米沢がよそ者にウェルカムな理由のひとつ?!

学生の地域活動

「東北=よそ者には閉鎖的」とよく耳にしますが、米沢はウェルカムな雰囲気を感じます。その理由のひとつとして、”米沢の人と大学生が良い関係を築いてきたから”ということも関係しているのではないでしょうか。本記事では、公務員でもあり地域活動家の「地域づくり幸務員(こうむいん)」として活動する相田隆行さんの体験談とともに、「よそ者と地域の良い関係の目指し方」をうかがいました。

米沢は、毎年 約3600人の大学生が通う学園都市。

山形県 米沢市は、「山形大学工学部」「米沢栄養大学」「​​米沢女子短期大学」の3つの大学が存在する学園都市です。在学中に地域の人や企業と接点を持ったことがきっかけで、米沢の企業に就職したり、起業する学生もいます。大学生と地域をつなぐ大きな接点となっているのが「地域活動」です。市民主体のお祭りやイベントに、特にここ10年で大学生も運営側として参加する機会が増えました。

2011年3月、東日本大震災の避難所運営がきっかけで、“人の役に立ちたい学生”や“交流の輪を広げたい学生”がいることを知りました。

[地域づくり幸務員の相田さん]

平日は市役所で働き、プライベートの活動で、地域の方々と学生を繋げる「地域づくり幸務員」の活動を10年近く続けてきた相田さん。活動を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でした。

震災の避難所運営をしていた時、“人の役に立ちたい!もっと交流の輪を広げたい!”など前向きな想いを持つ学生たちと出会い、そうした学生たちと地域活動を一緒にできたら面白いのではないかと思った相田さんは、地域活動に取り組む仲間を募集するチラシを2011年の6月から大学に配り始めます。その結果、5人の参加者が集まりました。

『全生徒約3600人の中の”5人しか”いないのかと思う人もいるかもしれませんが、私にとっては”5人も”集まったことがすごいことだと思っています。最初の活動として、それまで市職員だけで行っていた市民向けの催し物の中に、学生のアイディアで子どもも楽しめる企画を取り入れました。5人で始めた活動も、人が人を呼んで・・・最終的には15人も集まり、多くの方々に喜んでいただけました。』

『楽しく取り組む学生メンバーの姿を見て、自分も参加したい!と言ってくれる学生が増えて、その後も年を重ねるごとに25人..50人...75人...100人...150人!と、徐々にメンバーの輪が広がりました。人数が増えることですぐに地域活性化につながるというわけではありませんが、それだけ米沢と接点を持つ学生が増えるのは米沢市民として嬉しいことだなぁと思います。』

地域側と学生が「お互いに幸せな関係性」を築けるよう、長い時間をかけて見守る。

『ちょうどいい期待感やゆるやかな関係づくりは、学生が地域で活動する時の鍵だと思います。2011年以前の米沢では、地域のお祭りに参加する大学生はほとんどいませんでした。というより、地域から大学生に声を掛ける機会は少なく、地域側からも「学生とどう接したら良いのか?」という声を多くいただきました。』

学生ボランティアとの接し方は、賃金が発生するアルバイトよりも「楽しい=やりがいや学び」を得て帰ってもらえるようなwin-winの信頼関係が求められます。ですが、はじめのうちは学生ボランティアを無償の労働力と勘違いしている人もいたそうです。

『これまでも地域のお祭りは地域の人自らが、一番汗をかいて準備運営をしてきました。学生ボランティアは、あくまでもプラスアルファの新しい風としてお祭りを盛り上げてくれる存在です。学生がいなければ成り立たない、学生に運営を頼りっきりにならないように常日頃気をつけています。地域側で本気になって頑張っている大人がいることがまず大切なことだと思っています。』

地域側と学生の認識合わせには長い時間を要しましたが、地域側も学生と積極的にコミュニケーションを図りにいく方が徐々に増していき、いい信頼関係が持続的に築かれることがなにより嬉しいんだよね、と相田さんは語ります。

よそ者が「米沢っていいとこだよね!」と言い始めたことが地元の人にも連鎖して。

今では米沢の人から『米沢っておもしゃいべ』と聞くようになりましたが、以前は東北人の謙虚な人柄もあってか「米沢は何もないどこだからあんまりおもしゃぐないべ...」という声が聞こえてくるのが普通だったそうです。地元の人が米沢をいいところだと地元愛を再認識するきっかけが増えたのも、様々な交流を通じて学生たちが外からの視点で米沢の魅力を言語化して伝えてくれたことが大きいのではないかと相田さんは語ります。

『地元の人が当たり前だと思っていることでも、学生にとっては感動することが沢山あって、その感動をちゃんと言葉にして地元の人に伝えてくれているんです。地元の人も地元を褒められて嫌な気持ちの人はいないもので、「米沢ってやっぱりいいどこだよね」と胸を張って伝える人が増えたのではないかと思っています。』

外からの視点で地元の人たちに米沢の価値を届ける存在として、地域側ともお互いに良い関係をゆっくりと築かれてきました。

米沢に接点を持った学生がやってよかったと思える経験と、いつでも「ただいま」と帰ってこれるように。

コロナ禍を経て対面での課外活動が数年間休止されていたことから地域活動に参加する学生の人数は以前より減りましたが、学生と地域の関係は今でも続いています。地域活動を通して自分のやりたいことが見つかった学生や、県外に就職してもお祭りの手伝いとして帰ってきたり、イベントの企画にオンラインで参加したりするメンバーもいるそう。

『米沢で地域の人と関わったことが、学生自身にとって少しでもプラスの経験になればいいなと思っています。繋がりを大切にしているみんなだからこそ、卒業しても第二の故郷として新しい仲間をつれていつでも「ただいま」と帰ってこれるように、迎え入れたいです。』

米沢が、よそ者にもウェルカムな理由の一つには相田さんをはじめ、つなぎ役として熱い想いを持った地域の方々がたくさんいる土地だということが大きな理由の一つなのかもしれません。


✍️ 編集後記

よそものが地域と良い関係を築くには、「お互いに尊敬できる心」が大切なのではないかと相田さんのお話から感じました。よそ者と地域のコミュニケーションを丁寧に繋ぐ”いいお節介”ができる大人がいることが、「このまちで楽しく過ごせそう!」と感じる安心感に繋がっているのかもしれません。移住先での、出会いや繋がりが生まれやすい土壌がある米沢でこれからもどんな交流や活動が生まれるのか、楽しみです。

取材・文_谷山紀佳