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美味しさに安心・安全を添えて

株式会社米沢食肉公社 / 商品開発職

インタビュー記事

更新日 : 2024年07月09日

一貫した生産体制で“おいしさ”と“安心安全”を届ける

米沢の象徴ともいえる「米沢牛」。美しい霜降りが自慢の最高級ブランドで、県外にもそのファンは存在します。その米沢牛を支える会社が「株式会社 米沢食肉公社」です。米沢牛のセリ市場の開催と牛肉、豚肉の部分肉製造販売をメインにハム、ソーセージ、サラミなどの食肉加工品の製造販売まで行なっています。まさに米沢市の食肉全般をサポートする縁の下の力持ちです。今回は代表取締役社長の佐藤康寛さんと社員の三浦崇さん、井上諄子さん、神野将さんにお話を伺いました。

株式会社米沢食肉公社 事業概要

畜産の振興および食肉流通を目的に、産地体制を整備する農林省構想に基づき、置賜広域農業経済圏事業の一環として昭和39年8月に「置賜畜産公社」が設立しました。
平成15年に牛のトレーサビリティ法(牛を個体識別するための情報や管理及び伝達に関する特別措置法のこと)が制定されたことにより、米沢牛の銘柄確立が顕著になったことから、「米沢」を冠に「米沢食肉公社」と社名を変更。より地域密着型の会社となりました。

主な事業は、米沢牛の枝肉セリ市場の開催、牛、豚枝肉、部分肉、精肉の製造販売。ハム、ソーセージ、サラミなどの食肉加工品を自社ブランド化して製造販売もしています。セリの開催は、年間で29回。米沢牛は1年で3000頭出荷されますが、そのうち約2000頭は社内にあるセリ市場に上場されます。セリ参加者のうち、6割は米沢市の肉屋や卸業者で他の3割が県内の方、県外からの来場者が1割です。セリで落札されたお肉は、地元での消費に加え、各卸売企業を通じて全国のホテルや高級料理店に出荷されていきます。

食肉処理から加工品の製造販売までを一貫して社内で行なっている会社は、全国でも稀。その“一貫制”が最大の強みです。

国内屈指のブランド牛として評価が高い米沢牛。そのほとんどの出荷を担う米沢食肉公社は、安心安全を前提に「おいしさを届ける」ことに力を注いでいます。原料から商品化まで同施設内で一貫生産を基本とする理由について、代表取締役社長の佐藤康寛さんに伺いました。

佐藤康寛社長

 

捨てる部分を出さない。すべてに付加価値をつける

米沢食肉公社では、と畜処理だけでなく、そこから精肉の販売、さらには加工品の販売も行なっています。自社内で食肉流通のすべてを完結させている企業は、国内でも少ないといいます。

「一般的には、と畜後に枝肉や部分肉にしたものを卸業者に出荷するまでを担う企業が多いですが、弊社はそこに付随して、ハム、ソーセージなどの加工品まで作っているのが強みです。昭和48年からOEMで製造を始め、そこでハム、ソーセージへの知識を深めていきました。平成5年には自社ブランドを立ち上げ、より食肉加工品に力を入れております。一番の売れ筋は、米沢牛入りのサラミです。施設内で処理をした肉は細部まで商品化し、捨てる部分をなるべく出さないようにしています。加工品以外でも、豚の脂や豚骨なども販売していますし、どんな部位でも有効活用をして付加価値をつけるというのが弊社のポリシーです。大切な命をいただいていることを忘れないようにしています」

商品開発も自社で行ない、現在、ハム、ソーセージのほかにサラミ、カレー、いも煮など41種類ほどの商品を販売。“細部まで使う”ことは、商品へのこだわりにも繋がります。また、どの商品もすべての工程を自社内で行なっているので、確かな品質を届けることができるのです。

「弊社のセリに出る米沢牛の7割はA5ランク。素材の良さを最大限に活かしたいと考えています。また、天元豚や米澤豚一番育ち、米沢三元豚などの置賜地域で生産されているブランド豚肉も、非常に品質が高く、脂までおいしい。ハム、ソーセージ、サラミはその脂を使うので、ワンランク上のおいしさが確保できるんです。豚は脂が大量に出ますが、一切無駄にはしていません」

 

「ビハインド」のときこそ強い

平成13年にBSE(牛海綿状脳症)事件が発生し、歩行困難になった牛が倒れる映像をテレビなどで見たことがある方もいるのではないでしょうか。その影響で牛のセリ値は低下。加えて平成14〜16年にかけて発覚した牛肉偽装事件により、食肉業界は大きな変革のときを迎えました。

「BSEのまん延防止措置と偽装ができないようにするために、牛トレーサビリティ制度の運用が始まりました。1頭1頭に個体識別番号をつけ、出生地や肥育地を明確にすることが義務付けられたんです。これによって、産地偽装のようなことは一切なくなった。逆にいうと“質が良くておいしい牛肉が米沢牛”という証明ができるようになったわけです。本物を求める志向が高まっていく中、需要に比べて生産頭数が少ないので、希少性によって価値も上がりましたし、きちんとおいしさが評価されるようにもなりました。当初は不安がありましたが、行政、JA、商工会議所、販売者、生産者そして弊社が一丸となって『安心でおいしい牛肉を作りましょう』と「米沢牛安心宣言」を行なったことは、改めて米沢牛の魅力を広めるターニングポイントとなりました」

東日本大震災でも、食肉にとって大きな問題が出ました。福島第一原子力発電所の事故で放射性物質に汚染された稲わらを肥育農家が牛に給与したことから「東北の食肉は放射能汚染があるのではないか」という風評被害が発生したのです。

「放射性物質が残留した牛肉が流通しているといった風評被害がありました。それを受け県が主体となって全国でいち早く放射性物質の全頭検査を行なったんです。すぐに対応できたことで風評被害を払拭し、安全であることを迅速に伝えることができました」

今年の12月から新たな取り組みとして、32か月飼育してからの出荷を1か月延ばし、33か月飼育に変更されます。再び米沢牛にとって変革のときが近づいています。

「本来、黒毛和牛は33か月以降、1000日以上の肥育でおいしさが際立ってくると言われているんですね。ただし、飼育期間が延びれば飼養管理のコストがかかってきます。物価高騰で飼料も高くなり、ダメージを一番に受けるのは生産者です。だからこそ、販売する立場の方も、流通にかかわる私達も持続可能な生産を達成するために生産者と協力関係でいないといけないと感じています。これまでも大きな問題はありましたが、ビハインドのときに強いのが飛躍できた理由だと思っています。大変な時期こそ、創意工夫しながら対応していきたいです。待っているだけではダメ。与えられるのを待つだけではなく、自らが動く。私はそういうやり方のほうが好きですね」

 

生産者のためにも新しいことに取り組みたい

食肉加工品の販売は、道の駅や高速道路のSAなどお土産物が主体。コロナ禍によってその収益が大幅に減り、対策として新しい取引先を増やしたり、自社ECサイトにも力を入れ始めたそうです。

「コロナ禍での収益低下を受け、細々と始めていたECサイトを強化しました。実際にやり始めると需要があることがわかったので、2022年にはEC部門を新しく立ち上げ、本格的に運営していくことになりました。弊社は、米沢牛流通のど真ん中にいるわけなので、生産者を助けるためにも頑張るつもりでいます。ここからがスタートです」

商品開発や社員からの新しい企画はどんどん取り入れ、トライをしてみるのが会社の方針。そこには佐藤社長の熱い思いが込められています。

「例えば食肉加工品についても、以前はハム、ソーセージだけだったんです。それが今は41種類にも増えた。それは社員が商品開発を繰り返しながら作り上げた功績だと思います。今年は新たに牛革を使ったランドセルの販売も始まります。食品以外では初めての商品になるので、まずは米沢市の小学生に広まってくれたら、うれしいですね! 食肉処理場が関われることで、やっていきたいことはたくさんあります。そして今後も、もっともっと探していきたい。そうでなければ企業の発展は望めません。生産者がせっかく高品質なものを提供してくださっているので、それを伝えるための追求はしていきたい。消費者の方に喜んでいただける商品を作っていきたいと考えています」

社員の資格取得奨励制度や、社員同士の会合は会社負担でお金が出る制度も。意見が言いやすい現場、そして成長ができる企業としてあらゆるサポートをしています。

「食肉学校に研修へ行ったり、肉の検定を受けている社員もいますね。いつも社員には『自分に投資しなさい』と伝えていて。本を読んだり、映画を観たり、海外旅行に行くことで幅広く物事を見られるようになります。視野を広げることは、自分のためになるだけでなく会社のためにもなる。その想いは強調していきたいですね。コロナ以前は社員旅行も毎年あり、費用は会社が半分負担していました。コミュニケーションを取ることで生まれるものもたくさんあるので、そういう機会は大事にしていきたいです」

 

会社の士気を上げるのは組織力

と畜や部分肉の解体というと専門職のようにも感じますが、未経験で入社する方がほとんど。社員教育の中で、その技術を磨いています。

「総合職として採用して、男女問わず各部門に異動してもらいます。組織力を強くすることが重要と考えているので、社員はどの部署に所属しても仕事ができるように教育しています。みなさん初めは技術を持っていませんが、社員の話を聞くと『先輩が優しく指導してくれる』と答えてくれるんです。私から見ても社員が成長しているのがわかるので、組織力を上げようと頑張ってくれている社員が多いことに喜びを感じています」

「会社を良くできるかは人次第」と佐藤社長は考え、社員への投資を惜しみません。社員が育てば、会社も成長していくという想いが強い組織力に繋がっています。それが逆境に負けない会社となった理由ではないでしょうか。次は社員3名にお話を伺います。

 

やりがいと人の優しさを感じる職場

—— 仕事の内容と職場の雰囲気を教えて下さい。

三浦崇さん:2015年入社の9年目です。品質管理課に所属し、商品開発、製造の管理をしています。課の枠を越えた仕事をさせてもらえることにやりがいを感じています。私はUターン組なのですが、県外で働いていたときと比べて家族と過ごす時間が増えました。以前も同じ職種でしたが、残業も多く、家庭をかえりみる時間をあまり持てなかったんです。今は週末に子供と遊んだり、部活動を見に行ったり、そういったことができるようになりました。

井上諄子さん:2022年入社の2年目です。三浦さんと同じ品質管理課に所属しています。製品の検査であったり、と畜現場を回って衛生管理も担当します。私は山形市から米沢市に移住してきたこともあって、入社当初、先輩方がたくさんの声をかけてくださいました。温かい人が多い職場だと感じています。また、大学時代にお世話になった人や友達に弊社の製品を送ると、すごく喜ばれることもうれしいです。

神野将さん:2016年入社の8年目、業務課に所属しています。牛や豚を枝肉に解体する作業を担当しています。命をいただく仕事は、なかなかできることではありません。人が経験できない仕事をさせていただいていると思っています。どれも力仕事なので、大変ですが、テレビなどできれいに精肉された肉を見ると「この仕事をしていてよかったなぁ」と実感しますね。

 

学べる機会を提供してくれる

—— 会社の魅力はどんなところに感じていますか。

三浦さん:私の仕事のひとつに食品表示の管理があります。産地偽装やアレルギー対策などもあり、表記の仕方は日々更新されているんです。毎日勉強していかないと、ついていけなくなる分野でもあります。もしミスがあれば自主回収の恐れもあるので、講習会などは積極的に参加。東京で開催の際にも会社がサポートしてくれ、資格を取るときにも援助いただいています。惜しみなく勉強をさせていただける環境には、感謝していますね。

井上さん:1年目から研修に行かせてもらいました。現場の安全に関することも勉強できましたし、学べる職場だと思います。また、私は米沢市に知り合いもいなかったので、そういう場に行かせていただけることで出会いがあったことも助かりました。職場の方は、仕事のことだけでなく、米沢での暮らしについても親身になって教えてくれますし、気軽に質問ができる雰囲気を作ってくださっていることにも働きやすさを感じています。

神野さん:アットホームな雰囲気で、社員同士の仲もいいです。仕事と関係ないことも話せる関係性が築けていることですね。以前は新年会や社員旅行もあったので、違う課との交流も多く、コミュニケーションも取れています。私はと畜の技術があったわけではなく、先輩に教えていただきながら経験を積んでいきました。そのときによく言われていたのは「慌ててしまうと自分もケガをするし、商品にも傷がついてしまう」ということ。少しでも精肉になる部分を多くし、無駄にしない。その会社のポリシーにも共感をしています。

 

慣れ親しんだ土地は働きやすい

—— 三浦さんと神野さんはUターン組ですが、地元で働く良さを教えて下さい。

三浦さん:一番良かったのは自分の言葉で話せるということです。県外では標準語で話さなきゃと思って、どこか遠慮気味でしたが、今は子供の頃から親しみのある言葉で話せるので、リラックスして過ごせています。地元の方は温かい面があって、面倒みもいいです。両親や親戚も近くにいるので、子供を預かってもらったり、困ったときに周りに助けを求めやすい。その分、仕事にも集中しやすくなりました。

神野さん:私は中学から大学までホッケーに情熱を注いできました。ホッケーにはずっと関わっていきたいと考える中で、大学のある関西から就職を機に山形にUターン。今は、国体山形チームの監督をしているので、会社を休まないといけないこともあって迷惑をかけることも…。そんな状況にもかかわらず、周囲にホッケーへの理解がある方が多く、好きなことと仕事を両立できる環境が整っていることがうれしいですね。

 

働く中で学んだことを継承していく

—— 今後チャレンジしていきたいことを教えて下さい。

三浦さん:せっかく入ってくれた新しい人たちには、今後も会社をより良くしてもらえるように指導していきたいです。品質管理は覚えなくてはいけないことや細かい作業が多いので、きっちり引き継いでいけるようにしたいと思っています。

井上さん:今の仕事を学んでいくとともに、美大卒なので、それを活かして自社商品のパッケージ開発などに携われたらいいなと思っています。後輩が入ってきたときには、教えられる人になっていることも目標です。

神野さん:主任になって2年目なので、これからは若い人たちの指導に力を入れていきたいです。自分が持っている技術を伝えられたらと思っています。

 

専門分野が求められる職種ではありますが、学べる環境を整えてくれているので、やりたい気持ちがあれば飛び込める会社です。また国内でも有数のブランド牛である米沢牛の生産を支え、躍進させるお手伝いができるのも米沢食肉公社の魅力。食品を通して地元貢献に関わりたいと考えている人には、ふさわしい仕事だと思います。

取材・文_中山夏美