コーヒーの科学をもっと知り、 新たな質を提供したい

Side Slide Coffee 佐藤健さん

佐藤健さん
米沢市出身/米沢市在住/Uターン

—— 住宅街に突然現れるSide Slide Coffeeさんの立地にまずびっくりでした。現在の米沢市堀川町に移られてどれくらいになりますか?

ちょうど1年半くらいですね。当初のお店は、大沼米沢店の隣の米沢市中央にあったんです。そこでまず小さいコーヒースタンドを始めました。ただ、東京のカフェとかでも、いいカフェって通りからちょっと入ったところにありますよね。そういう立地を求めていたときに、知り合いが声をかけてくれたこの場所が理想的だったので、リノベーションをして移転しました。デザイナーさんにもかかわってもらい、家具や建材も山形のものにこだわっています。

—— ホットコーヒーをグラスでいただくこともとても新鮮でした

自分はバリスタのコンペティションによく出るんですけど、コーヒーは水や器によって結構味が変わったりするんですよ。どのカップがいいかとか、全部試して味をみて、こういうグラスのほうが甘さがあるなとか、一つずつ選んでいくかんじですね。うちの店は、季節にかかわらずコーヒーはグラスで提供しています。

—— お店を始められたきっかけはどんなことからでしたか?

もともとお店をやりたくて。でもコーヒーは全然やりたくなかった(笑) コーヒーももともとは好きじゃなかったですし。自分は県外や海外を転々としてたんで、ハンバーガーとかダイナー系が好きだったんです。それをいつかやりたいなと思っていて。東京でもいろんなところで食べて勉強していたんですよ。ところが20代半ばくらいのあるとき、当時はサーフィンをやっていたんですが、好きなサーフィンのショップがあって、そこにコーヒースタンドが入っていたんです。

ちょっと時間があったのでコーヒーを飲もうかなと思ったんですけど、ブラックが飲めないからカプチーノを頼んだんですね。でもカプチーノって泡がブクブクじゃないですか。そんなのうまくねえよなあって思いながら、まあちょっと飲んでみようかなと頼んだら、洗練されたラテアートが描いてあって、味もすごくおいしかった。なんだこれ!?と思っていたら、淹れてくれた人が、バリスタの今の日本チャンピオンの方で。そんなことは全然わからないじゃないですか。それでそんな体験をして、バリスタの人がすごくかっこよくて、「ああ、この人みたいになりたいな」っていうところから、ダイナーをやめてコーヒーやってみようと思って。やり始めたら、意外と自分の性に合っちゃったんですね。料理とかも好きだったんですけど、料理よりもコーヒーを淹れるほうが楽しくなってしまったというか。

僕は中学校までが米沢で、高校からは県外に行ったんですね。それ以降も米沢に帰ってくるんだけどまた違うところに行って、という繰り返し。最初は東京でお店をやりたいと思っていたんですけど、やっぱり地元の米沢でやりたいなと思って。なんででしょうね。米沢にものすごく愛着があるというわけではないんですけど(笑) だけど親もいるし、ゆっくりした時間を過ごしながら、何かを楽しくできればいいかなって。それで始めたんですよね。

高校は新潟のアメリカンハイスクールに行ったんです。バスケットボールをやっていたので、バスケットボールに力を入れている高校にと思って。アメリカでバスケをしたかったから、英語も習えるしいいなあと思って飛び込みました。それからはもう、バスケしかしてなかった。高校を卒業するときに、新潟の短期大学から「バスケやらないか」と声をかけてもらい、日本の高校の卒業資格を取るために大検を受けて、短大に入学しました。

—— バスケットボールは今も続けていらっしゃるのですか?

ずっとプレイヤーでしたが、いまは指導者としてですね。小学校と中学校のクラブチームを運営しています。あとは、パスラボ山形ワイヴァンズのU18、高校生のカテゴリーのヘッドコーチをしています。実はプレイヤーをしていたときから、教えることは始めていたんですよ。親が両親ともにバスケットのコーチをしていたので。でも、プレイヤーとしてアメリカに行って、そのまま日本でもバスケのプレイヤーで食っていくんだって思っていたんですけど、人を育てるのってこんなにおもしろいんだなあと知って、そこからですね、指導をする側になったのは。バスケットボールがうまくなったことより、人として成長したなあと感じるときが、指導者をやっていておもしろいときですね。選手にもいつか終わりがあるので、その終わったあとのキャリアのことって考えるじゃないですか。かといって、プロを目指すなとは言えないし、ちゃんとプロを目指せるように指導したいなとは思っていて。でも、そのあとのキャリアを考えると、やっぱり人としての部分を培っておいたほうがいいなと。例えば、どこかチームや組織に入ったはいいけれど、落とされて給料ももらえないとなると一番大変なんで。そうならないように、成長できるような土台をつくっていく感じですかね。

シュートが入らないと、嫌になったりへこたれたりしますけど、社会に出たらもっとプレッシャーがかかる場面もあるし、会社員になっても自分で経営していても嫌になることってありますよね。そういうとき、基本的なことこそ大事だと思うんです。例えばあいさつがしっかりできたり。それは大人になればなるほど生きてきますし、そうした基本的なことができる人が自立していくんじゃないかなっていうのは、海外に行って暮らしたりプレイしたりするなかで思いました。だから僕はそういうことを中心に教えている感じです。

僕、学校で何かを習った覚えってないんですよ。だからこそバスケットボールを通して教えてあげたいですね。ただ、高校や短大ではバスケのコーチと出会えたので、行ってよかったと思います。すごく厳しい人で、バスケットボールができるできないじゃなくて、「人として通用するように、いまがんばるんだよ」みたいなことを、すごく教えてくれるコーチでした。よく人を見て観察することや、人としての生活の仕方とか、そういうことを教わったのが、高校と短大時代ですかね。

実はこの前も新潟の短大のコーチに会いに行ってきたんですよ。やっぱりいいなあと思って。めちゃめちゃ厳しいけど、愛がある先生なんです。うれしいくせに怒ってきたりして、天の邪鬼だなあって思うんですけど(笑) でもそういうところにも自分は惹きつけられたというか。短大は専攻した内容が自分の関心とは違っていたので結果的に中退したんですけど、それでも見捨てないでいてくれる先生だった。だからその先生が指導者としての目標というか、それを超えられたときにコーチは辞められるかなって思っています。

—— 県外にも海外にも出られてからこうして米沢に戻られて、まずどんなことを思われましたか?

なんか、米沢って小さいまちだなあと思いましたね。ここでお店を始めようと思ったんですけど、全然ノウハウがなかったので、バスケットボールの指導をしつつ、居酒屋でバイトをしたり、イタリアンレストランでコーヒーを淹れたりして、いろいろ習いました。それでもずっとダイナーをしたかったんです。コーヒーも好きになったけど、ダイナーもしたい、だけどやっぱりコーヒースタンドっていいよなあって。「おいしいコーヒーって苦くないんだ」って気づかせてくれた、カプチーノをつくってくれたバリスタさんに出会った影響は大きかったですね。絶対に越えられない壁だけど、越えてみたいなって。そう思いながら始めたら、コーヒーって科学なんだなってわかって、バスケットともつながってどんどんおもしろくなってきて。

バスケットも理論とかデータとか、いまはいろいろありますけど、コーヒーも水のpHを計測したりしますし、アルカリ性か酸性かでぜんぜん味が違ってくる。自分はコンペティションに出るので、水の性質や温度にしても、コーヒーグラインダーやミルの種類とか目盛りだとかにしても、細かく気を遣っていて。その意味で、コーヒーのことをもっと知ろうと思って、焙煎機を最近買ったんですよ。もともと焙煎をしたいと思っていたわけではなくて、提供する側としてもっとコーヒーのことを知るために買っただけで。コーヒーを知って、その知ったコーヒーでどんどんクオリティを上げていって、お客さんに提供したい気持ちがずっとありますかね。

—— お店で提供するコーヒーは、焙煎されているお店から買っていらっしゃるかと思いますが、どんな基準で豆選びをされていますか?

自分は浅煎りを選んでますね。アロマがよくてフレーバーも複雑なもの。複雑なものっておいしいじゃないですか。ハンバーガーや料理もそうですけど、旨味や苦味、塩味、酸味のバランスが大事で、コーヒーもやっぱりバランス。甘いだけじゃ物足りないし、酸味だけでもだめ。そういったバランスのいいコーヒー豆は信用しているロースターさんにお願いしていますが、それを淹れるのは僕ら。だから僕らがクオリティを落とすことも上げることもできるので、それがまたおもしろいですよね。ゆっくり淹れれば甘さが出たり、素早く淹れるとフレーバーが明確になったり。淹れ方次第で豆にもストレスがかかるので、急激にストレスがかかると「うおい!」って力強い味になるし、優しく淹れてあげるとほわーんと優しい味になって。人と一緒(笑)

—— これからやってみたいことも、きっとたくさんおありですよね

そうですね。コロナ前はバスケのイベントだとかも結構やっていたんですね。外にコートを貼って、DJが音楽を流してMCがあおるなか試合をしたり。

米沢市営体育館でもイベントをやったことがあります。あの体育館のイメージをガラッと変えて、ライティングをしてスモークを焚いて、大人も子どももみんなで一緒にバスケットをして。お店が今の場所に移転してきてからは、IターンやUターンのいろんな人とも出会うようになりましたね。そういうところでも幅は拡がってきています。これからもいろんなイベントがやりたいですし、いろんな業種の人たちとも企画ができたらいいなと思います。

—— 最後に、移住を考えている方や迷っている方にメッセージをお願いします

お隣の山形市は、食事をしたいお店や行ってみたい場所もたくさんあったりして、米沢から出かけていく人は多いと思うんです。でも僕としては逆にできたらなという思いがあって。「米沢にはこれがあるから行こう」って、そういうふうに県内からも県外からも来てもらえるようにしたいと思っているんですね。逆にいえば、何か新しい場所をつくってみたい人には、米沢はきっといいところだと思います。米沢に強い思い入れがあるわけではないんですが、ここにも魅力はいっぱいあるよって、それは伝えたいところですね。

取材・文_井上瑶子

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