まちづくりとしての探究教育

米沢市金池の北村公園がある道路の向かい側、金池ビル1階に探究教室ESTEMがあります。こちらを経営する株式会社山のむこうはまちづくり会社として創業し、カフェの経営やIoTの導入支援（小学校でのデバイス活用支援・Webアプリ開発）など、様々な取り組みを通して地域を元気にしています。

「受験のために成績を上げるようなものではなく、興味の幅を広げて、好きなことを追究していったり、自分なりに考える力をつけたりと、いろいろな経験を通して子どもたちに成長してもらいたい。そう思って、この教室を始めました。」

代表を務める大垣敬寛さんはそう語っています。
大垣さんご自身も神奈川県出身で、東京大学を卒業後山形県南陽市にIターンで移り住み、まちづくりに関わる中で2つの課題が浮かび上がってきたそうです。

「ある時街づくりのワークショップをしている中で、『あなたは何レンジャーですか？』と質問したことがありました。チームビルディングの手法でたまに使われますが、自分から率先して動いていくレッド、サポートが得意なブルーなど、いろいろなキャラクターがチームにいると物事がうまく進んでいきます。しかし、この質問をしたとき、40人近くいたにもかかわらずレッドは0人でした。『誰かが何かをするならば手伝いたい。』という人が街の中にたくさんいるものの、自分でアイデアを考え取り組みたいという人があまりいないという現状を目の当たりにしました。さらに、中学生から高校生から話を聞いていると自分が『これをしたい』と言ってもさせてもらえず、だんだん自分の考えを言うのが嫌になってしまうという話を何度か聞きました。『地域の中で率先して動く人が少ない』『中学生や高校生がやりたいことをやらせてもらえない』この2つの課題から、地域の中でアイデアを自分の頭で考え、試していくことを楽しむ機会を作りたい。小さい時から試行錯誤する思考回路を身につけて行ってほしい。そのための場所を作る必要があると考えました。」

興味を広げ、実践を通して学ぶ場を

「ESTEMには国語や算数といった授業は無いんです。私たち自身も面白いと思うような知識や体験を共有することで、子どもたちの好奇心を刺激し、さまざまな経験から考える力を高めることによって、楽しみながら学びにつながる授業を行なっています。」

科学実験やフィールドワークなどを通して子どもたちの知的好奇心を広げ、興味を引き出すことを目的とした「探究コース」、学んだ知識を使って商品販売や建築模型の制作など、表現や発信を実践的に取り組む「学び実践コース」、ブロックプログラミングを使った簡単なゲーム制作からWEB・アプリ制作まで、現役のエンジニアが教える「プログラミングコース」の3つのコースがあります。

ボードゲームを通してお金に対する考え方を学んだり、移動式の動物園を呼んで生物を観察したりと、内容は多岐にわたります。

教科などの分野にとらわれず、さまざまなコンテンツを提供することで、子どもたちはこの教室を訪れるのを毎回楽しみにしながら通ってくれているそうです。大人から働きかけなくても、子どもたちが興味を持ったことは自分から調べたり、質問したりと、自ら学んでいくようになるのだとか。

「教室の中だけに限らず、幅広く学びの機会を作る必要があると思っています。なので、外部の団体や企業と連携してイベントを企画したり、授業の内容を一部体験することができるようなイベントを行なったりなど、定期的に外向けのイベントも開催しています。」

JAXAと連携して、はやぶさ2のプロジェクトに関わった講師を招いて、宇宙探査機のひみつや、太陽系の歴史に関する最新研究について学んでいく『宇宙の話をしよう〜はやぶさ２の物語〜』や、ビスマスの結晶を作る実験を通して色のひみつに迫っていく『美しい鉱石ビスマスのひみつ』などのイベントを開催しており、地域の子どもたちに好奇心の種をまく学びの機会を幅広く提供しています。

教育を行う上で地域に必要なこととは

「子どもたちの興味はさまざまです。新しい知識や知らない人と出会うことによって好奇心が引き出され、自分から学びたい、アイデアを試したいという気持ちに変わっていきます。地域のことを知ることも大事ですが、地域のことを客観的に見るためにもさまざまな価値観との出会いが必要です。」

大垣さんは教育を行う上で、地域の中に多様性を生み出す必要があると話していました。さまざまな価値観を持った人たちが地域に集まることで、そこに関わる子どもや大人が地域を変えていくのだそうです。

地方は教育レベルが低いのではないか。さまざまな体験はできないのではないか。そんな疑問を振り払い、「地方からこそ、多様な学びが生まれる」そう思わせてくれる素敵な空間が探究教室ESTEMにありました。子どもにさまざまな学びや体験をしてもらいたい、地域の教育に貢献したい、そんな方はぜひ探究教室ESTEMへ問い合わせてみてください。

取材・文＿阿部公一