ラーメンの名所・酒田には、うまい店がひしめく。酒田のラーメンは自家製麺率が高く、多加水麺が多いことで知られるが、ここ東軒は「細麺」が特徴。手切りでやや縮れのかかった麺は加水率が47％前後、もちもちプルプルの食感は、製麺・熟成・茹で加減の高い技術によって提供される。

スープは煮干しや昆布など数種類の魚介と、豚ガラや鶏ガラなどのだしでうま味を出し、かえしがそのまろやかさを助長する。うま味の層が厚いのに、あっさりすっきりと味をまとめるのは熟練の技。東軒では、だしを取る工程で浮き出る脂分を大胆に取り除くため、味も見た目も澄んだスープに仕上がる。「余分なコクはいらない」と店主が話すとおり、濃厚なパンチで食べる麺ではなく、毎日食べてもなお飽きのこないホッとするラーメンだ。

チャーシューはうま味とやわらかな肉感のある「和豚もちぶた」の豚肩ロース。酒田ラーメンの名物・極薄ワンタンは、つるっとろっと口の中に流れる。半月型のかまぼこはこの店のラーメンの表号、魚介だしに魚の練り物がしっくりくる。

酒田という小さな町で50余年、息の長い営業を続ける理由を探ってみると、店主自身がとにかくラーメンを慈しんでいることが分かった。毎日昼に麺とスープを味わい、微調整を加えながら幅広い客層と時代の嗜好にあわせて進化している。店内に流れるジャズのように、丼の中の一つ一つの素材が光り、融合して、満足度の高い一杯に仕上がっている。