地域と森のイベントプロデューサー

もりもりの森 鈴木貴子さん

鈴木貴子さん
長井市出身/長井市在住/Uターン

「ママだから、家族のために諦めなきゃと思った日々もありました。でも、やっぱり自然の中で子育てをすることを諦められなかったんです。」と話すのは、東京・マレーシアでの生活を経て、2023年に家族を連れて山形県 長井市にUターンした鈴木貴子さん。2人の息子さんを持つ貴子さんは、週末には親子向けに森で遊ぶイベントを企画したり、毎週月曜日には森作りを楽しむ『もりじかん』というサークル活動を開催しています。今後は、この森を『もりもりの森』としてOPENし、森を訪れた人が心の底から癒され、幸せになるような時間と場所を提供する準備をされています。元JICA職員という経歴を活かし、人や地域をプロデュースし、田舎を楽しむ人が増えるような取り組みを行いながら、家族が楽しく心身ともに健康でいられる生き方を模索する貴子さんに、長井の暮らしについて伺いました。 

—— 東京から長井へUターンしようと思ったきっかけを教えてください。

真剣にUターンを考え始めたのは、第二子が生まれたタイミングでした。「このまま東京で子育てを続けていくのか」とモヤモヤした気持ちを抱えながら過ごすうちに、心身ともに限界に達したことが大きなきっかけでした。切り株に座って木々を眺めたり、木の実を集めたり、森の新鮮な空気を吸って寝転んだりと、のびのびと自然の中で過ごしてきた私にとって、東京での暮らしはヘルシーではありませんでした。もちろん、仕事へのやりがいや、視野を広げてくれた出会いなど、かけがえのないものをたくさん得ましたが、時間の流れ方、身体に取り込む空気と水、豊かさの基準などに、ふと違和感を感じることもありました。家族のためにこの環境の中で頑張らなくちゃと思いながらも、肩に力が入っていたり、我慢をしていたり、自然体な私を忘れて、きっと無理をしていたんですよね。

—— 長井の自然の中で暮らしたい、と心身ともに求められていたのですね。長井へのUターンはすぐに決断できたのでしょうか? 

Uターンを決断するまでには、夫婦で相談を重ねる時間が必要でした。夫は元々都会派。それに、仕事も順調で、やりがいを感じていたため、地方移住に賛成というわけではありませんでした。そんな中、2020年、コロナ禍へ。当時、東京では公園にも出かけられない、外に出られないという状況だったので、子どもたちにとって何がいいのかと、夫や山形の家族と話し合いを重ね、子どもたちと私だけで山形に一時帰省することにしました。家族が離れて暮らすことに対し、夫と私でそれぞれ不安や葛藤がありましたが、子どもたちが長井の自然の中で夢中になって遊ぶ姿を見ていると、この決断はきっと正解だったと思えました。その後、夫の転勤により1年間、家族でマレーシア生活を行い、帰国後、本格的に、長井での暮らし(夫は東京と2拠点生活)を始めました。 

—— 長井で子育てを始めて、いかがでしたか?

実家の裏には広大な森が広がっているんですが、そこで遊ぶ我が子がとっても可愛いんです!毎日泥だらけになりながら、にわとりと遊んだり、冷たい山水を頭から浴びて喜んでいたり、自由奔放で全力全開でした。自然に溢れてくる子どもたちの笑顔はまるで生まれたての天使のようで、すべてが愛おしかったです。母にとって我が子が可愛いと思えるのは、幸せの極みだと感じています。そんな子どもたちの姿を見ていると、「自然での子育て最高!」と心から思います。 また、地域の方々が子どもたちに声をかけてくれて「何かあったら呼んでけろな」と言ってくださるのも、子育てをする私にとっては安心できる環境でした。

—— 東京と長井の子育て環境には、どのような違いを感じましたか?

何よりもサイズ感。田舎には「広さであり、ゆったり感であり、寛容さ」があります。田舎では、思いっきり泥だらけになっても問題ないって思えるんです。むしろ大歓迎って。広大な土地に比例して、心の器も広がっていく感覚。人も車も少ないため、東京で遊んでいた時のように周囲に迷惑をかけないようにと、子どもの行動に目くじらを立てる頻度も減ったので、「子育て」というより「子育ち」を見守る感覚に変わり、私にとっても良い変化でした。 あとは人の温もりでしょうか。お互い様、助け合いが文化として残っている田舎。核家族も増え、今は昔よりずっと希薄な世の中かもしれませんが、田舎はまだまだ人の温もりを感じる機会が多いです。 

—— 貴子さんは、Uターンして起業されていますが、就職という選択肢もあったと思います。なぜ起業を志したのでしょうか? 

「自分の好きや得意を最大限活かして働く手段」として、起業する道を選びました。これは、習字の腕前と人との関わりが好きという特性を生かして看板業を営み拡大してきた親の姿を見て育った影響が大きいかもしれません。ただ、安定した職業を手放すのは怖かったですし、一人で歩み始めてからは手探りの日々。何をしたいか、ど真ん中な道はしばらく見つからず、起業塾に通ってみたり、呼吸法を学んでみたり、とトライの連続でした。 

—— やりたいことが見つかるまでには、長い時間がかかったのですね。 

はい。大好きな田舎に住みながら、「幸せが循環する社会を作りたい」という想いはあるのですが、だから何をする?が見えなくて。何年間も「自分は何がしたいのか?」と問いかけ続けていた中で、幼少期から自然が大好きだったことや、長井に帰省し自然の中でありのまま過ごす時は心身ともに健康に過ごせていた自分がいた、という経験から、「自然」を軸にした事業を考えてみたいと思うようになりました。そこから、想いを周りの方々に話したところ、一緒に楽しめて意気投合できる仲間が増えていき、「みんなが幸せになる森をつくりたい」「日本の田舎、最高!と感じる場所をつくりたい」という目標が見つかりました。

週末には親子向けに森で遊ぶイベントを企画したり、毎週月曜日には森作りを楽しむ『もりじかん』というサークル活動を開催しています。イベント参加者にアンケートをとってみると、「みんなありのままそこにいて、そのままでいいんだと思わせてもらえて心地よかった!」「今日が人生で1番の日だった!」「自然最高!!」などとっても嬉しいご感想をいただきました。 また、山形県の置賜地方を視察で訪れたインバウンドツアーの方々には「日本の田舎にある「幸せな暮らし」を感じることができ、とても良かった」と、数ある観光地の中から一番良い評価をいただくことができました。 起業はチャレンジ続きで、怖いことも多々ありますが、幸せな社会づくりに持続的に貢献していけるよう、ゆっくりとでもその山に登り続けたいと思っています。

—— 地方での起業は様々な壁もあり、「うまくいかないかもしれない...」と思う日もあるのではないでしょうか。そんな時は、どうメンタルを保っていますか? 

私は周りからは、いつも明るくてハッピーガールだね!と言われますが、実は臆病で怖がりだし、実際に動いてみるとたくさんの壁もあるので、ネガティブに考えてしまうことも多々あります。それに子育て真っ最中なので、家族とのバランスで悩むことはあります。 でも、この森が好きで集まる仲間がいること、オンラインで繋がる仲間が全国にいること、これが心の支えになっています。 周りを見渡せば、社会課題に対して行動を起こしているママたちが全国にいます。同じ世代で、子育てをしながら起業することへの大変さを共有しあえたり、みんなで失敗も共有し合いながらチャレンジできる環境があることに、救われています。 

—— 長井の森で、これからどんな活動をしたいとしたいと考えていますか?  

一つは大人も子どもも楽しく過ごせる「森の学校」ですね。出入りする子どもたちにとって、大好きな秘密基地のような存在になればと思います。その経験が、いつか故郷を愛する気持ちとして心に残れば嬉しいです。また、「長井って素敵な居場所、学び場があるんだ!」と感じてもらえて、それが移住を考えるきっかけになったら、とても嬉しいですね。  もう一つは、長井の自然、田舎体験を、都会や海外向けにお届けすることです。私が都会で 子育てや生き方に悩んだことから、同じように悩むママたちに、この森の中で心から元気になる体験をしていただき、その体験を通して、その後の生き方にポジティブな変化をもたらせるような、そんな時間を提供できたらと思います。 また海外の方々には日本の幸せな田舎暮らしを体験してもらい、長井、そして山形のファンになっていただきたいなと思います。

最新情報はInstagramで共有しているので、ぜひチェックしてみてください。 森での活動に興味がある方は、毎週月曜日に開催していますので、ぜひ参加をお待ちしています。 

取材・文_谷山紀佳

🌲 森の学校 「 もりじかん 」 🌳 「 もりもりの森 」

🌲 森の学校「もりじかん」森作りサークル活動 / 毎週月曜日開催
🌳「もりもりの森里山体験、森遊び、リトリート / 2024年秋OPEN予定
🏡 住所:〒993-0061 山形県長井市寺泉2611
👉 Instagram 👉 facebook 👉 note