WORK 置賜のしごと WORK 置賜のしごと

生涯無事故

株式会社米沢自動車学校 / 料理人

インタビュー記事

更新日 : 2024年08月29日

「生涯無事故」がモットー。
宿舎も運営し、総合的に教習生をサポートする。

山形県が自動車免許取得の合宿教習を行なった先駆けというのはご存知でしょうか。なかでも置賜地区は、­­­そのメッカとも言われています。昭和40年代から合宿教習をスタートさせ、全国各地から生徒が集まる米沢自動車学校もそのひとつ。代表取締役社長の渡部喜代司さんと、指導員を務める佐藤浩一さん、斎藤小百合さん、石田崇さんの3名にお話を伺いました。

株式会社米沢自動車学校 事業概要

昭和38年に創業した米沢自動車学校(旧吾妻自動車学校)では、普通自動車の教習をメインに、中型、大型、普通自動二輪車、大型特殊など計10種類の免許教習を行なっています。「生涯無事故」をスローガンに、教習を通して交通安全の大切さを伝えるのがモットー。敷地面積13.557m²という施設内には181mの直線コースもあり、その広々とした教習環境も自慢です。
昭和40年代から地方の教習所で短期間の免許取得を目指す「合宿教習」に力を入れ始め、地元の人だけでなく全国各地から教習生を呼び込んでいます。年間3000〜4000人の教習生が利用していますが、その85%が合宿生です。
平成17年には宿泊業もスタートさせ、合宿生が宿泊するホテルを自社で運営。現在、4つのホテルを経営しています。「ホテルおとわ」、「パークホテル米沢」のふたつについては、ビジネスホテルとして一般客の利用も可能に。長期滞在者などから人気のホテルとなっています。

宿舎を自社運営にすることで総合的にサポートできる

長期休みなどを利用して最短2週間で普通自動車免許を取得する合宿教習。全国の自動車学校で行なわれているシステムですが、米沢自動車学校は昭和40年代からそれを導入し、全国から教習生を受け入れてきました。

「山形県は全国でもナンバーワンの合宿教習所数を誇ります。なかでも置賜地区にある3つの自動車学校は全国1位を競うぐらい盛んなところ。昭和40年代にスタートした頃は、なぜ、わざわざ県外から人を呼び込まないといけないのかという声もあったそうですが、年々地元の若者が減少している状況を考えると、やらざるを得なかったというのもあると思います。実際に弊社の教習生は85%が合宿生。地元の人は15%ほどです。大学生は関東に集中しているので、関東から来てくださる人が多いですが、北は北海道、南は沖縄まで全国各地から、毎年大勢の人が教習を受けに来ています」

長年合宿教習を行なってきた経験があるからこその人気もあるが、米沢自動車学校が提案する合宿免許プランには、米沢で免許を取得したいと思わせる魅力が詰まっています。

「食事には、力を入れています。地元の農家から購入しているお米は非常に好評ですね。『食事がおいしくてホッとする』、『ごはんが楽しみ』という声をいただいています。それ以外に教習期間中に一度ステーキディナーがあったり、スポーツクラブ利用券、市内の映画館の割引券、エステサロン割引券などの特典も。レンタル自転車の貸出も行なっているので、それで米沢観光される方もいます。みなさん、教習だけでなく、米沢に訪れたことも楽しんでくださっている印象です。もちろん地元生も大事にしているので、市内以外に高畠町、南陽市からの送迎のほか休日は昼ごはんの無料提供も実施。隣接するホテルのフレンドリー吾妻で提供していて、私もたまにいただきますが、おいしいですよ(笑)。」

合宿生には、提携ホテルに宿泊してもらうスタイルをとっていましたが、20年ほど前から宿舎も自社運営に。そのメリットは、合宿教習生を総合的にサポートできることだと言います。

「合宿教習中、慣れない環境に体調を崩される方もいらっしゃるんですよ。そういう場合に外部のホテルだと、なかなか本人と話せないこともあったりして。自社運営であれば、ホテルの従業員も弊社の社員なので、すぐに教習所スタッフと連絡が取り合えます。深夜や早朝であっても営業担当者に連絡が付きますし、私のところにも話が入ってきやすい。何かあったときにスピーディーに対応できるのが最大のメリットです。ホテルの従業員も送迎バスの担当者も合宿生が毎日緊張して教習を受けているのがわかっているので、その悩みを受け止めてあげる方法も知っています。『がんばってね』とか『いってらっしゃい』とか、声をかけるだけでも気持ちは変わるので、教習生の不安を解消する意味でも自社運営はプラスになっていると考えます。外部にお任せしない分、原価も抑えられる。そのおかげで教習料金に還元もできます。合宿教習は価格競争が激しいので、勝ち抜くために必要な要素でもあります」

教習生の目線になって指導をする

「教習生に満足してもらうため」にしていることは、食事や特典だけではありません。教習環境を整えることは、自動車学校として何よりも大事。優秀な指導員の育成にも力を注いでいます。

「心がけているのは言葉遣いです。例えば方言を聞き慣れている人にとっては当たり前の言い方も県外の人にはキツい言葉に感じてしまうこともあります。ただでさえも緊張しながら運転教習をしているわけなので、言葉ひとつでさらに萎縮することも。『教えてやっているんだ』という上から目線で指導をする人には、この仕事は向かないかもしれません。教習生と目線を一緒にしながら、初めて運転をする人に対して、思いやりを持たない教え方では、この人から学びたいとは思えませんよね。常に相手の目線になることは大切だと思っています。教習生の信頼を得て、満足していただく教習をしないと、これから先も続けていくのは難しい。全国に1000か所以上の教習所があるので、選んでいただけるように小さいことでも改善していきたいと思っています」

指導員になるには、学科と実地を含む数科目の試験をすべて合格しなければいけません。何度も落ちる人がいるというほどハードルの高い資格でもあります。

「ほとんどの指導員は、入社後に資格を取得しています。最初は、送迎や受付などの仕事をしながら勉強していただいて、指導員を目指してもらえれば。難しい試験ではありますが、弊社には優秀な指導員が揃っていますし、後輩を育てたい気持ちがある人ばかりなので、そのサポート体制もしっかりしていますよ」

 

『生涯無事故』のスローガンを掲げ、教習環境を整える

夏休みや冬休みなどの長期休み期間は繁忙期。その時期は早出や残業が多くなり、勤務時間も長くなってしまいます。かつては過重労働の時代もあったそうですが、渡部社長に代わってから働き方改革を行ない、勤務時間、休暇取得ともに改善を行なってきたそう。

「社員の健康については、肉体面、精神面の両方で常に注意を払っています。繁忙期であっても十分に休みは取ってもらいますし、閑散期には長期休みも優先的に取得してもらいます。社員の休みを優先することで教習生の受け入れをお断りすることがあり、経営者として惜しいと思う面もありますが、社員の体調を整えるのも私の役目ですからね。社員のストレス緩和と問題を放置しないために総務担当の常務が相談役となり、社員の悩みを受け止めてくれています。直の上司では話しづらいところもあるので、彼がホテル従業員も含めて全員の話を聞いてくれているんです。『生涯無事故』を弊社のスローガンにしていますが、それを実現させるには教習生だけでなく、社員の満足度も高めないといけないと思っています」

今後、人手不足の解消についてはオンライン授業を取り入れて改善することも視野に入れていると言います。その環境を整えることが今後の課題です。

「年内には、オンラインの学科教習を導入する予定です。教習生は各部屋で授業を受けられるので、一度に多くの人が受けられるようになります。また録画した学科教習をいつでも見られるシステムにすれば、教習スケジュールの短縮が可能になるほか、学科教習を請け負っていた指導員が実地教習に回れるので、人手不足の解消にも繋がります。2年ほど前に提案されたときには、不安もありましたが、コロナ禍でオンライン授業やリモートワークが進み、受ける側も慣れている人が増えているので、実施していこうという判断に至ったんです」

渡部社長が繰り返していたのは「教習を通して交通安全の大切さを伝えていきたい」ということ。教習生が満足できる教習を提供することで運転の楽しさが伝わり、それが交通安全を心がけるきっかけになればいい。その強い意志を感じるインタビューでした。続いて、指導員を務める3名にお話を伺います。

 

車好きが仕事に繋がる

—— 勤続年数と指導員になったきっかけを教えてください。

佐藤浩一さん:入社して21年です。岐阜出身で、家庭の事情でIターンしてきました。岐阜にいたときにも自動車学校で勤務していたので、米沢でも同様の仕事を探していたところ縁がありました。指導員になったのは車が好きだったこともありますが、自分が免許を取得したときに指導員の方の働く姿がかっこよく、憧れを持ちました。

斎藤小百合さん:入社15年目です。入社後に事務の仕事をしながら指導員の資格を取りました。年に2、3回しか試験がないので、取得するまでは1年がかり。先輩の指導員にサポートいただきました。私は普通自動車免許を取るときにも、本校を利用していて、そのとき何度か指導してくださったのが佐藤浩一先生だったんです。佐藤先生以外にも指導員の方はみなさん親切で、私もやってみたいと思いました。

石田崇さん:入社して5年目です。大学で東京に上京し、5年前にUターンしてきました。以前はまったく別の仕事をしていましたが、運転が好きだったので、Uターンを機に自動車学校に転職を。最初は送迎の仕事をしながら勉強をして資格を取りました。茨城に「自動車安全運転センター 安全運転中央研修所」というのがあり、そこで3週間研修をして資格を取得するプログラムに参加させてもらい、そこで合格をいただきました。

 

教習生から感謝される仕事

—— 指導員としてのやりがいは何ですか。

佐藤さん:初めて免許を取得される若い方に教習を通して、交通安全を伝えていけることだと思います。気さくに話しかけてくれる方とは、車の運転以外の話もしたりして、楽しいですね。実地教習では基本的に50分間車の中で1対1なので、いろんな話をします。

斎藤さん:私は普通自動車よりも普通自動二輪車やトラックなどの他車種を担当しています。普通自動車免許の指導員資格を取得したあと、他車種の資格も取りました。自分のレベルを上げたいのもありましたし、どの車種も運転が楽しいです。最近は自動二輪車の免許を取得する女性も増えているんですよ。教習生の方が試験に合格した際に「ありがとうございました」と感謝を伝えに来てくださるときには、うれしいですね。

石田さん:初めて運転されるので、最初はみなさんスムーズに運転ができません。それができるようになったときに、感謝していただけるのが一番ですね。

—— 指導するうえで心がけていることはありますか。

佐藤さん:運転そのものが楽しいと思ってもらえるように、なるべく楽しい会話をしながら教習することです。その中で、危険運転や交通事故に繋がる行動も伝えます。そのバランスを上手に保ちながら教習するのが難しいところでもありますね。

斎藤さん:他車種の教習では、自分のレベルが未熟だと感じることもあります。教習生にうまく伝えられていなかったり、聞かれてわからない部分はすぐに先輩に聞いて実践するように心がけています。休憩時間に運転の練習をすることもありますね。少しでも教習生のためにできることはやっていこうと思っています。

石田さん:世代や地域もさまざまな人と触れ合うので、その人に合わせた対応をしていくようにしています。年下だとしてもタメ口で馴れ馴れしくしすぎないとか、逆に向こうがフレンドリーであれば、フランクに話したりも。接し方は工夫しています。

社会の流れに柔軟に対応していく職場

—— 働く環境について教えてください。

佐藤さん:社長が気さくな方なのもあって上下関係はあるけれど、若い指導員が先輩指導員に気軽に話しかけられる雰囲気があるのはいいと思っています。近年は、指導員にも休みを増やそうという動きがあり、繁忙期でも休みが取りやすくなったのはよかったです。社長が「休みがないといい教習ができないのではないか」と考えて改善してくださったのは、ありがたいですね。

斎藤さん:指導員の先輩方は、私に悪いところがあったり、なにかミスしそうだったら、すぐに言ってくれたり、しっかり注意してくれます。見て見ぬふりではなく、注意してくれるのはありがたいことですよね。また、指導員で産休、育休を取るのは私が初めてでした。前例がないことで会社としても戸惑いがあったようなのですが、繁忙期でも教習時間を調整してくださったり、復帰後も急な早退に対応してくださいました。まだまだ例が少ないので、対応しきれないところはあるのかもしれませんが、これからもっと改善していくと思います。

石田さん:研修が充実しているところが素晴らしいと思います。私は右も左もわからない状態で指導員を目指しましたが、先輩方が気にかけてくださって、わからないところは相談にのってくれたのは心強かったです。以前の職場は、あまり同僚同士の会話が活発ではなかったので、職場のアットホームな雰囲気にあたたかみを感じています。

佐藤さん:働き方が変わってきている時代において、教習所は他の業種に比べて遅れている部分があります。ですが今後は、オンライン授業の導入など時代のニーズに合わせていくことに力を注いでいます。若い世代にも頑張ってほしいので、その骨組みを作っている最中です。

人生で初めてトライする自動車免許の教習は、不安と恐怖でいっぱいの人がほとんど。その気持ちを少しでも緩和して、楽しく免許取得ができることを一番に考える指導員が米沢自動車学校には揃っています。それが全国で合宿教習1位を争う人気校である理由です。ただそれは、指導員を支える職場環境があってこそ。人、環境ともにサポートが万全であることがいえます。自動車学校は安全を伝える場なので、責任の大きい仕事にはなりますが、教習生から「感謝を伝えてもらえる」ことに絶対的なやりがいを感じられるはずです。

取材・文_中山夏美