日本料理には、食材が育った環境や料理人の心延えが映る。看板に「御料理」を掲げる新茶屋は、鶴岡をふるさとに持つ人たちの人生の節目や、気兼ねのない宴席の数々を山海の旬でもてなしてきた。

創業110余年を過ぎた建築と庭園は、市街地にあってそこだけが時間を止めたような妙味を感じさせる。その趣に浸りながら、桜マスや口細ガレイ、秋鮭、寒鱈と代名詞的な地魚や、あんかけやむきそばをしみじみと味わい、名物の「玉子焼き」をなじみの味にしたくなる口福。「素材をいかしたシンプルな料理。皆さんが何遍も食べたくなるスタンダードな料理を作り続けたい」と9代目店主は話す。家庭料理を日本料理に昇華させた、地元民が彼の地の人に誇りたい味、その料理が新茶屋の真骨頂。本館2階には明治の政治家で書家の副島種臣が、店の歓待に感銘し揮毫した「鹿鳴」の書が掛けられている。