本質を忘れず、新しいことにチャレンジ
長谷川海秀さんは株式会社ながようの3代目。高校を卒業後、跡継ぎ修行として大手ガスメーカーで営業としての経験を積んだ後に、家業である自社に入社しました。山形営業所所長、専務取締役を経て2022年に代表取締役に就任。不易流行(いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていく)のビジョンを掲げ、新たな企業体制を構築すべく邁進しています。
社長の趣味は高校時代から取り組んでいるラグビー。現役のラガーマンとして週末は汗を流しているそうです。
成長はお客様とともに
ながようのメイン顧客は、高圧ガスを必要とする人たちで、具体的には、溶接、鉄工、板金等の工場や製作所、病院、葬儀屋、食品関係、設備業者など幅広い業種業態が特徴です。時代の流れとともに新しい技術に付随するガスの需要が変化する中、地域最前線に立ち多種多様なガスを販売してきました。
さぞ業界のトレンド把握に力を注いでいるのだろうと思いきや、意外にもこんな答えが返ってきました。
「ガスというのは機械の付属品の一部ですから、自分たちで情報収集する以上に、お客さんに教えてもらう機会の方が多いんです。お客さんが新しい機械を買い、そのニーズに対応する形で今まで使ったことないようなガスを使う。それで一緒に勉強させてもらう。そんな形で需要を増やしてきました。」
「お客様の新規のニーズに対応する場合、ガスは基本的に頂けるお代は中身のガスの分だけですから、準備した容器の価格や、その容器の回転率などを考える必要があります。何本準備すべきか? どれくらいの使用量があるのか? どのくらいのペースで必要か? といったところをトータルで算出し、その上で価格を設定していきます。同じガスでも、液体か気体か、使用量が多いのか少ないのか、供給圧力はどのくらいなのかなどで、販売価格も供給の方法も変わってきます。最適な供給方法と満足度の高い対応をすべく日々努力しています」
安定供給×迅速な対応力で、お客様の信頼を獲得
お客様によって使いみちが異なる高圧ガス。どんな形にせよ最も大切にしているのは「安定して供給すること」だと言います。そして合わせて力を入れているのが「迅速な対応力」です。
「高圧ガスは安定した品質管理のもとで出荷されているため、どこから買ってもその品質的なものに差はありません。勝負すべきところは価格やスピード、つまり『対応力』です。価格は大手に敵わないので当社では『迅速な対応力』で勝負しています。」
商材プラス付加価値を見出してくれるお客様を大切にしたい。その思いのきっかけとなるエピソードがあります。それは取締役がまだ駆け出しの頃......。
「修行時代、上司と一緒に顧客の挨拶回りをしていた頃、『君のところは高い』と言われることがよくありました。帰ったら上司に怒られるなぁと思ってたところ、思いがけず上司に『高くても買ってもらえるんだから大した営業だ!』と褒められたんです。高く売ることよりも、お客様との信頼関係が作れていたことを評価されたのだと思います。」
ながようがお客様から厚い信頼を受ける理由には、付加価値と迅速な対応以前に、根底にあるものがあります。それは先代社長が掲げた「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という企業理念です。
「医療機関や24時間稼働の工場などでは確実に安定供給ができる体制を作っていますが、それと同等で多いのが電話注文による依頼です。他の仕事をしながら新しい注文が入るわけですが、たとえどんなに忙しくても当社しか持っていけない商材ですから、NOと言わずにお客様に何時だったらできるということを伝えてお断りをしないということを社員一同で心がけています。」
確かな信頼を加速させる「個の力」
個人商店のような社風でありながらも注目すべきは、「個の力を高める」という営業方針です。ながようではスタッフ全員が入社後に、会社の指導や費用負担のもと、高圧ガスや危険物に関する資格を取得します。社員の知識を高め、より良い提案のできる人材を育てる事で、組織力の向上に繋げていきます。
「知識というのは本人の一番の財産ですから、できるだけ個々のパワーをつけてもらうための体制としています。それから、高圧ガスに関する事故防止のセミナーや、個人情報を守るための最低限必要な知識を得るための定期的な社内勉強会も実施しています。」
「個々の営業担当者により得意分野は違いますし、知識や強みも異なります。大切なのは、そこでいかにお客さんに寄り添った提案営業ができるか。ただガスを運ぶだけではなく、常にお客様目線の提案できる営業、配送員になってほしいと思っています。」
取り扱う品目が高圧ガスという危険が伴うものであるため、新入社員は1〜1年半は、マンツーマンでの指導を受けながら勉強をします。独り立ちは一通りのことが安全にできるようになってからという体制。資格も取れてサポートもある。未経験者には嬉しい環境です。
地域と人が自分を成長させてくれる
「当社はお客さんのところに行かなければ商売にならない業種ですから、必ず人との接点があります。その中で人の温かみに触れられる部分もありますし、もちろん厳しく指導されることもあります。それによって、人を介して自己が成長したり、人の厳しさに触れることで自分が研ぎ澄まされる。人は人によってでしか磨かれないと思うのです。」
「社内教育以上に自分を一番成長させてくれるのは、お客様との付き合いである。」という社長の言葉には、ながようの地域における存在意義そのものが込められている気がします。とくに「自分が」ではなく相手を思い提案ができる方は、そのスキルを存分に活かして活躍できる場がながようにはあります。
インタビュー後半では、現場で働く2人の営業スタッフにお話を伺いました。
過ごしやすい山形で、邁進する日々
—— 入社のきっかけを教えてください。
山口敬史さん:2005年に新卒で入社しました。山形県高畠町で生まれ育ち、北海道の専門学校を卒業した頃はちょうど就職氷河期でした。そんなときに偶然、親戚が当社を退社するというご縁があり、山形に戻り就職しました。現在は営業1課に所属し、商品のご提案から取り付け説明までを担当しています。
石沢真依さん:私は山形県米沢市出身で、関東に就職した後に2020年に山形に戻り、知人の紹介で入社しました。ちょうど2年になります。現在は家燃課いう部署で、主に一般家庭のガスの検針や灯油の配送を行っています。危険物の資格や、トラックを運転するために必要な中型免許は入社後に会社のサポートで取得しました。
—— 山形はどんなところですか?
山口さん:実家が兼業農家をやっているので、農業の手伝いをしながら働ける、そんな暮らしと仕事が地続きなところが気に入ってます。それから、山形はどこに行くにもちょうどいい場所です。都会を経験している人なら、仙台や東京は意外と近く感じると思います。
石沢さん:山形=田舎というイメージを持っている方は多いかもしれませんが、住んでみると、車を運転してどこでも行けますし、不便だなと思うことがそれほどありません。とくに子育てには最適な場所です。私の場合は実家が近くにあるので、親が育児を手伝ってくれる環境が心強いです。山形に戻ってからは、仕事も気持ちも暮らしの面でも全て安定していて、とても充実した毎日を過ごしています。
—— 自社の強みはどんなところだと思いますか?
山口さん:一番は「家燃課」の存在だと思います。地域の家庭をまわり、なおかつ地域の工場もまわってますので、お客様との関係性やつながりが構築されます。それから地域を支える存在として「すぐに行ける」という点も強みです。同業他者と比較し商品の知識やアフターメンテナンスをどこまでやれるか、そして一番に安定供給というところで差別化を図っています。
石沢さん:当社は昔からの付き合いのお客様が多いと聞いていますが、実際にその信頼関係の厚さを日頃から感じます。お客様とは業務のやりとり以外で、たわいないことを喋るのがとても大事だなと最近よく感じています。入社して間もない私としては、それを壊さないように日々心がけています。
—— 仕事のやりがいや魅力を教えてください。
山口さん:10年ほど営業を経験し、今は「やっと」という感じです。お客様にアフターケアやメンテナンスを行う中で新商品をご提案させていただき、日々アップデートを心がけています。年数が経っていくと、お客さんの工場に自分が売った商品が並んでいくのですが、その光景を見ると会社への評価や信頼が垣間見えて、充実感ややりがいを感じます。
石沢さん:今はまだまだですが、自分がこなせるかこなせないかほどの量の仕事をこなせたときには充実感を感じます。
—— これからチャレンジしてみたいことは?
山口さん:高圧ガスでも種類があり、資格が違うんです。トラックで配送するにしても資格が必要ですし、すべて資格で守られてる業界です。私の場合は資格の全網羅を目指していて、現在はプロパンガスの資格取得のために勉強しています。スキルアップをサポートしてくれる社内の環境は本当にありがたいですね。
石沢さん:私は日常の業務に関わるところでプロパンガスの資格を取得しました。オンラインで3日間の講習があり、業務時間を割いて勉強しました。当初は入社2年での資格取得はハードルが高いなと感じましたが、日頃から「資格が自信になる」と教えて頂いているので、意を決して挑みました。やはり資格があると自信持ってお客様の元に伺えます。これからもいろいろな資格を取って、さまざまなことに携われるようになりたいです。
徹底した顧客目線の姿勢と地域からの厚い信頼を武器に、ラグビーチームのように社員が一丸となり目標に邁進する株式会社ながよう。単なる営業や配送員ではなく、地域社会という舞台で自分の力を試したい、自己成長したいという人には、とくにやりがいを感じられるはずです。
取材・文_高村陽子