おいしい料理をつくる人は、その人自身もおいしそう。飲食店を巡っていると、そんな風に感じることがよくある。ビフテキWADACHIのマスター木島勲さんもご多分に漏れず。鍛え上げられた肉体に満面の笑み、とてつもなくおいしそうなお人である。 ドアを開けて、その笑顔に出迎えられた瞬間、あぁ今夜も最高のヤツが食べられる、とボルテージが上がる。

WADACHIは、極上の黒毛和牛として知られる山形牛にこだわったお店。ローストビーフやハンバーグなど、どれも絶品なれど、一番の推しはやっぱりステーキ。上質な備長炭を使い、ゆっくりと網焼きしていくステーキは、柔らかさはそのままに山形牛本来の旨味を逃さず閉じ込めることができる。

「よい肉を使っているから、自分は切るだけ、焼くだけ」とマスターは謙遜するが、カウンターキッチンはライブな現場。肉の感じや焼いている間に刻々と変わる炭の状態にあわせて、肉の色や匂い、音の変化に神経を研ぎ澄ませる。ベストなタイミングで引き上げられたお肉に、すっと包丁を入れると美しいピンク色。絶妙なレア加減で目の前に運ばれてきた。

和牛だからこその芳しい香り。この日いただいたサーロインはじゅわ〜っと旨味が広がり、舌の上でとろけていくかのよう。圧倒的なおいしさで、ひと口で天国へ連れて行かれる。マスターにお話を伺うと、最上級のヒレ肉は、さらに独特の酸味が加わって格別の味だという。そのヒレ肉をオーダーされる方が多いというから、お客様もみな、このお店の楽しみ方がわかっていらっしゃる。

ハレの日は山形牛でご褒美を。WADACHIならマスターの人柄ごと、ライブで堪能できる。五感をフルに使う食体験を楽しんでほしい。