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ベストを追い求めるからベターが磨かれる。国内トップをひた走るウエノコイル。

株式会社ウエノ / 設計技術

インタビュー記事

更新日 : 2021年07月16日

「ノイズフィルターコイル」(雑音防止用コイル)というものをご存知だろうか。電子機器の誤動作の原因となる信号対策用の電子部品で、普段わたしたちの目に触れることはないが、パソコン、エアコンなどの家電からOA機器、車までさまざまな生活必需品に使用されている。そのノイズフィルターコイル業界のトップを走るのが鶴岡にある株式会社ウエノ。中国を中心に海外へも事業展開するウエノで、中国との折衝役などを担う名和に話を聞いた。

株式会社ウエノ 事業概要

現取締役社長の上野隆一が1982年に創業。上野は先祖代々続く農業を継ぎ、約10年の間農業に従事したがうまくいかず行き詰まっていた。このままでは生活ができなくなる。そう思い、他の仕事を探していたところ、巻線に出会った。知識などまるでない、いわば門外漢だったが、技術指導をしてもらえる、設備支給してもらえる、原料支給してもらえることで0からでも少ないリスクで始められると考えたため上野は巻線事業を始めることになった。当時は手巻きにより巻線を制作していたので内職の人間を多く雇い、低価格で製品を提供し着々とその名前を広げていった。2年後の1984年に有限会社上野製作所を設立。そして1996年に株式会社ウエノに改組して現在にいたる。 ウエノが成長した背景には、コイル製作の自動化という差別化対策にもある。それまで人間の手でひとつひとつ巻いていたコイルの機械化に取り組み、より正確で高品質なものを作れる体制を整えた。これにより、より品質の安定した製品をより安価に製作することができ、業界内で成長を遂げていった。1998年にはベルト状の芯に銅線を何回も巻き付けた構造の溶接電流測定センサーであるトロイダルコイルの自動巻線の工場として余目工場を開設。2003年に東北産業活性化センターからトロイダルコイルの生産高日本一の認定を受ける。2004年に中国工場を設立し世界へと進出。2014年には電源用ノイズ除去コイルにおいて世界シェアの約1割を占めるまでにいたった。その後、さらに高品質のウエノコイルを開発するなど、常にベストを求めて邁進している。

ベストを追い求めるから、ベターが磨かれる

現在ノイズフィルター業界のトップを走る株式会社ウエノ。1982年に生まれ35年以上の歴史を歩んできたが、その始まりは「たまたま」だったと代表取締役社長の上野隆一は話す。先祖代々続く農業を継いで約10年の間従事したが行き詰まり、当時付き合いのあった人に相談したところ、たまたま紹介されたのが巻線の仕事だったのだ。「農家じゃ無理かもしれないけどまあ頼むね」。そんな風にして仕事をもらったと言う。

単価の低い仕事であったが、技術指導、設備支給、原料支給という状況のもと、多くの人間を雇い、結果を残していった。当時の親会社であった富士電機化学が中国に進出することにともない、その製造下請けも引き受けることになった。その後、富士電機化学の労働集約事業は上海に移転し、国内拠点をもたない方針となったことにより国内の生産下請けはなくなっていく。そこで上野は、元請けメーカーになることを考えた。

知名度という壁には打ち当たったが、そこでも力となったのが、低価格というものだった。地道に営業を続け、低価格を周知させることに奔走した結果、お客様である電子部品商社が驚いただけにとどまらず、同業他社も「こんな価格は実現できない」とモチベーションが下がっていったという。

上野が考えるのは常に「差別化対策」だ。それまで手巻きだったコイルを自動化したのものそのひとつ。品質の安定化とともに生産コストも下げることを実現させた。ただし、それだけでは上野の探究心は止まらない。社長の上野は「世の中にベストはない、いつでもベター。ただしベストを追い求めるから、ベターが磨かれるんです」と話す。

その言葉を体現するように、品質、価格ともに常に前進することをやめない。それまでの特性を上回るウエノコイルが誕生したのもその熱意があったからこそだ。そうして常に品質の向上を求め、低価格で提供することを追求することで差別化を図り、2003年に東北産業活性化センターからトロイダルコイルの生産高日本一の認定を受け、国内トップメーカーとなるまでに至った。

中国進出、そして世界シェア1割を占める。

生産日本一の認定を受けた翌年の2004年に中国工場を設立し世界へと進出。現在、中国との折衝役などをになっているのが名和だ。中国の天津出身の名和。『スラムダンク』を始め、日本の漫画にも興味があったという名和は、おばが新庄市にいた関係で日本へ留学をする。まずは日本語学校で言葉を学び、のちに東北公益文科大学に入学し公益学科経済コースで学んだ。名和がウエノに入社する経緯は社長の上野と同じくコイルのことを知らず「たまたま」だった。

「社長の上野が講師として来て、話を聞く機会があったんです。中国にも工場があるということもあり興味を持ちました。コイルそのものの知識はないし、それどころかほとんど知りませんでした。それでも山形にありながら世界を相手に戦っているところや、仕事に対する熱意などにひかれて入社したいと思いました」

中国での製作についての難しさを名和はこう語る。

「海外の工場は現場という感じですね。日本で開発したものを中国の工場で作る。中国という環境のもとでよりいいモノを作れるように指導などをしています。ただし、日本の考え方を理解してもらうのはなかなか大変な部分があります。例えば、ひとつの製品を作る、という目標がありますよね。日本人は1があって、2があってと着実に進んでいって、きちんと5まで到達する。中国は、1、2、3から5でもいいんです。4がなくても5ができていればいいじゃないかと。

それなら早くできるかもしれないけど、それでは“5みたいなもの”にしかならないんですね。現在の技術では不良品が多く出てしまう。文化の違いと言えばそうなんでしょうね。でもそれではダメだと伝えなくてはいけない。高品質なものを提供するためには、この工程を抜かすわけにはいかない。当たり前のように聞こえますが、これを浸透させるのはなかなか難しかった。不良品のサンプルデータを何度も何度も見せてわかってもらいました。中国と日本、両方の考え方がわかるからできたことなのかもしれないと思っています」

そうして中国の現場での製品も品質があがり世界シェアの約1割を占めるまでにいたった。コイルの種類が多い、品質は高い、それでいて価格が低い。そんな状況を作り出すことができたのだ。

ウエノとしてのこれから、名和としてのこれから

「中国に工場を設立し、生産を行うようになってから15年が経ちます。その後、香港や韓国にも関連施設を開設しました。2014年にはタイに“タイウエノコイル”を設立して海外で広く評価を受けています」

名和はそう話すが、一方で「国内生産量を増やしていくこともミッションです」とも言う。「今後すぐに海外展開していく予定はありません。それよりも国内を充実させていくことが大きな目標です。中国で作ったもののほとんどが中国で、タイで製造したものはタイで販売しています。そのマーケットが広がっているのは事実ですが、お得意様が日系企業なので、日本で作って日本に売るという形を今度はとっていきたいと考えています」

ウエノとしての方針は国内へのシフト。実は名和も「中国以外のところで生きてみたい」と笑って話す。

「もともと中国から日本へきたわけです。“いろいろな生き方”みたいなことを経験したいんです。人生は一回しかないですからね。仕事としてもいろいろなことにトライしたい。場所が変わるのもそうかもしれないし、内容が変わるのもそうかもしれない。現状をさらに充実させるだけでなく、新しいチャレンジをしたいと思っています」

日本語もそれほど話すことのできない状態で中国から日本へきて、のちに日本企業の人間として中国に赴任する。日本のいいところを知り、中国の現場にそれを伝える。ふたつの文化を行き来してきた名和は、最後にこう笑っていた。「それでも山形はいいところなので、長く居ついていますけど。特に尾花沢のスイカ。あんなにおいしいものは食べたことがなかったですよ」

ウエノのライバルはウエノ

今後のウエノとしての展望はと、代表取締役社長の上野に問うと「世界最高のノイズフィルターコイルを作り続けていかないといけない」という答えが帰ってきた。中国で名を広げるとそれに追従するように模倣品がでてきた。だがそれを見て上野は「我々の品質がそれをはるかに上回っているとは思わない」と言う。だから常に開発をし、ベストを目指さなくてはいけない。

検証技術もあり冷静な判断ができる。そのうえで、さらに高品質、低価格を求める。元請けメーカーであるからこそコイルとして理想的なものを作り続けることができるのは強みだ。モノは常にベターを作り続け、ベストを追い求め続ける。“世界最高のノイズフィルターコイルを作り続けていかないといけない”。つまり、ウエノのライバルは常にウエノなのだ。その姿勢こそがウエノがトップメーカーであり続けることの源泉なのだ。