江戸時代から続く、米沢を代表するものづくりの精神

米沢織

移住先に根付いてきた文化や産業に触れることは、その土地に住む人々の価値観を理解する糸口になるかもしれません。山形県 米沢市の一大産業「米沢織」。米沢は江戸時代から「繊維産業の町」という歴史があります。かつては「カシャンカシャン」と町のいたるところから織機の音が聞こえてきたそう。近年でも米沢織は絹袴のシェア約90%以上を占めています。その他にも、世界的なアパレルブランドへの採用やカジュアルな小物としても親しまれています。引き継がれてきた丁寧な技術と、時代に合わせたアイディアで挑戦し続ける米沢織の職人は、米沢に根付く「ものづくりの精神」の語り手そのものに感じます。今回は、米沢織 新田織物 五代目当主の新田源太郎さんに、米沢織の歴史と職人としての想いを伺いました。

江戸時代から続く、米沢の生活を支えた産業。

米沢織の原点は、江戸時代。当時、財政が厳しかった米沢藩が外貨を獲得する産業政策として、地の利を活かした「米沢織」に力を注ぎました。

関ヶ原の合戦で豊臣方についた上杉軍は、会津120万石から米沢30万石に移封され、領地が4分の1になります。大国だった上杉藩は、領土が減りながらも士族等の人口を減らさずにいたため、財政面の改善が大きな課題でした。

外貨を稼ぐ取り組みとして、2代目藩主の上杉景勝公の側近だった直江兼続公は、青苧(あおそ)や紅花などの換金植物や、蚕の餌となる桑などを栽培し、織物産地へ出荷をはじめます。米沢織が産業として確立したのは、9代目藩主 上杉鷹山公の時代。鷹山公は、より価値を高めて販売する体制をつくるために、原料の配給から製品化を目指します。養蚕や武家の婦女子の内職として機織を習得させるなど、様々な取り組みを行い産業として大きな発展を遂げました。

米沢織が250年以上続いた理由は、この3つが関係しているのではないかと新田さんは語ります。

① 山形県随一の豪雪地帯といわれ、気候が寒冷で雪深く、屋内作業を選ばなければいけなかったこと
② 織物原料としての麻を育て、養蚕の適地として原料を手にできたこと
③ 常に新しい技術と商品開発に積極性と根気を見せた米沢人の気質があること

明治維新以後は、全国有数の「繊維の総合産地」へと発展。

明治維新により、織物関連に従事していた士業出身者による「米沢織」の起業が増え始めます。明治25年には、米沢絹織物業組合が設立され、大正・昭和にかけて力織物の発明、ドビー・ジャガードの導入などで生産設備が飛躍的に発展を遂げました。さらに大正時代には、全国に先駆けてレーヨンなどの化学繊維の生産も開始し、米沢産地は呉服部門と服地部門の両面産地として評価を得るようになりました。米沢織の生産最高期である昭和48年度は319社の機屋が存在するほどの、米沢の一大産業になりました。

米織の老舗「新田織物」を継ぐ、五代目当主。

明治17年創業の「新田織物」五代目当主の新田さん。「米澤袴地といえば新田」と言われるほど袴地製作に取り組んできた歴史があります。伝統を大切に受け継ぎつつ、時代と共に色んなチャレンジもしてきました。三代目の当主は、山形県の花でもある「紅花」を用いて、専門家と一緒に「紅花染め」を復興します。四代目の当主は、一貫生産化の導入や、展示会に出品して受賞するこだわりのものづくりに励んでいます。

伝統を守るって、なんだろう。

「先人が築いてきた本質的なものづくりのベースを持ちつつ、時代に合わせた挑戦もしていきたいです。」と、”不易流行”の考え方を大切にしている新田さん。その考え方を体現するように、月の大半は米沢の外に出て、米織を広める営業役と、流行を掴むマーケター役を担えるよう意識されています。「米沢織が世界で知られること=米沢を世界に知ってもらえること」に繋がるのではないかという想いから、米沢織の担い手として取り組まれて来ました。歴史を受け継ぎながら未来に向けてアップデートし続ける、新田さんの挑戦は続きます。

[Nitta Fabrics]五代目 源太郎さんがはじめた米沢織の小物ブランド。


✍️ 編集後記

「世界に勝負できる物をつくっている自負」や「ものづくりに熱中する人が多く、仕事だけではなく趣味の範囲でもクオリティが高いこと」など、米沢に根付く”ものづくりの精神”は現代の米沢の人たちの価値観に影響しているのではないか?と感じる部分があります。移住先の人々の価値観を知るきっかけとしても、機会があれば工房にも立ち寄ってみると米沢人の精神を感じる学びになるかもしれません。


取材協力_株式会社新田
山形県米沢市の織物メーカー。米沢藩の命を受け江戸時代から米沢織に携わり、明治17年に創業。袴地の生産を主体とし、現在は染めから織りまで一貫生産化を進める。工房見学も実施中。(平日10:00-17:00)事前予約必須。

取材・文_谷山紀佳

社名 株式会社新田
住所 〒992-0053 山形県米沢市松が岬2-3-36
TEL 0238-23-7717・7718
FAX 0238-23-7727

株式会社新田