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“料理人”を育て、地域の食文化を支える存在になる

株式会社ナウエル / シェフ

インタビュー記事

更新日 : 2022年10月05日

“料理人”を育て、地域の食文化を支える存在になる

冠婚葬祭が主な事業の株式会社ナウエルに2020年、新たに生まれたのが「エキスパートワークス事業部」。料理人、清掃、サービスなど裏方で働くスタッフが所属します。社内で働くだけでなく社外に派遣する場面も増え、今では地域文化を発展させるうえで重要な存在に。新規事業立ち上げに込めたナウエルの思いとは。事業管理者である情野正人さん(右)と、キッチンで総料理長を務める村田信之さん、フューネラル料理のチーフ高橋正人さん(左)にお話を伺いました。

株式会社ナウエル 事業概要

会社の起こりは1946年(昭和21年)、現代表取締役の酒井 登氏の祖父、酒井 巌氏が設立した酒井生活化学研究所(後の北陽食品工業、現HKY)に遡ります。「戦後の物資が少ない食卓を豊かにしたい」という思いで手がけた最初の事業は醤油の化学製造。その後、時代のニーズの移り変わりにあわせて柔軟に事業を転換・拡大し、缶詰などの食品販売、置賜地方初のヤクルト販売、お弁当や仕出しサービス、さらには仕出しから派生した式場の貸出などを行いながら、地域に深く浸透していきました。

ナウエルとして冠婚葬祭互助会事業を開始したのは1980年(昭和55年)のこと。会員から会費を集めて冠婚葬祭の式場や衣装等を提供する事業は、いまでこそ全国に普及しているものの、1980年当時は需要拡大中のサービスでした。創始創業当時と同様、「地域の人々の暮らしに豊かさを届ける」という思いから始まった同事業は広く受け入れられ、置賜地域のセレモニーの運営を一手に手掛ける企業へと成長します。2022年8月時点で会員は6万人以上、置賜地域内に冠婚葬祭施設とホテル計18施設を展開。置賜地域の人口は約20万人であり、単純計算すると人口の約3分の1の世帯がナウエルの会員ということになります。

近年では冠婚葬祭にとどまらず、2020年には訪問介護サービス、2021年には遺品整理や遺産相続などの葬儀後のお困りごとサポート事業を開始しました。また2022年からは、移住者促進のために地元の暮らしと仕事の魅力を見える化する転職求人紹介サイト「オキタマズカン」の立ち上げや、地域でeスポーツ人口を増やす仕掛けづくりなど、豊かなまちづくりに貢献する事業を幅広く手掛けています。

「エキスパートワークス事業部」は、スタッフが足りない部署、企業に、専門知識を持ったスタッフを派遣するのを目的にスタートした部署。これまで米沢市のワクチン接種会場運営スタッフを担った実績もあります。新規事業をスタートさせることになったターニングポイントや今後の展望について、管理者を務める情野正人さんに伺いました。

 

専門スタッフの「人材派遣」を通して地域発展を目指す

「エキスパートワークス事業部を立ち上げた理由は、コロナ禍で業績が落ち込んだことにあります。結婚式、宴会は、ほぼキャンセルとなり、休業せざるを得ないスタッフが大勢いました。今できることは何かと考えたときに、プロ人材の採用、育成、そして派遣ではないかという話になったんです。例えば、これまで清掃は一部を除いで外部委託でしたが、それを自社で賄うことに決め、清掃に使う専門的な薬剤や手順を学び、プロの清掃スタッフを育成。社内の清掃は、そのスタッフたちが担当しています」

冠婚葬祭を担当する企業は、コロナ禍で多大なるダメージを受けました。仕事がないということは、会社として人を抱えられないということ。働き手の多くは、新しい仕事に就くことを余儀なくされました。コロナ禍が落ち着きをみせ、徐々に仕事が戻ってくると、今度はスタッフが足りない。しかし、不安定な状況が続く以上、新しく仕事に就いたスタッフを呼び戻すことができない企業が多くあったそうです。

「他企業から『ナウエルから人材派遣をお願いできないか』と相談をいただいたんです。それに応える形で、市内の旅館やホテルなどを中心に清掃スタッフの派遣を始めました。派遣会社は昔からたくさん存在しているので『ナウエルがこの事業に取り組む意味』は、常に考えています。

発足するときに掲げたキーワードは『オール置賜』。地域のパートナーシップの輪を広げ、おもてなし文化活性化に努めていくことをビジョンとしているといいます。

「少し前は、冠婚葬祭事業は競争でしたが、今は同じ業態の中で協力し合って、地域を盛り上げようという思考に変わってきているんです。この事業部においても、社外への派遣で業績を上げるというより、弊社が結婚式や葬儀で長年培ってきた、サービスや料理の技術を周りの企業と共有して、置賜全体の飲食文化、接客の文化を向上させていくことが主軸。地域が良くならないと、すべての商売はうまくいきません。お互い相当な苦しい思いをしいるからこそ、協力して置賜を盛り上げる時期なんです」

 

料理ジャンルの垣根がない。幅広く経験ができる環境

ホテルのレストランといえば、和食、洋食、中華と分かれているものですが、ナウエルではキッチンがワンフロアになっていて、和洋中の垣根なく働いています。また、結婚式、企業の祝賀会、典礼と、提供する料理の単価幅が広いのも特徴です。

「1人の予算が4,000〜5000円のときもあれば1万、2万のコースまで携わる機会があります。ここまでジャンル、単価幅の違う料理を提供する現場は珍しいと思うので、スキルを伸ばす環境としては申し分ないでのではないでしょうか。環境の良さでいえば、勤務時間の安定もいえます。飲食業と聞くと、労働時間がハードなイメージを持つ方も多いかもしれません。弊社では、早朝出勤や夜遅くまでの労働が少ないシフトになっているので、自分の時間を持ちやすくなっていると思います」

 

頭数ではない。ひとりひとりが個性を発揮できる職場

料理人の職場の多くは縦社会です。働き始めてからお客様に料理を提供できるようになるまで、数年、数十年という職場もあります。ナウエルでは、キャリアは関係なく、得意なジャンルは活かしてほしいという考え。社員ひとりひとりが存在意義をもって仕事をしてもらいたいというのが願いです。

「頭数のひとりではなく、その人のなりの個性を発揮してもらいたいと思っています。がんばってくれている人には、どんどんセクションを任せていきたいですし、そこに年齢は関係ありません。『アイデアがあるからメニューを任せてほしい』とか、そういう意見が通る環境です。若い人には、積極的に活躍してもらいたいと考えています」

 

今後は、他企業のコンサルも視野に

現在は清掃やサービススタッフのみ社外への派遣を行なっていますが、今後はシェフを派遣することも検討中だそう。ただし、人手の補助ではなく、メニュー開発などのコンサルティングを兼ねた業務を考えているといいます。

「料理がマンネリ化しているから、メニュー開発をディレクションしてほしいというお話は何件かいただいています。ライバル企業ではありますが、スキルのある人が現場をサポートするというのは、あって然りなこと。それによって置賜全体の飲食文化が向上するのであれば、弊社にとってもメリットがあると思っています」

エキスパートワークス事業部が発足したことで、ナウエルは自社だけが前進すればいいという概念をなくし、地域全体を盛り上げる企業として変革のときを向かえています。今回募集するシェフの部門においても、ただ料理を提供するだけではない存在意義を感じられるはずです。実際にシェフとして働くお2人にも働く環境について伺いました。

 

キッチンの要となる総料理長とチーフ

—— エキスパート事業部の料理担当としての業務を教えて下さい。

村田信之さん:私は入社して今年で18年目になります。ナウエルの前には、山形市にあるホテルでシェフをしていました。洋食が担当ですが、キッチンの総料理長として、棚卸しや原価率の計算のほか、婚礼、宴会のメニューを考えるのも私の業務です。

高橋正人さん:キッチンのチーフをしています。入社7年目です。米沢市の調理専門学校を卒業したあと、横浜中華街にある店に就職し、関東圏で約23年、中華料理に携わってきました。自分で店を経営した経験もあります。ナウエルに入社してからも中華を担当していましたが、2年前からは典礼チームとして葬儀時の料理を作っています。

 

地元食材を活用し、新しいことには挑戦する。

—— 仕事をするうえで大切にしていることはなんですか。

村田さん:メニューは基本的に営業からイメージをいただいて、そこから季節感や価格帯に添ったものを提案していきます。私はその希望に「NO」と言わないことがモットーです。弊社は挑戦することに対して寛大なので、誰も作ったことがない料理にもチャレンジするように心がけています。地元食材のご希望や中でも米沢牛の需要は多いため、できる限りメニューに取り入れていますね。

高橋さん:コロナ禍になってから葬儀時の料理提供は、ほとんどがお持ち帰りの弁当になりました。ご焼香が終わったあとにご家族から参列者にお渡しするという流れです。受け取った方がどのタイミングで召し上がるのかがわからないので、安心安全が絶対条件。傷むのが早いものは選ばず、すべて火を通した料理にしています。

 

若手が活躍できる現場

—— 働く環境として、どんな点に働きやすさを感じていますか。

村田さん:自由度が高いことですね。まず和洋中の垣根がなく、すべての料理に関われることが大きいです。技術がどうとか経験がどうというのはあまり関係がない。若手も失敗を怖がらずにのびのびと働ける環境にあると思います。以前、入社2年目の子がレストランで「チャレンジメニュー」を提供したことがあって。食材の発注からお客様への提供まで、すべてを担当させました。上からの指示で動くよりも自分で考えて動くほうが身につくことが多いですし、どこかひとつが抜けても成立しないということを体感できたと思います。私はそれを経験するまで10年かかっていますから、本人はすごく経験になったのではないでしょうか。そのとき地元紙に「ナウエルでチャレンジメニューをやっています」という記事も掲載されたんですよ。名前も載ったから恥ずかしい部分もあったかもしれませんが、やる気に繋がったと思います。

高橋さん:いい食材が手に入りやすいというのも料理人としては、働きやすいポイントなのではないかと思います。例えば米沢では簡単に手に入る山菜も関東圏だと、3倍近くの仕入れ値でしか手に入らない。そうなると料理単価によっては、飾り程度ぐらいしか提供できません。フルーツにしても、カットしてそのまま出せるぐらい新鮮なものが手に入りますが、関東で同じ値段のフルーツとなれば、砂糖でコーティングしたり手を加えないと厳しい場合も。素材の味を引き出すだけでいいメニューが作れるのは、地方ならではだと思っています。

 

—— 高橋さんは、Uターンしてよかった点はどこに感じていらっしゃいますか。

高橋さん:Uターンしてからのほうが自分の時間を長く持てているように感じます。関東では通勤が満員電車であったり、混雑した場所を行き来しなければいけませんでした。しかし、こちらでは車移動なので、仕事以外はすぐ自分だけの時間になります。そのストレスがなくなったのは大きいですね。

 

コロナ禍での変化をプラスに働かせる

—— 今後、挑戦していきたいことはありますか。

村田さん:コロナ禍になってからビュッフェだった宴会が銘々盛りに変わりました。オペレーションの問題などで、料理は「今でできること」に。それを少しずつ「お客様が欲しいと思っている料理」に戻していきたいですね。料理の数も7〜8品だったのを6品にして、ひと皿の中身を濃くしようという動きになっています。我々はお客様と接することは少ないですが、接客を担当するスタッフがお客様からの「おいしい」や「盛り付けがキレイだった」というような意見を教えてくれます。その声をモチベーションに喜んでいただける一品を提供していきたいです。

高橋さん:私は典礼に移ってからまだ日が浅いので、とにかく典礼料理を極めたいです。幸いにも上司が意見を聞いてくれる方だから、メニュー提案もいろいろさせていただいています。しばらくは弁当で提供する流れが続くと思うので、その中で季節のものを取り入れたり、お客様ひとりひとりに満足していただけるものを提案していきたいです。

エキスパートワークス事業部の料理部門は、和洋中どの経験者でも、受け入れる土壌があります。婚礼、宴会、典礼とさまざまな料理を提供する現場で、最大限経験を積むことが可能。自分が得意とする分野においては優遇してもらえる環境です。料理人として新しい挑戦をしたい人にとっては、好条件ではないでしょうか。詳細は採用情報をチェックしてみてください。

取材・文_中山夏美