1890年創業の老舗がつくる、すべての世代のための絵本屋さん

えほんや絵瑠夢

絵本のもつ力を感じたモンゴルでの出来事

山形大学米沢キャンパス東側の県道沿いに立地する燃料・家電販売店、エルムアベ1階にえほんや絵瑠夢はあります。こちらを経営する安部利吉商店は、1890年の創業。炭屋、荒物屋、ガス屋、電気屋など、地域に根ざしたビジネスを理念として132年続いてきました。「だから『いつから絵本屋になったの?』とおっしゃる方もまだまだたくさんいらっしゃいますよ」と、店主の安部美和子さん。4年ほど前の店舗改装時に、「1階にはまちの賑わいにつながる場所を」と検討を重ね、2019年に絵本屋をオープンする運びとなったそうです。

けれどもなぜ絵本屋を?
その理由は、かつてモンゴルの子どもたちと触れ合った際の安部さん自身の経験にありました。

「私の所属しているロータリークラブで、6、7年前にモンゴルの孤児院に慰問に行くボランティア事業を行うことになったんです。そのとき、子どもたちに喜ばれそうなものを事前に考えて準備したんですね。言葉が通じないんだから何かコミュニケーションがとれるものがあったほうがいいなと思って、私は絵本を二十数冊選びました。一緒のメンバーからは『日本語の絵本を持って行ったってわかんないべした』って言われたけど、『大丈夫、大丈夫』って言って持って行ったの。そうしたら、0歳から10代半ばくらいまでの子どもたちが50人くらいいたんだけど、みんな絵本に飛びついて離れなかった。私も海外旅行に行くときはよく子どもたちに絵本を買って帰ってきていたんだけれど、絵本にはそういう力があるわけよ。絵から感じるものって万国共通っていうかね。それで、絵本で何かできないかなあということを考えていたんです」

 

絵本と誰もが一対一でゆっくり出会える場を

一方で安部さんは、「絵本というと子どもや赤ちゃんだけのものといったイメージもあるけれど、そのなかに詰まった絵や物語を幅広い世代に楽しんでもらえたら」と話します。

「先日は、私が通っている整体の先生に絵本屋をやっている話をしたら、お子さんと一緒にすぐに立ち寄ってくださって。お父さんもゆっくり絵本を読んだり聞かせたりしながら、楽しんで行ってくれました。あるいは若いご夫婦がいらっしゃって、贈り物にと選んでくださったり。年配の方で『絵本は長いよ』と思われる方には、作家さんの力と思いが注がれている表紙だけでも眺めてみてくださいねとお伝えしているんです。ページを開くうちに『気になるから文字もちょっと読んでみようかな』となって、知らず知らずに認知症予防にもつながっていくそうで、それもいいなあと」

そうした「大人にこそ絵本を」との安部さんの思いから、えほんや絵瑠夢では「いきいき絵本カフェ」も毎月第2・第4火曜に開催されています。募集対象は「シニアと思われる方どなたでも」。定員は少人数で随時募集しており、絵本を見たり読んだりしながらおしゃべりする地域の「お茶っこ」です。「それって読んだ感想とか、何か言わなきゃいけないんでしょう?」と聞かれることが多いそうですが、そうしたやりとりは特になく、絵本や会話をそれぞれ好きなように楽しむことを大切にする交流の場なのだそうです。

また、えほんや絵瑠夢では、年齢や予算に応じて絵本を選んで送る定期配送サービスも行っています。例えば個人のお客さんや施設などから「プレゼントに贈りたい」と申し込みがあったり、病院の待合いスペースに置く絵本としても活用されていたりするそう。在庫がない本は取り寄せも可能なので、「インターネットで注文してもいいんだけど、せっかくだからあなたのところで買うね」と言って、よく注文してくれる地域の方々もいるのだとか。

安部さんの父親は、漫画家で絵本作家の馬場のぼるさんと出征した際に戦地で一緒になった縁から、孫たちにはいつも馬場のぼるさんの絵本をお土産に持ってきてくれていたと言います。また、安部さん自身も昔から仕掛け絵本が好きだったりと、絵本の楽しさやおもしろさを肌で感じてきたのだそう。だからこそ、誰もが絵本と一対一でゆっくり出会える場づくりを大切にしていると、また、えほんや絵瑠夢のキャッチフレーズは「えほんって 大人もいいずね~」だと話してくれました。

実は大学時代は「リケジョ」だったという気風のいい安部さん。「研究に没頭? どうかしらね(笑)」。絵本とともに、ぜひ触れてみていただきたい楽しいお人柄です。

取材・文_井上瑶子

営業時間 10:00ー18:00
定休日 祝日・第三日曜日

えほんや絵瑠夢(株式会社 安部利吉商店)

山形県米沢市本町1丁目3-41

0238-23-0423

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