リモートワークでUターン実現

ITコンサルタント 佐藤由久

幼いころから機械をいじるのが大好きで、ドライバーを使ってラジオを解体したり、親の農業について行って農業機械を見に行ったり、機械少年だった由久さん。小学4年生のときに、パソコンを親から買ってもらったのがきっかけで、プログラミングの世界にどっぷりとハマります。高校卒業後、大学は岩手に4年、大学院は仙台に2年過ごすことに。地元鶴岡をはじめて離れ気づいた地元が好きだという思い・・・

Uターンの転機はヤマガタ未来ラボの「マイプロ部」に参加したこと

インキュベーション施設LIGHT HOUSEを活動拠点の1つにしている佐藤由久さん

-鶴岡を離れてその良さに気づいたそうですが、どういうところが好きですか?

「その土地に住む人、豊富な食文化、雄大な自然、方言など、一言では言えないのですが、この土地の雰囲気が好きです。大人になって、車に乗ることもできて、以前と違った姿を見ることができるようになりました。過去には触れ合わなかったような人との出会ったり、週末にある大小さまざまイベントに参加したりして、改めて地元が好きになりました。」

岩手にも仙台にもないような魅力が鶴岡にはあるという由久さん。大人になってから帰省する度にその思いは強まっていったそうです。人にとっては何気ない風景でも、当たり前のようにそこにあった風景こそが、心の拠り処。そんな原風景を体が感じとっていたものだったのかもしれません。

就職で東京に上京し、システムエンジニアとして勤務して6年目になる頃、「もっと新しい技術を覚えていきたい」という思いから、クラウドシステムのグローバル・コンサルティングファームである株式会社アピリオへ転職します。この時、奥さんと1歳の長男がいました。そんな由久さんのUターンの転機は、その翌年のことでした。

マイプロ部にて、地元の方たちと鶴岡の郷土料理を作る由久さん ※出典:ヤマガタ未来ラボ

今の鶴岡はどんな地域なのだろう。そんな思いを抱きながら過ごしていると、ある日SNSに何気なくフォローしていたヤマガタ未来ラボのFacebookページから、鶴岡市の移住者交流プログラムである「マイプロ部」の情報が上がってきました。

-「マイプロ部」ではどんなことを行いましたか?

「マイプロ部では、移住を検討している人や鶴岡に関心ある方が集まり、地域の方と数日間かけてプロジェクトを選んで参加します。当時の私は郷土料理の作り方を学び、保存を検討する『ばばごっつおプロジェクト』や、コワーキングスペースの活性化を考えるプロジェクトに参加しました。」

-どんな方に会うことができましたか?

「『どんな場所にいても人の価値自体は変わらないから、うちの会社なら東京の給与のまま働ける』と言ってくれたベンチャー企業の社長や、地域活性化事業としてコワーキングスペース運営を行っている大学の教授に会うことができました。」

 

-そこでどういう思いの変化がありましたか?

「地元鶴岡でも高校生のときにはなかったようなITの会社があったり、様々に前向きに挑戦する人達がいたり、今の庄内で自分ができることがありそうだとわかり、地元に強く惹かれるようになりました。」

「マイプロ部」の参加を通じて横のつながりも広がり、今の鶴岡を知ることができ、より一層鶴岡に戻りたいと思うようになります。

上司に正直な気持ちを伝え、社内初のフルリモートワークがはじまる

株式会社アピリオで社内表彰を頂いたとき

マイプロに参加した翌年、新年あけてすぐ、SNSでの発信などから、そんな思いを感じとってか、上司から「地元に帰ろうと思っている?」と聞かれます。

-そこで正直に地元に帰りたいという気持ちを伝えたそうですが、上司の反応はどうでしたか?

「わかっていたかのようにその上司は自分の気持ちを受け取ってくれました。その上で会社に所属しながら、鶴岡にいながらリモートワークで働けるように社内で掛け合って頂けることになったのです。」

こうした上司の後押しもあり、2月にはリモートワークの許可を得て課題解消のための1週間のトライアル運用を2度実施した後、2017年10月からは会社公認のフルリモートワーク社員になります。

実家の外で仕事をしながらの子育て

現在、4歳の息子と2歳の娘と生まれたばかりのお子さん持つ三児の父。ますます家族の時間を大事にしながら、仕事に励まなければならないところではありますが、リモートワークになったことで、一番の大きな変化は家族の時間が増えたことだそう。小さな子どもで手のかかる時期に家族と一緒にいる時間が増えたのは、とても嬉しいことでした。そんな由久さんに、こちらの質問をぶつけてみました。

庄内でなりたい自分になる

庄内浜にて

-「ショウナイターンズ」のキャッチコピーでもある「庄内でなりたい自分になる」。由久さんは庄内でなりたい自分になれている実感はありますか?

「システムを作る仕事を、これまでの会社の方々と一緒に続けながら、鶴岡にUターンもできたことに満足しています。それでもまだなりたい自分にはなりきれてないと思います。」

やりたい仕事を続けて、家族も大事にしながら、好きな地元で暮らせている。由久さんの努力はもちろん、他人から見ればなりたい自分になれている気もしていたが、まだ理想とはギャップがあるそう。

それは、この地域のことが好きだけど、まだ好きな地元に何も還元できていないから。

「大学でこの土地を離れる人が多くいますが、その前に高校生のときに関わっていくことで、この地を離れても地域とつながっていって欲しいし、いつかまた戻ってきてもらえたら嬉しいですね。そのために鶴岡にいる間に地域で食や文化を感じられる体験や仕事をして、情報を発信するようなことをやってほしいと思いますし、それを手助けできるような何かを作りたいです。地域を知ることで、地域の魅力をアップデートしていくことに繋がっていきます。」

プログラミングや、リモートワークはあくまでも手段。今後は地域のプロモーターを増やすような事業も行っていきたいという由久さん。東京在住の庄内人のためのコミュニティづくりや、進学支援・就職支援など、地元鶴岡の交流人口を増やしていくことに意欲を出していきたいといいます。由久さんが、今後どのような活動をしていくか楽しみですね。

-取材場所-

-インキュベーション施設LIGHT HOUSE-

2017年設立された一般財団法人日本西海岸計画が運営を担う、酒田市にあるインキュベーション施設。
コワーキング、シェアオフィス、貸会議室機能を設け、多くの企業・個人が集まり、フリーランス、起業家の集う場所となっている。

名称 ITコンサルタント 佐藤由久

文:伊藤 秀和

首都圏での子育てに課題を感じて、2018年5月に三川町地域おこし協力隊として、山形県・庄内地方にIターン移住。「人生思い出作り」をライフコンセプトとして、「書くこと」「話すこと」「場作り」事業を中心とした「ものかきや」として現在活動中。

家族4人、山形暮らしはじめました。