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技能士集団の社員が誇り。大手企業に負けない技術力を磨く。

三木ベルテック株式会社 / 製造部門スタッフ

インタビュー記事

更新日 : 2022年11月09日

技能士集団の社員が誇り。大手企業に負けない技術力を磨く。

伝導機器の製造を行なう三木ベルテックは、社員の自主性を大事にしています。誰かの意見に左右されず、自分で仕事と密に向き合っていく。その意識を高め合える職場づくりは、上に立つ人の裁量によるものも大きいです。社長である安部剛さんと、社員3名(新山敏美さん、我妻広志さん、長岡義和さん)にお話を伺いました。

三木ベルテック株式会社 事業概要

1973年に安部製作所として創業、1993年に現社名に変更。伝動制御機器のトップメーカーである三木プーリ(株)のグループ企業です。ベルト式無段変速機やカップリングを製造され加工から組み立てまでの一貫生産を行っている企業です。

主力製品である建設機械向けカップリング用ハブは、エンジンからの出力軸が直接挿入される部品であり、トルク伝達の元になる重要部品です。このハブを組み込むカップリングはエンジン動力を油圧ポンプへ伝える動力伝達装置の役割を果たしており、建機メーカーへのシェアも70%強と指示を頂いております。高い加工技術を背景に産業界に貢献している企業です。

2002年より生産革新活動に着手、「一人屋台方式」という生産管理手法を導入。社員それぞれが独自の生産ラインをもち、資材の発注から製造、搬入までを担当するため、誰かの指示待ちという状況はありません。一人一人が責任を持って働く環境なので、自ずとスキルアップできる環境です。2017年からは「技能五輪」と呼ばれる技能競技に参加。青年技能者(23歳以下)を対象に行なわれています。大会と同様の設備を購入。社員への投資を優先するのが企業としてのポリシーです。また全社員が国家資格の技能検定に挑戦。技術に対する日々の努力を惜しまない人材が揃っています。

他社との大きな違いは「一人屋台方式」を導入していること。分業ではなく、製造を一人で一貫することのメリットや「技能五輪」への積極的な参加など企業として目指す方向性について社長の安部剛さんに伺いました。

社長の安部剛さん

 

人に指示されないものづくり

この「一人屋台方式」に取り組むきっかけとなったのは、トヨタ生産方式を専門とするコンサルタントとの出会い。社会構造の変化により多品種変量生産への対応に苦慮していた時期に生産革新活動へと舵を切った。

「毎日約70件のお客様に製品をお届けしておりますが、70%が5台以下の受注です。多品種変量生産への対応と市場競争力のあるリードタイムを実現させる面でも大きな成果がありました。」

「一人屋台方式」とは、必要な資材を予測して発注。生産計画の立案から生産~発送、売り上げ処理までを担います。

「人から指示されて行動するのではなく、個人に裁量があります。分業になると多くの調整が入るわけですから。この管理手法は、自由がある反面ときには失敗することもあります。でもそれも成長の過程であり成功した結果を自分で体験できることも大きなメリットだと思います」

三木ベルテック社の製品例

 

“技術力”で勝てる会社を目指して

「一人屋台方式」を取り入れたことで、社員が自らの技術を向上させたいと考える場面も増えたそう。率先して、「技能検定」を受けることにより社員の有資格数は120を超え厚生労働省認定の「ものづくりマイスター」も7名に上ります。“知恵”を身に付けることへの意識も高いといいます。

「仕事を“自分ごと”として受け止める社員が増え、スキルアップであったり、自分の領域を広げたいと思ってくれているのを感じます。お客様の要求も細かくなっていて、それに応えるためには、知恵や技術をどんどん身につけていかなければいけません。そこを妥協せず、取り組んでくれる社員が多いのは、誇れる部分だと思っています。技術はお金で買えるものではありません。最新の設備を導入するのは、お金があれば叶うこと。しかし個人の技術は1億円投資したって今すぐできる話ではないんです。社員が磨き上げた技術の積み重ねを絶やさずに支えていくのが私の使命だと考えます」

2017年から取り組んでいるのが「技能五輪」への参加です。旋盤職種はものづくりの基礎ともいえる技術で裾野も広く技能五輪の花形種目です。競技課題には制限時間が決められており相当な技術力が必要となるため全国大会へ出場する選手のほとんどは大手企業の社員ばかり。その中で三木ベルテックが本選参加を勝ち取ったのは偉業といえます。出場には出費も相当な額が必要となりますが、そこには「社員が主体」と考える安部さんの思いがあります。

「技能五輪の機械加工種目に毎年挑戦している県内企業は、ほぼ聞いたことがありません。我々のような中小企業がトヨタ、日立製作所といった大手企業と同じ舞台に立つ姿は、感慨深いものがありました。多くのことにおいて大手企業に勝てませんが、何かひとつだけでも、競える部分を持つことは、自分たちの存在価値が上がるだけでなく、社員のモチベーションにも繋がるはずですよね」

2017年から毎年続けて若手社員が挑戦。今では「技能五輪に出たい」と入社を希望する人もいるそうです。

「今年出場を予定している社員は、弊社が技能五輪に出場し始めた頃に高校生で、それを見ていた子なんですね。『技能五輪をやっているので入社したい』と、そんな志のある子がいると思わなくてビックリしました。初めは、出場を続けられるのか? という不安がありました。最初に出場した社員で終わることも可能性としてあったと思います。それ今年も続いているのは、ありがたいですね」


技能五輪の練習風景。緻密な作業が続きます。

 

社員の結束を深めたきっかけは農業

2008年のリーマンショック時に、売上が約70%減少。そのときに空いた時間を利用して、有機農法で野菜づくりをスタートさせました。社員が畑を管理し、委託して生産したドレッシングを取引先に配ることもあるそうです。仕事とはまったく関係ない農業ですが、それが社員交流の大きな役割を果たしています。

平日を休日にするほど仕事量が減っていたときに、『畑でも耕してみては』とコンサルタントよりご提案をいただきました。普段、仕事をしていると上司、部下という関係がありますよね。農業になったらその関係が逆転することもあって。国が主導する六次産業化への政策をあいまって補助事業となりました。会社を救ってくれた畑でもあります。

 

“底がないものづくり”ができる人材を求める

ものづくりの技能で認められ豊かな集団になることが安部さんの目標です。

「瓶詰めのキャップを締めるキャッパーと給食センターで豆腐をさいの目に切る設備を完成品装置として、年に数台製造販売しています。お客様から『こんな製品が欲しい』と要望があれば、それに応える技術を磨き、“底がないものづくり”を目指したい。社員には、結果が出るまでやり続けられる人でいてほしいです。技術を磨く作業は、どうしても同じことの繰り返しになります。結果はどうあれ過程は必ず力になる。その精神を持ち続けていられる人に働いてほしいと思っています」

安部さん個人としては、デジタル広報にも力を入れていく予定。「伝動機器の製造」と聞いて、イメージできない人に向けて企業内部の発信をしていくことは、挑戦でもあります。

「せっかく社員が技術を持っているので、SNSを活用してその技術力を発信する予定です。」

社長自らが向上心を持ち、その思いはしっかりと社員に引き継がれています。個人作業が多い現場なので、人と関わることが得意ではない方にも寄り添ってくれる企業です。実際に働いている社員3名のお話も紹介します。

 

会社の技術を支える社員

—— みなさんが入社した動機を教えて下さい。

新山敏美さん:平成元年入社し、33年になります。以前は関東で製造機械や検査機械を作る会社に勤めていて、自社製品の立ち上げも担当していました。14年勤務後、子育てをするには米沢のほうがいいだろうとUターン。前職の経験を活かし、弊社では生産技術を担当しています。

我妻広志さん:入社24年目製造部長をさせて頂いております。安部社長と中学の頃から親しくさせていただいていて、中高と弊社で職業体験をしたのをきっかけに入社しました。現在はみんなの困っている所などをサポートしながら、私自身もラインを担当し生産にたずさわっています。

長岡義和さん:入社8年目です。工業高校で機械加工を学び、旋盤の検定を取得したので、それが活かせる職場として選びました。兄も機械加工の仕事をしていて「鉄を削る」という世界を知り、おもしろいと思ったのが旋盤加工の道に進んだきっかけでもあります。

 

自分なりの“ものづくり”ができる環境

—— ものづくりの仕事に携わる楽しさは何ですか。

新山さん:私は食品機械の開発にも携わっています。「キャッパー」と名付けた瓶の蓋を締める機械は、地元企業からのオファーで生まれたもの。当時は自動ではなく、スプリング式だったので、腱鞘炎になる人が多かったそうなんですね。加えて男性じゃないとできない作業ばかりで、女性でも扱える機械にしてほしいという依頼でした。1年ぐらい試行錯誤をして完成。誰でもすぐに使い方がわかり、自動でできるのが特徴です。現在追加受注も頂いております。豆腐を切る機械については、給食センターで使っていたものが壊れてしまって、同じものを作れないかというオファーでした。これまで依頼をいただいたもので挫折した商品もあるのですが、自社製造品が役に立っているのを知ると嬉しくなりますね。

我妻さん:弊社は2か月に1度はレイアウト変更を行っております。日常的に行われている改善活動の中で、自分の任せられている範囲内で「こうしてみたい」があれば、トライできることですね。とくに弊社は、上司に伺いを立てたり、誰かに許可を求めなくてもできる環境にあります。実際に改善をしてから発表、報告をしみんなの意見を聞いてまた改善します。品質にはもちろん最善の注意はしますが、新しいものづくりに挑戦する過程はおもしろいです。

長岡さん:我妻さんが言う通り、自分なりのものづくりにチャレンジできる環境にあることが魅力です。それぞれやり方にも違いがあって、正解もひとつではありません。同じ技術者ではありますが、その個性の違いはおもしろいですね。だからこそ、自分の作るものにはこだわりをもっていきたい。すべて自分の手作業で行なうので、見栄えをよくしたり、できる限りの“良い違い”は出したいですね。

—— 長岡さんは技能五輪に出場されていますが、その経緯を教えて下さい。

長岡さん:最初に技能五輪を知ったのは、会長(安部 功)から山形県で行なわれていた大会を見に行かないかと誘われたのがきっかけです。大会参加者の旋盤技術がどれほど優れたものかを見に行ってみないかと。自分も興味もあったので、先輩と見に行きました。大会では、自分と同じぐらいの年代の人が競い合っていて、ものすごく刺激に。23歳までしか出場することができない大会なので先輩が背中を押してくれ、会長に申し出たところ「がんばってみるか」と言っていただきました。そこから会社のバックアップを受け挑戦するに至りました。


 

若手社員につなぐ“挑戦する心”

—— 今後の目標はありますか?

新山さん:私は、このキャリアを次の人に教える立場。若手の教育に力を入れています。機械が壊れたときに修理するのも私の役目ですが、興味持ってくれる部下には率先して教えています。そのおかげで私がやらなくても自分たちでやれるようになってきているのを感じていますね。

我妻さん:心がけているのは今より少しでも高い技能をもっている会社にしていきたいということ。安部社長の理想に近づけていきたいです。社員のマネジメントの一環として一人一人の働き方を管理する役割もあります。「一人屋台方式」のデメリットとして、個人の負荷が読み取りにくいことが上げられます。それを課題として、社員が困っていることを抽出し、みんなで改善し、生産性を上げ続けることが目標です。

長岡さん:私が技能五輪に挑戦できたのも、先輩方の「新しいことにチャレンジする」という考えが根付いているからこそ。私もその考えを後輩に伝えていきたいと思っています。

社員の話からも会社が働く人の「やりたい」に耳を傾けてくれ、思いを尊重してもらえることが伝わります。それは三木ベルテックの最大の魅力です。技術があるのに発揮できる環境にない、もっともっと技術を磨きたいと考えている人にとっては挑戦しがいのある企業ではないでしょうか。

取材・文_中山夏美