ここは「羽黒・芸術の森」、洋画家の今井繁三郎さんが生前、生活と画業を営んだ場所だ。敷地内には、美術収蔵館「今井アートギャラリー」、「羽黒の小さな森」、旧アトリエ「工房いずみの」があり、2018年初夏、工房にレストラン「ovenKato」が開店した。オーナーは今井さんの孫の加藤あさ野さんと、ご主人の博紀さん。東京・吉祥寺で長く飲食店を営み、庄内にＩターンして、この場所でおいしいひとときをつくっている。

こちらはランチタイムがメインで、「チキンカレー」「焼きカレー」、春秋限定の「ラザニア」、お肉やお魚のセットメニューのほか、単品の「若鶏の甘タレからあげ」など、ホッとするごちそうが並ぶ。奇をてらわずちゃんとおいしい、それが、子どもからお年寄りまで広く親しまれている理由だ。一面の窓から庭を眺められる店内では、さまざまな形のイスやテーブルで、思い思いに食事を楽しむことができる。

「羽黒・芸術の森」は、かつてあさ野さんたち孫13人の夏休みの遊び場だった。「子どもや若い世代に共有される空間をつくる」という今井さんの夢を、孫たちが受け継ぎ創造を続けている。あさ野さんは「小さい頃から大好きだったこの場所に住んで、お店を開けた私はラッキーです」と微笑む。「美術やレストランのほかにも、散策したり、鳥の声を聞いたり、ハンモックに揺られたりと、いろいろな楽しみ方を知ってもらえたら嬉しい」と博紀さん。この森の空気にふれると、子どもたちが駆けまわる姿が思い浮かぶ。その楽しさをそのまま伝えるような時間が、ここには流れている。