方言の壁を笑顔で乗り越えて人気店の女将に!!

堀米 淑子

生まれも育ちも東京。酒田で4人のお子さんを育てながらご夫婦二人三脚で飲食店をオープンした堀米さんが歩んできた、移住ストーリーを伺いました(2019年6月取材)

<酒田に来たきっかけ>

東京の職場で知り合った夫が、酒田出身だったんです。ホテルのレストランだったんですけど、私が洋食のフロア担当で彼が和食の厨房担当で・・・。
お付き合いを始める時に、夫から「地元で自分のお店を持ちたいから、いずれは酒田へ帰るよ」って言われてたんです。私は二つ返事で「いいね~!!行く!行く!」って楽観的に受け止めていました。酒田のことを調べるわけでもなく、ただ「結婚したら東北にいくんだな~」って軽く考えてました。今思えば、若かったですね~!(笑)
結婚直前に彼の実家に来た時、東京では見たこともないほど綺麗なぼたん雪がしんしんと降っていたんです。その美しさにすごく感動して、こんな素晴らしい土地はない! ってとても気に入りました。でも今思うと、地吹雪が起こる酒田でぼたん雪がしんしんと降り積もるなんて、奇跡的ですよね!
酒田へ移住して10年以上経ちましたが、あんなに美しい景色はなかなか見れませんね(笑)
結婚後しばらくは東京で生活していました。夫は料理人としての経験を積み、私は専業主婦で子育てしていたんです。そして数年後、酒田へ引っ越すことになりました。荷物を整理しダンボールを積んだトラックと一緒に夫が先に出発。私は子ども2人とすぐに車で向かう段取りでした。ところが、急に行くのが嫌になっちゃったんです!! 出発予定日から3日間くらい実家に引きこもりました。
私の両親は関西出身なので親戚も関西にしかいないし、周りに知り合いもいない酒田に行くという寂しさ。東京とは違う「田舎」で暮らす不安。そういうものが一気に溢れてきたんですね。そんな時に限ってなぜか「おしん」や「酒田大火」といった言葉が目に付いて、どれほど苦労しないといけない場所なの?! って半べそ状態でした(笑)。でも3日間引きこもったら、気が済んだんですよね。「夫が待ってるし、そろそろ行くか!!」って自然と前向きに切り替わりました。

夫のすごいところは、旬を生かしたメニューを考案するところです!

 

<言葉がわからない!! 酒田での生活がスタート>

酒田に移ってすぐに、私も仕事を始めることにしました。義母が見つけてくれた職場だったんですけど、とても優しくて子育てに理解のある環境でした。子どもの体調が崩れた時も積極的に休ませてくれたり、妊娠を機に職種を変えてくれました。当時住んでいた団地の方々も本当に優しかったですよ。子どもに目を配ってくれたり、おかずを差し入れてくれたり、温かい環境でした。
ただ・・・言葉が全然わからない。最初の大きな壁でしたね!
職場にきたおじいちゃんから空き缶を渡されて、「これ、うだってくれ~」って言われた時は、え? 歌うの?! 空き缶で?! ってパニックになり、先輩に「歌えって言われたんですけど・・・」って報告に行ったら爆笑されました。今ならそれが「捨てといてくれ~」って意味だってわかりますけどね。10年以上経った今でも、お店に来てくれるお客さんが何を言ったのかわからない時もありますけど、正直に聞き返せる余裕も持てるようになったし、笑ってごまかす術も覚えました。
言葉の次に驚いたのは、白鳥です。頭の上を白鳥が列をなして飛んでいく姿に感動し、その近さにびっくりしました。白鳥がこんな風に自分の頭上を飛んでいるなんて、東京では想像すらしていませんでしたから。そして納豆汁やしそ巻きにも衝撃を受けましたね。「なんだろう・・・これ」って最初は固まりました(笑)。
そんなギャップや驚きもありましたが、子どもを通して地域の方々とも繋がれたし、行動範囲も広げることが出来ました。東京には気軽に行ける温泉がないので「ゆりんこ」や「あぽん」は毎週のように行ってましたね。

 

<旬の食材にこだわる「楽食家 たちかわ」オープン>

2011年7月、夫が念願のお店をオープンさせました。名前の「たちかわ」を見て、酒田市の隣町、狩川の立川を連想して来てくださるお客様も多いのですが、私の地元である東京の立川市に由来しているんです。地元を恋しがる私がいつでも「たちかわ」に帰れるように・・・という、遠方から嫁をもらった夫の優しさですかね!
 オープン準備の段階では、私は別のところで働いていたし夫婦で自営業する勇気がなくて、手伝う気はありませんでした。でも準備を進めるほどに忙しく大変になってきたので、結局手伝うことにしたんです。結婚前から決めていた夢が叶うんだから私も協力しようかな! って昔の気持ちを思い出して心機一転スタートを切りました。
私はホール担当で働き始めたわけですが、もう失敗の連続で。もともと飲食店で働いてはいたものの、私自身はお酒を全然飲まないんです。それに、ずっと子育てに追われてきたということもあって居酒屋もほとんど行ったことがなかったので、最初はお酒の注文を受けるのにとても苦労しました。「焼酎ちょうだい!」って言われたので瓶だけ持って行ったら、「グラスは?」「氷と水は?」って言われて、「氷とお水いるんですか?」って反対に質問しちゃいましたから(笑)。
とにかくお客さんが本当に良い人ばかりで、一から育ててもらった感じです。日本酒のこともわからないし飲めないので、お客さんから感想を聞いて勉強しました。酒田の人って舌が肥えてるというか繊細なので、お料理についても質問されることが多く、季節ごと覚えることがたくさんあるんです。魚や山菜はなかなか覚えるのが難しくて、山菜のてんぷら盛り合わせを出した時に「これは何?」って聞かれたんですけど、てんぷらになっちゃってるから全然わからなくて・・・「ちょ~っと食べてみないとわからないですね!」って笑いをとってごまかしたりもしました(笑)。
厨房からはしっかり覚えてって言われることもありましたけど、お客さんは優しく受け止めてくれるというか楽しんでくれて、本当に助けてもらってます!! オープンして間もないころ、常連さんから「てんげだな~」って言われたんですけど、私には意味がわからなかったので笑って「ありがとうございます!!」って答えたんです。後から聞いたら「適当だな~」って意味だったみたいで(笑)。でも、年々覚えていって今年はずいぶんわかるようになりましたよ。ご無沙汰だったお客さんがしばらくぶりに来てくれて「成長したな~」って言ってくれた時は嬉しかったですね。

もうすぐ牡蠣の季節ですね

月山筍はシンプルに素焼きで

お酒の仕入れは淑子さんが担当

<旬を楽しむ酒田のお客さんから学ぶ日々>

色々なことを少しずつ覚え、家では味や香りを知るために少しですがお酒を飲むようになりました。お酒の仕入れもするようになり、最初は酒屋さんに言われるがまま仕入れていたんですけど、やっぱり自分で選んだもののほうがお客さんとの話も弾みますよね。自分の直感を働かせて選んで、お客さんから感想を聞いてます。皆さん私が飲めないのを知っているので、色んなことを教えてくれるんです。「このお料理に合うね」とか「こっちのお酒よりこっちのほうが爽やかかな」とか。それを元にまた次の仕入れに向かいます。酒田の方ってすごく地元愛が強いので、全国各地のお酒を多めに揃えていた時期もあったんですが、やっぱり酒田のお酒が美味しいよね! ってなります。
季節限定の地酒をお店で飲んで、美味しかったから自分でも買ってみたよ~っていうお客さんもいて、嬉しいです。
東京で産まれ育った私にとって、酒田の食材の豊富さと旬の食材をしっかり楽しむ酒田の方々の丁寧さは素晴らしいと思います。最近旬だったサクラマスの素焼き・アスパラの塩茹・山菜のおひたしなど、シンプルにその食材を楽しみながら食で季節を感じるなんて、すごく贅沢なひと時ですよね。旬の美味しい食事とお酒を召し上がるお客様たちを見ていると本当に楽しそうで、私ももっと季節を楽しんで感じよう! って思います。

出羽三山を巡るために初来日したドイツのお客様

<夫婦で愛犬の散歩をする時間がリラックスタイム>

夫は家で仕事の話を一切しないので、私もそうしています。最初はお店であったことや思ったことを話したい!! って思いましたけど、今では仕事以外の話をしてリラックスする時間が心地よいです。夫は日中は仕込があるので、なかなかゆっくり時間をとることが難しいのですが、なるべく犬の散歩は二人で行くようにしています。気持ちよい空気に触れながら歩くと癒されますね。
基本的に日中は子育て、夕方以降はお店って生活をずっと続けてきたわけですが、私の性格的にあまり人の輪に積極的に入るタイプでもないので、ママ友達とランチをしたりってこともそんなにありませんでした。かといって没頭できる趣味を持つ時間もなく、若いころは「自分の時間」を作ることが下手だったように思います。でもお店のお客さんとお話していると楽しそうなものにたくさん出会えるので、スキューバダイビングやホットヨガなどにはチャレンジしました。そして子どもも成長し犬を飼うようになって、散歩の時間が最高のリラックスタイムになりましたね。

愛犬との散歩タイムに癒されます

お客さんの薦めでチャレンジしたダイビング

<酒田へ移住を考えている方にメッセージ>

友達と出掛けた息子に「どこへ行ってきたの?」って聞いたら、「自転車で海!!」って返事がきてびっくりしたのを今でも覚えているんです。私が育った環境とはまるで違うなぁって。海も山も近くて自然環境に恵まれつつ、スーパーや飲食店など日常生活で困ることはないので、「田舎=不便」って概念はなくなりました。
冬を心配してる方も多いとは思いますが、確かに東京に比べると風が強いし厳しく感じるかもしれません。地吹雪で前が見えなくなり、車を路肩に停めて撮影した動画を友人に送ったりもしました(笑)。積雪量はそんなに多くないですが2月の空の色は今でもちょっと凹むかな・・・この季節が来たな~って。でも、それだけかな! 辛いのは。
「移住」といってもいろんなケースがあると思うんです。畑仕事や漁業など地方ならではの暮らしがしたい方もいれば、私のように家族の故郷へ戻るために「移住」する方もいます。酒田ではその両方の方々が自分らしい生活を見つけられると思います。自慢じゃないですが私、酒田へ移住して10年以上経ちますけど、まだ農作業も山菜採りもしたことないんですよ!(笑)最近になって機会があればやってみたいなぁって思うようになりましたが、気が進まなければ無理して「田舎らしいこと」をしなくても良いんです。
そして他県から移住してきた方が意外と身近にたくさんいて意気投合し、そこからまた繋がりができるのも移住者ならではの嬉しいポイントですね。
東京を出るときに引きこもった私がすっかり馴染んで生活しているんですから(笑)、安心して来て欲しいなって思います!!

毎年、東京の妹家族と西浜でキャンプしています

お店の通りも酒田まつりで賑わいます

名称 堀米 淑子

 at sakata

at sakataの転載の記事です。 「at sakata」では、酒田へのUIターンに関する情報や酒田での暮らしにまつわる情報をお届けします。 「公式HP」はこちら