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「米沢を売る」のが仕事。街づくりも担う観光物産館。

株式会社上杉コーポレーション / 販売・調理・サービススタッフ

インタビュー記事

更新日 : 2022年09月27日

「米沢を売る」のが仕事。街づくりも担う観光物産館。

戦国武将の上杉謙信を祭神とする上杉神社に隣接し、米沢市で一番の観光立ち寄り施設である「上杉城史苑」を運営。お土産の販売から米沢グルメまで提供しています。
コロナ禍で観光業は厳しい状況ですが、その中でも新しい取り組みに次々挑戦。進化を続けている上杉コーポレーションに見る、これからの観光業とは。社長の遠藤勲さん、社員で営業部次長・鈴木拓也さん、営業部料飲課係長・長澤奈保瑞さんにお話を伺いました。

株式会社上杉コーポレーション 事業概要

創業は1992年の9月。同年7月に山形新幹線の運行が始まるのをきっかけに、米沢市が再開発をスタート。上杉神社を中心とした16ヘクタールの土地を観光と文化発展を目的とした場所に変革するために、設立されました。

主な事業は物産販売と飲食業。上杉神社に隣接する「上杉城史苑」にて、物産販売フロアと米沢牛レストラン「アビシス」、カフェ「クルチュール」を運営するほか、法要、宴会の受け入れ、仕出しケータリングも行なっています。米沢の特産品を売るお土産屋としては、市内で一番大きい施設です。米沢牛レストラン「アビシス」では団体の観光客の受け入れを担当。施設を利用する人の6割は観光客で、売上のほとんどをそこから得ています。

米沢市や山形県と連携して観光客を誘致するための企画、イベントにも精力的に参加。「米沢市、上杉神社にいかにお客様を呼ぶか」を常に考え、地域を盛り上げる存在としても一役買っています。

「上杉城史苑」は、観光客はもちろんのこと地元客からも支持される観光物産館です。“観光業”を主軸とする事業で、大事にしていること、アフターコロナの将来に向けての展望を社長の遠藤勲さんに伺いました。

代表取締役社長の遠藤勲さん

 

自分たちの成果が米沢市の活気に繋がる

上杉神社に隣接した施設ということもあり、お客さんのほとんどはここを訪れた人たち。そのため上杉コーポレーションでは、積極的に街づくりにも参加をしています。

「コロナ以前までは、旅行会社のバスツアーのお客様がメインでした。1日に何台もバスがやってきて上杉神社を巡り、そのついでに何かを買う、もしくは食べて帰るときの受け入れ先が『上杉城史苑』です。それもあって我々としては単体で営業成績を伸ばしていくことより、エリアとして観光誘客に取り組んでいる意識が高い。私たちの売上は、米沢に来ていただいて、さらにその中でも上杉神社に来ていただくことに付随して成り立ちます。弊社の設立者で現会長は、山形県の観光物産協会の副会長も担っているので、市として、県としてどうやって観光客を呼ぶかにも力を入れています。私も学ばせてもらっているところです」

米沢市の観光課や観光コンベンション協会とマメに連絡を取り合い、その中でイベント運営なども共同で行なっているそう。お土産屋では、銘菓以外にも伝統工芸品、地酒、米沢牛の販売もあります。米沢の特産品であれば、ここで手に入らないものがないと言えるほどの品揃えです。レストランではブランド牛である「米沢牛」をメインに、伝統野菜や郷土料理を提供しています。

「私たちは『米沢を売っている』と思っています。販売している商品、お料理すべてが米沢に絡むもの。売れば売るほどに米沢に潤いが生まれ、それを生産している人たちも豊かになれる。私たちが頑張るほどに、米沢が元気になるんです。それがこの仕事の醍醐味だと思っています。これから働いてくださる方にもその思いは繋いでいきたいですね」

 

観光業だけに頼らない事業にも挑戦

上杉神社は、地元の方の散歩コースともなっているそうで、その帰りに米沢牛コロッケを買ったり、“ちょい食べスポット”としても人気です。また「米沢を元気にする」という意味では、地元の人が楽しめる施設として、さまざまな取り組みを行なっています。

「貸し切りの個室会場では、ご宴会やご法要後の食事対応をしています。弁当とケータリングの販売もしていて、地元の方にも利用してもらっていますね。米沢市の名店である『梅花堂』さんとコラボレーションをしたフルーツサンドや季節に合わせた限定弁当の販売など、新商品も始めています。またコロナ以前から比べて売上が70%を切る状況が続いていることもあり、観光業だけに頼るのではない企画もスタート。そのひとつがワークショップです。実績としては上杉神社の芝の上で『青空ヨガ』や地元の花屋さんに教わる『生花』などを開催しています。ヨガのときはタンパク質、脂質、糖質がバランス良く採れる健康弁当も配りました。健康志向、環境志向の人も増えているので、このイベントは好評でしたね。ワークショップは全部が“当たる”わけではないので、いろいろやってみて、ひとつでも当たればいいかな、と思っています」

その背景には、若い世代に向けた発信をしていきたい思いもあるといいます。

「観光客、地元の方含めて、客層の平均は50代以上。しかし、今30代の人が50代になったときに利用してくれるのか? ということを考える必要はあると思っています。再びバスツアーの観光客で賑わう時期を待つような営業では、ここから20年もちません。その間に何ができるのか、危機感をもちながら新しい事業と向き合っています。私は頭が固いのですが、人の意見に『いいね!』というのは得意なので(笑)、アイデアをどんどん出してくださる方を求めています。1年に1人が3案企画を出してくれたら、10人で30個新しいことにチャレンジできる。全部は無理かもしれませんが、それぐらい一緒におもしろいことができたらと思っているんです」

コロナ禍でプラスとなった事業はネット通販。米沢の特産品を売るサイトの売上は、コロナ以前の3倍近くまで上がったそうです。

「今後もっと力を入れていきたい部門ですね。サイトのリニューアルも検討しています。購入してくださるのはほとんどが県外の方なのですが、よく売れている商品は漬物や醤油などマニアックなものが多いんですね。もしかすると、元々米沢市に住んでいた方が懐かしくて買っているのかもしれません。そういう方たちに向けても、より充実させたラインナップにしていきたいです」

 

思いの積み重ねが米沢の魅力をつくる

遠藤さんは東京からのUターン組。出身は上山市で、山形市に住んだ経験もあるそうですが、米沢市での生活がいちばん気に入っていると言います。

「東北特有なのかもしれませんが、人を受け入れるまでは時間がかかるんですね。バリアを張っている方が多い。もちろんまったくない方もいらっしゃいますが、年齢が上がるほど多い印象。ただその方たちと一回溶け込むことができると、すごく暖かいんです。協力もしてくださいますし、情報もたくさん提供してくださいます。人と関わる仕事というのもひとつの理由かもしれませんが、その人の暖かさに居心地の良さを感じていますね」

その“人の良さ”は「商品としての米沢」の魅力を高める要素でもあります。深い歴史を持つ米沢とそれを継承してきた人々が繋いできた“思い”を遠藤さんは、何より大事にしているそう。

「私の座右の銘は『温故知新』。米沢は歴史が深い。歴史は事実の積み重ねでできています。少し考えを変えると、米沢に関わってきた人たちの思いの積み重ねなんじゃないかと思うんです。上杉謙信、鷹山公の時代から人々の“思い”が脈々と続いていて、それは今もずっと残っている。その上に私たちが歴史をつくっていく。米沢の良さは、思いの積み重ねが分厚いことにあります。郷土料理、伝統野菜もちゃんと続いていますし、昔のお菓子だって残っています。過去を捨てずに残しているところは、最大の魅力であり、誇れるところだと思います」

 

地域と連携し、エリアを盛り上げるのが観光業

コロナ禍となって以来、バスツアーからマイカー旅行が主流に。団体行動を取る人たちが減った分、個人客をどう誘客するかが課題となっています。客層が変われば、お土産の需要や、求められる観光地が急激に変わります。現状の上杉城史苑としてできること。そして変化していかなければいけないこと。コロナ禍となった3年前は大きなターニングポイントでした。

「バスツアーが人気だったのは、自宅近所の友達に『どこどこに行ったのよ』と箱にたくさん入ったお菓子を配りながら話したい人が多かったからなんです。それが近年は、ご近所との繋がりが薄くなり、風潮的にも旅行に行ったと堂々と言えない雰囲気があります。会社でお土産を配る文化も減っていますしね。核家族化も進んでいるので、箱入りのお菓子は20個入りではなく、4個入りの需要が高いんです。古い企業ですと4個入りの箱がないからできないと言われることもありますし、20個が欲しいというお客様もいるので、どうラインナップしていくかは課題です。弊社のレストランは団体用のイメージが強く、味気ない印象があるようで、個人客の方を呼び込むことにも苦労しています。コロナ禍の傾向として古民家や自然の中がいいという声も多い。団体用の食事で個人客に何を出すか、変化が求められていると感じています」

上杉神社にいかに人を呼ぶかという課題は、もはや店舗だけの問題ではありません。地域として取り組んでいく必要があると遠藤さんは考えます。

「バスツアーだと、上杉神社のような名所は組み込まれることが多いんですね。言ってみれば、待っていれば人が来る状況でした。しかし個人旅行では、神社に興味がない人はその周辺にも来ません。そうなれば神社だけではない魅力というのがエリアとして必要になります。観光業は、店舗だけではできません。地域と手を取り合うことで、多種多様のお客様を呼び込むことができます。ほかとケンカをして上がっていける業種ではないんですね。協力し合うことで小さいな杯を大きな杯に変えていく。それを分け合うのが観光業です」

日々更新されるお客様からの要望に臨機応変に応えていく。それは観光業が生き残っていく術。とくにコロナ禍で厳しい局面に立たされている業種ですが、新しいことに臆することなく挑戦し、20年後を見据えた会社づくりをしています。次は、現場で働く社員2名のお話も紹介します。

 

お客様に満足していただくサービスを提供

—— おふたりの仕事内容を教えて下さい。

鈴木拓也さん:営業部営業課で次長をしています。勤続21年です。主にお土産関係の物販を担当していて、上杉城史苑での販売以外にネット通販のセレクトも私が担当しています。来てくださったお客様を満足させられるかを念頭に商品を選別。情報は、インターネットで調べてもいますが、以前ボランティアガイドとして働いていた方に聞いたり、ネットでは拾えない情報をお客様に伝えられるように尽力しています。お客様も詳しい方が多いので、それに負けない情報力を身につけたいですね。

長澤奈保瑞さん:営業部料飲課係長です。勤続18年。レストランのサービスを担当しています。コロナ禍以降、テーブルにパネルを設置し、間隔を空けた席にご案内したり、アルコール除菌を強化するなど、レストラン業務は変わってきています。弊社のレストランの強みは、米沢牛の料理。「一度は口にしたい」といらっしゃる方が多く、そのブランド力は、コロナ禍でも関係がないのを感じています。「おいしいね」と言ってくださった瞬間、仕事をしていてよかったと思いますね。楽しい食事ができる環境を作れたことが何よりも喜びです。


旅行の一瞬を素晴らしい思い出にする

—— 観光業のやりがいはどんな点ですか。

鈴木さん:やっぱり来ていただいた方々に喜んでいただいたときですね。そのために自分も、コアな情報を得ています。あと自分の中でやりたいこととして、コロナ以前のように旅行バスが1日に何十台と来ていた頃に戻したい気持ちがあります。バスツアーは、衰退するといわれてはいるのですが、団体のお客様でのツアーは活気がありました。その時代を取り戻したい。私自身も旅行会社にこれからの時代に合ったバスツアーを提案したいと考えています。

長澤さん:私は高校3年間、観光について研究をしていました。それがきっかけで弊社に入社しています。観光業のやりがいは、楽しんでいる旅行の一瞬に関わらせていただけること。一期一会を大切に、私に接客してもらえてよかったと思ってもらえるように心がけています。その方の思い出のひとつになれるのは、素晴らしい仕事ですよね。


安心感をもって働ける環境

—— 働く環境の良さを教えて下さい。

鈴木さん:私は東京からのUターン組です。戻ってきて良かったのは、昔の友達やご近所づきあいなど、人との繋がりに安定感があることです。周りの環境がよくないと仕事もやりづらいと感じてしまうものですよね。その安心感が都会にいた頃より随分感じられています。弊社は以前、社員同士の行事を積極的に開催していました。そういった行事はコロナ禍で難しい状況ではありますが、社員同士が和気あいあいとできる環境だと思います。

長澤さん:社員同士が話やすい雰囲気なので、仕事以外でコミュニケーションを高められる環境にあると思います。社長も私たちの声を拾ってくださる方です。

「訪れた方に満足して帰っていただく」。簡単なようで、それを実践するには環境の良さや社員の意識の高さが必要となります。主軸は観光業ではありますが、そこに囚われすぎず、さまざまな方法で“人を喜ばせたい”を実現する上杉コーポレーションは、人と関わる仕事として興味深い内容ではないでしょうか。新しい目線で米沢市の魅力を発掘し、発信する側になれるのは、やりがいにも繋がるはずです。

取材・文_中山夏美