た言葉は「チームワークで働いている感覚が強い」というものだった。スマートプロジェクト会議や改善ミーティング報告会から始まったひとつの例として挙げてくれたのが“入庫の平準化”というものだ。ショールームに来てもらうお客様を適正な範囲で割り振るというもの。目的のひとつはもちろんお客様を待たせないということにあるのだが、それとともに「整備の人間が常に整備だけに追われている状態を作りたくないということもあります。整備の人間の時間的な余裕も必要だし、整備側から直接お客様に提案をしてもらうためにきちんと時間を取れるようにするというためでもあります」と同じく営業の佐藤健太郎は説明してくれた。前職はホテルのフロント業務を担当していたという山口彩香は「ホテルで働いていたときよりもチームで対応しているという感覚は強い」と話す。
「現在も同じくフロント業務を担当していますが、私がある程度まで営業的な情報をお客様とお話することもありますし、当然逆に営業が受付を担当してくれることもある。佐藤の言ったように、整備が直接お客様にサービスを提案することもあります。そういう“行き来”みたいなものは自由に言い合える職場だと感じています。私は産休、育休をもらって復帰したのですが、復帰してすぐにチームになじめたのも働いている人間としてはすごくありがたかったです」
山口は2018年1月には、全国の日産自動車社内で行われる2017年度全国日産サービス技術大会に東北代表として出場し更に高いレベルを目にしたことで、自身のスキルアップと成長、そしてお客様にとってより必要とされるフロントを目指していきたいとも語ってくれた。
ただしその考えの根元にあるのは、常にお客様だ。佐藤は「営業の業務内容というと当然ですが車や保険の販売ということになりますが、それよりも圧倒的に多いのは点検や車検、整備の提案、相談です。そのためにはお客様のことを知っている必要がある。現在車がどういう状態か、生活のなかでどういうふうなカーライフが必要かといったことを知っていてこそ様々な対応ができるわけです」と話す。それに続けるようにして話してくれた川井の言葉が印象的だった。
「全社で行っているCS大会があるように、弊社は顧客満足度というものを意識しています。私はもともと庄内で接客業に就きたいと考えていた人間なので、いまの仕事で顧客満足度を重要な指標にするのは当然だと思います。でもこうして話をしていると、“顧客満足度を上げるため”という意識はあまりないことに気づきました。お客様は当然ですが、チームの人間も含めてそれぞれのことを思って自然発生的に、よりよい方向へ行けるようにサービスを改善していけたらと考えています」
最後に“地域”というキーワードをどのように捉えているか聞いてみた。「強く感じますね」と佐藤は言う。「例えば前任者から引き継いだ、長いお付き合いのあるお客様から“またよろしく”と言われると、あらためて庄内でずっとやってきた会社なんだなと実感します」。最初に話した佐藤専務取締役は「地域密着型企業」と表現した。災害時避難所に電気自動車を移動させ電源をとるという活動をしたり、高校に整備の出張授業をするなど、車を通しての具体的な社会貢献もしているが、それだけでなく山形日産自動車販売のサービスが生み出す、「またよろしくね」という人と人とのつながりが地域に密着している何よりの証拠だ。佐藤は最後にこう言った。「日産の車がほしいというのもものすごくうれしいのですが、カーライフを山形日産自動車販売に頼む、ひいては佐藤に頼むというふうに思ってもらえたら最高ですね」