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地域資源をお酒にし、世界に届ける

株式会社小嶋総本店 / 酒造りスタッフ

インタビュー記事

更新日 : 2022年10月13日

日本酒の文化的価値を問い、世界へ。
人々の暮らしを彩り、豊かに。

安土桃山時代、慶長2(1597)年に創業し、今年で425年の歴史を繋ぐ小嶋総本店。新たな価値を見出し続け、全国各地への販売に加え、世界20カ国以上への輸出も行っています。小嶋家24代当主 代表取締役社長の小嶋健市郎さん(中左)と、製造部製品課課長 兼技術開発統括の岡田有司さん(右)、仕込み課 小野晶さん(中右)、事業開発室 兼務 販売課 五十嵐有佳さん(左)にお話を伺いました。

株式会社小嶋総本店 事業概要

創業425年の小嶋総本店は、国内で1000蔵以上ある酒蔵の中で、13番目に長い歴史を持っています。江戸時代からは、上杉家御用酒蔵としてお城にお納めする酒蔵になりました。なじみ深い「東光」というお酒の銘柄は、小嶋総本店が米澤城から見て日の出の方角にあることから名付けられたもの。日本酒や梅酒の製造販売のほか、甘酒の販売も行っています。

日本酒造りは稲作と発酵という、日本文化の中でも重要な要素を持っています。小嶋総本店では「酔う」というアルコールの基本機能だけではなく、おいしさや精神的な豊かさを提供する「日本の文化的な工芸品」ととらえ、日本酒によって人々の暮らしを彩り、豊かにすることが企業としての存在価値であると考えています。世界各国で日本酒が知られるようになりつつある今、文化的価値を常に問い直し再定義しながら、新たな価値を見出し続けています。

日本酒から
人々、地域、そして社員の幸福に貢献

—— 小嶋社長が会社を経営する上で、大事にしていることは何ですか?

「社是として、人々の文化的で心豊かな生活の実現に貢献すること、従業員の幸福と発展・社会的責任の達成、地域との共栄・社基調和・自然との共生を掲げています。

日本は独自性のある文化において、中でも稲作と発酵というのは重要な意味を持っています。また、気候風土という面でも、雪が多く質の良い水がある山形の風土で造られた日本酒という地域性がありますので、、そのような文化や風土を活かした酒造りをすることで、人々の暮らしを彩り豊かにする一助になりたい考えています。

また社員一人ひとりの人間性を大切にしています。京セラ創業者の稲森和夫さんは、仕事の結果は考え方×熱意×能力という3つの掛け算で決まる、とおっしゃっていました。特に「考え方」は車でいうハンドルにあたる部分で、この考え方次第で仕事の結果は180度変わってしまいます。そこで月に一度、社員皆で月刊誌「致知」を読む木鶏会を実施。それぞれの感想を共有することで、仕事への向き合い方は勿論、個人や家族としての生き方を学び合う機会になっています。そして、一個人としての人格を共有し合うことで、職場を共にする一人ひとりが単なる職業の役割ではなく、1人の人間として尊重し合える場になることを目指しています。

また、農業から始まる醸造物として、持続可能な酒造りを目指しています。地球の裏側から運ばれてくる醸造アルコールのような添加物を廃止し、米と水で造る純米酒だけを製造しています。そして、原料由来の廃棄物はゼロです。例えば製造工程で出る酒粕はそのまま販売するのみならず、蒸留して梅酒造りに活用したり、果樹園の肥料にしてもらったり、最近ではバイオガス発電の発電原資にしてもらうなど、取り組みを進めています」。

 

日本酒を世界に。
時代を見つめ、続く挑戦

—— 小嶋社長は10年前米沢に戻られたと伺いました。その経緯と、戻られて始めた事業など教えてください。

「神奈川県の大学に進学し、日用品のメーカーに就職。マーケティングの仕事をしていました。その後アメリカに渡って輸入卸の企業に勤務。30歳の時米沢に戻りました。アメリカでは、日本に戻ったら小嶋総本店の日本酒を世界へ輸出したいと考えていて、すぐに実行。当時は1カ国のみでしたが、今では20か国以上に輸出を行っており、売り上げの3割以上を輸出が占めるようになりました

国外へ販売をしていると、自分たちにとっての当たり前が、日本以外ではそうではなく、思いもよらぬところで評価されることがあります。反対に、伝わると思っていたことが伝わらない経験も沢山してきました。単に成長する市場というだけでなく、自分たちを見つめ直す機会を沢山いただいています」。

—— 長い歴史を持つ小嶋総本店ですが、コロナ禍には苦労をされたのではないですか?

「コロナ禍に限らず、小嶋総本店は大正時代の大火で焼失したり、戦争中は国策で蔵元が減らされるなかなんとかのれんを守ったり、様々な大変な時代を乗り越え、今日まで続いております。

コロナ禍には国内・国外共に飲食店での販売が難しくなり、店頭で購入していただけるように販売をシフトしました。国内の営業担当の努力はもちろん、輸出先のパートナー自身も各国での販売方法を見直していたので、パートナーのECサイト用の画像や動画素材を提供したり、ウェビナーの開催にはゲストで登場するなどしてきました。そして2022年9月決算期ではようやく、コロナ禍前の売り上げを上回るまでになりました」。

 

さらなる可能性を見出して

—— 小嶋総本店の強みを教えてください。

「輸出をしていると『小嶋総本店は自分の国よりも古いね』と言われます。歴史の長さに価値を感じていただくことが多いですね。また、アルコール飲料は国内での消費量が減少傾向にありますが、特に日本酒はマーケットが世界に開けているという点で、国内の人口減少をカバーしやすいと思います。世界の人口は、むしろ増えていますからね。日本酒は伝統産業ですが、世界に需要があることから、これからの産業としてまだまだ大きな可能性があると考えています。

加えて、これまで国内外で開催されたいろいろなコンテストで名誉ある賞を受賞しています。コンテストのためにお酒を造るわけではありませんが、東光を知らないお客様に、東光を試していただくきっかけになっていると思います。」。

—— 今後、どのような人と一緒に仕事がしたいですか?

「誠実さと探求心が大切だと考えています。日本酒はバラつきのある農産物を、微生物が醸して生まれるものです。複雑だし、人間がコントロールしきれないことも多いです。なので、そこに仕事としてだけではない、何かしらの面白さを感じ、自分で深めていきたいという思いがある方が楽しめるはずです。

それからおいしいものが好きな方がいいですね。おいしさというのは本能的で、この世からなくなることのない喜びの1つです。お酒が飲めなければいけないというわけではありませんが、自らがおいしいものを生み出しすことに、喜びや感動が得られる人が向いているのではないかと思います」。

 

社員それぞれの小嶋総本店との出会い

—— 現在担当されているお仕事と、入社されたきっかけを教えてください。

岡田さん:「私は入社して20年になります。仕込みを経験し、今は製品課の課長を務め、在庫を切らさぬよう、仕込まれたお酒が実際に瓶に入りラベルを貼られるまでの製造計画を担当しています。また、仕込み課が造ったお酒を調合し味を確かめ、最終的に小嶋社長に判断いただいた上で品質の均一化も図る役目も。実際にお客様の飲まれるお酒の味を評価するところまでが私の仕事です。

実家は神奈川で酒蔵の近くにある山形大学工学部出身です。学生の頃経験した満員電車が嫌で、卒業後も戻らず宮城県仙台市にある電機メーカーに就職。ファクトリーオートメーションの設計業務に4年間携わっていました。日本酒が好きな上司に、よく飲みに連れていってもらって私も日本酒が好きになったんです。仙台には日本全国の日本酒が集まっていて、いろんな味を飲み比べ。それでも裏を見ると原材料には米と米糀の2種類しかない。何千種ものバリエーションが2つの材料からできるなんて驚きましたね。米沢にはリクルーターで毎年来ており、その度に学生のころアパートを借りお世話になっていた大家さんである小嶋総本店に挨拶も来ていたんです。ある時ふと日本酒が大好きだという話題から『私もここで造っていいですか?』と言ったら現会長に『いいんじゃない?』と言われ(笑)。就職することになりました」。

できあがったお酒をテイスティングする岡田さん。お客さまへ届くまでの味を評価・管理します。

小野さん:「現在入社8年目。仕込み課に所属し、日本酒の原料となるお米を削る精米と、糀づくりを担当しています。私は東京都出身です。東京農業大学の醸造科学科を卒業しました。日本には一つしかないので興味を持ったんです。同級生には酒蔵や、味噌とか醤油の蔵元の息子娘が多くいましたね。どんな職業を目指すかは決まっていなかったんですが、3年生で日本酒に関わる研究室に配属され、島根県にある酒蔵に実習に行ったんです。そこで酒造りの面白さを知り、興味を持ちました。しかし、酒蔵で求人はなかなかないんですよね。そこへたまたま教授のもとに小嶋社長がこられていて。社員を探していると伝えられて。そこで後日面接を受けさせてもらい、入社しました。日本酒を造るならするなら東北でと思っていたので、本当に嬉しかったです」。

日々変化していく仕込みタンクの状態を確認する小野さん。


五十嵐さん:「私は新規事業開発でノンアルコール事業を立ち上げ、担当をしています。これまで当社にはなかった甘酒スムージーは、日本酒をあまり飲まない方にも人気です。それからオンラインストアを担当し、売り上げの管理も。また、会社の情報発信や広告戦略を担当し、スケジュール計画もしています」。

五十嵐さんが商品開発を行った「米糀のあまさけ」。あまさけの滋養と、野菜・果物の恵みを活かしたスムージーを合わせ、素材感のある軽食のような仕上りに。

五十嵐さん:福島県出身で山形大学工学部にある、バイオ科学光学科で物理と科学と生命の勉強をしていました。研究室では歯を研究し、生命材料を作っていました。大学には大手企業やベンチャー企業の経営者が講師としてきてくださる授業があり、経営者が何を目指しているのかわかる企業で働きたいなと考えていました。また在学中は飯豊町にある酒蔵の方と、ヒメサユリから花酵母を採取しお酒を醸すという研究も。結果的に最後までできず悔しい思いをしましたが、そこから生き物がつくる機能性を活かす仕事がしたいと思うようになったのです。すると小嶋社長の奥様が置賜地域の地域を繋ぐコミュニケーション事業に所属していて、活動を通し仲良くなり、就職について相談すると、小嶋総本店を見学することに。お酒造りのかっこよさに惹かれ、就職しました」。

 

モノづくりの楽しさおいしさの実感

—— 小嶋総本店の魅力を教えてください。

小野さん:「自分が造ったお酒が店頭に並ぶのが一番うれしいですよね。商品の一部に関わる仕事はたくさんありますけれども、そのものがお客様に届く。離れた場所で暮らす友人が、写真にとって送ってくれることもあります」。

岡田さん:「わかる!今年の味に対する感想がダイレクトで返ってくるね」。

五十嵐さん:「私は『水』ですね。小嶋総本店には地下水の水源が2つあり、本当においしくて。この土地からこの味で日本酒を体現し、世界中に届けることこそが、強みだと感じています。世界中で当蔵の日本酒を求めていただき、写真に撮ってくれている様子がうれしいですね」。

 

「東光」のおいしさの秘密

—— 小嶋総本店の日本酒の味、おいしさの理由は『水』ですか?

小野さん:「日本酒の8割は水ですから、味への影響は強いです。置賜地域でも水系が異なる場所では水の味にも違いがあります。原料のお米や糀、気候の温度は操作できても、大量に使用する水だけは操作できませんよね。ワインのテロワールがブドウの育った環境だとすれば、日本酒のテロワールは水だと私は感じています」。

岡田さん:「私は小嶋総本店が掲げる『晩酌のお酒』というコンセプトにあると思います。酒造りは年々技術が進化していますが、コンセプトは変わっていません。料理の邪魔をせず、ずっと呑んでいたい味になっています。個性的な日本酒も人気ですが、こうして私たちのお酒は地元や多くのファンに長く愛されています」。

五十嵐さん:「それから造り手である人も!皆が同じコンセプト、最高の日本酒を目指して努力することが、味にも現れるのだと思います」。

 

続くそれぞれの挑戦

—— これからチャレンジしてみたいことはありますか?

五十嵐さん:「私はもっと日本酒以外のところで商品開発をしてみたいです。入社しすぐに米糀の甘酒に取り組みました。スムージーが入っているので、老舗の雰囲気を持ちつつ、ちょっと新しい。日本酒の東光というブランドから、発酵の東光というところまで視点を広げ、もっとたくさんの方に発酵の恵を体に取り入れてもらえたらいいなと思っています」。

岡田さん:「山形県では日本酒の地理的表示GIを取得するなど、テロワール計画に力を入れています。私ももっとそういうところを深めたいですし、そのために良いお酒をずっと造り続けなければいけないと思うんです。世界の人が、日本酒と言ったら日本、だけど山形の酒がいいよねって言ってほしい」。

小野さん:「僕も同じです!日本酒と言えば山形、と思ってもらいたいです」。

 

愛すべき、山形・米沢での生き方

—— 3名とも県外出身ですが、山形の暮らしはいかがですか?

岡田さん:「四季がはっきりしていて、すごく気持ちがいい。それから食べ物がおいしくて。『食』って移住する上で、最も大事ですよね。山菜のおいしさも山形で知りました。雪かきは大変に感じましたが、それよりも食です」。

小野さん:「確かに!おいしいさくらんぼがご近所さんにもらえたり(笑)。私は米沢で結婚し子どもがいます。希望する幼稚園に兄弟そろって入園できたのも良かったです。都市では順番待ちや兄弟別々の園というのも当たり前ですから。近所に公園もありますが、地域をお散歩するだけで楽しんでもらえて。車での移動が当たり前なので、ベビーカーを購入せず、スーパーや施設で借りるなどができ、日常も楽ちんです」。

五十嵐さん:「山形は癒される場所がたくさんありますよ。私は学生の頃の繋がりで、飯豊町にある白川湖のカヌーのガイド等もしています。卒業してからも交流があり、お祭りのお手伝いをしたり。それから歴史ある街並み、城下町に暮らす心地さもありますね。私は週末実家の福島に帰るなど2拠点生活もしています。今やリモートで話したり交流ができる時代ですから、どんどん住み心地の良い場所に暮らすべきだと感じますね」。

 

小嶋社長はもちろん、社員一人ひとりの中に「おいしいものが好き」「おいしいものを手掛けたい」そんな思いが軸としてあるのだと、感じられました。取材のはずが、どんどん盛り上がる日本酒談義。日本酒への興味と知識が広がり、楽しく、ワクワクする時間をいただきました。小嶋総本店では、小嶋社長が仕入れた珍しいお酒を皆で試飲することも。また、酒造りの節目で行われる慰労会や、山形ならではの芋煮、社員旅行など様々な会があり、日本酒を囲みわいわい語らうのだそうです。
東光のお酒には、造り手の情熱がたっぷり。歴史の重さに留まらず、引き継がれた文化を磨き、挑戦と発信をし続ける置賜が誇る企業の一つです。

取材・文_阿部薫