おすすめの寿司屋を聞かれて、この店の名前を答える人は多い。安兵衛寿司は、誰かに紹介したい店だ。色とりどりの看板が並ぶ昭和通りで、奥ゆかしく暖簾を揺らすその店には、昼夜ともに老若男女が入れ代わり立ち代わり訪れる。

「17年前に改装した時、お客さんがゆっくりと過ごせるような設計にしました。店の回転率を上げるより、一生のうち長く付き合える店になりたいので」と話すのは3代目、里信哉さん。そのこだわりがまず見えるのが広いカウンター。客前に敷かれた幅広の一枚板は、さまざまな料理が並んでもなお余白があり、ゆるやかに食事を楽しめる開放感がある。

肝心の寿司は、格好がまず端整。それこそ丹精な仕事の映し鏡といえる。寿司といえばネタに気が向きがちだが、ここのシャリは魚の食感を印象付けるような酢のうま味があり、ほろりと心地よく口の中でほどける。「基本的にシャリの味が合うか合わないかは大きいですよね」というその粒感、温度、酢加減は寿司ネタと渾然一体、どの魚とも相性がいい。

寿司以外の品書きもかなりのもので、季節の味、郷土の味が豊かに揃う。中でも郷土料理は「昔からの料理が昔のままにある」といったふうで、寒鱈汁も孟宗汁も余計なアレンジを排した正当な庄内の味がする。寿司屋としての気概は寿司にあるが、安兵衛寿司には海の四季、山の四季、野の四季と、庄内の旬の食暦がある。「地元で長く愛されるお店でありたい」という言葉には、この土地への慈しみが感じられた。