『ないからつくる!』クリエイティビティを育む、里山での子育て&教育

里山ソムリエ

米沢市の中心部から車で15分ほど走ると到着する南原という地区で、米沢の地域性を活かした、子育て&教育環境づくりを行っているのが​​人材育成アカデミーローズレーン代表の黒田三佳さんです。東京から移住されて約20年以上、米沢の南原地区でご自宅の裏の里山を開拓し、里山での子育て&教育環境づくりに取り組まれています。代表的な取り組みとして、毎回約20名の幼児と小学校低学年の子どもたちに季節ごとに変わる森の様子や自然を感じてもらう「森のようちえん」や、約50名の小学生〜中学生が森の中で英語を楽しく学ぶ「みなみはらえいごくらぶ」をされています。「ここの里山で育つ子は、みんな面白い子たちなのよ〜!」と嬉しそうに話しかけてくれる黒田さんに、南原地区の里山で子育てをするとはどういうことなのか、お聞きしました。

便利すぎないことが、なければつくる楽しさに気づかせてくれたんです。

「私は東京出身で、移住する前は国際線の乗務員として世界中を飛び回っていました。米沢に移住したいと思ったのは、置賜エリアに夫と旅行した際に、以前住んでいたデンマークのヒュッゲな暮らしと米沢の暮らしが似ていると感じたことがはじまりでした。いつか米沢に住みたいと思っていた中で、約20年前に子育てがきっかけで米沢の南原地区に移住してきました。今は、自宅の裏の里山は畑や探検できる道など整備してありますが、移住してきた当時は自宅の裏庭は倒壊寸前の空き家と手入れされていない茂みがある状態だったんです。自分が一息つけるカフェも、子供と一緒に楽しむ場所も、何もなかったので『ないからつくろう!』と思い立ち、少しずつご近所の方々にもご協力をいただきながら畑を耕し、裏庭を楽しい空間にしていきました。」

東京に住んでいた頃のようなカフェや遊べる施設があれば里山を開拓しようとは思わなかったと思います、と黒田さんは語っています。子育てを終えた今でも、「森のようちえん」や「みなみはらえいごくらぶ」という米沢の地域性を活かした教室をご自宅の裏庭でされています。

昨日もデンマークの人形「ニッセ」をつくるのが上手なご近所の方が子どもたちに教えてくださり、子どもたちから「森で迷子にならないように、案内板がないからニッセを森におこう!」とアイディアがあり、みんなで作ったそうです。

「将来の職業も既存の選択肢から選ぶのではなく、自分に適した職業を生み出す時代になるかもしれません。今ある物の中でこうなりたいと決めるより、もっと自由に夢を描けることが大切だと思っています。」

ないからつくる!という里山での環境は、これからの予測不可能な時代を生きる子どもたちにとって大切な力が身に付く環境なのではないかとお話されていました。

 

「生きた教育」を体験できる土壌が米沢には昔からあると感じています。

「米沢には、『生きた教育』を体験できる土壌があると感じています。生きた教育とは、教科書にある5教科だけを習うのではなく、社会や自然に触れて自ら体験して学ぶ、ということを指しています。私が住む南原地区も、幅広い世代の人がお互いの顔を認識できる距離に住んでおり、道端ですれ違うときに挨拶をしたり、雪の日には除雪を助け合います。住んでいる人同士で会話をする機会が多い、という文化があるのだと思います。先日も道端で立ち止まっているおじいちゃんに進んで声をかけた子がいて、おじいちゃんを助けることにも繋がったんです。自然と行動に移せたのも、子どもの頃から幅広い世代と関わる環境で生きてきたからという理由が大きいのではないかと感じています。」

「本物に触れる、という点でも米沢は生きた教育を体験できる環境になると感じます。ある時、近所に住むお母さんが絵を描くことが好きな息子を連れて遊びにきてくれて、絵の才能を伸ばすためには子どもの頃から美術館のある東京に引っ越すべきか悩んでいるんですよね、とご相談いただきました。私は絵の初心者なので偉そうなことは言えないですが、東京で山の写真をみてスケッチするよりはるかに本物が目の前にあるという考え方もできるのではないか、とお伝えしたところ、息子さんはその後も米沢で絵を描き続け、高校卒業後は美術大学に進学することが決まったんです。」

米沢の人や自然が、生きた教育を体験できる土壌になっていることを黒田さんは教えてくださいました。

 

里山で育った子が、自分の個性を活かして社会で活躍していると嬉しいんです。

「この里山には、約20年近く、色んな子どもたちが通っています。どの子もそれぞれ熱中できることを持っていて、社会に出てからも近況報告をしてくれることが嬉しいんですよね。子どもの頃からアートが好きだった子が大人になった今では世界で活躍し、銀座で展示をするほど人気のガラスアーティストになっている子もいます。」

自分の個性を大切にできる子が里山にはなぜ多いのだろうと不思議に思い訪ねたところ、「まずは、認めてあげること」を大切に心がけているそうです。里山に集まる子どもたちは、地頭力がある子たちが多く、大人が拾い上げて認めてあげられるかが重要だとお話されていました。上手か下手かで判断するのではなく、まずは認めてあげることが自己肯定感にも繋がり、主体的に創造する力が伸びるのではないかと黒田さんは語ります。

奥の掛け軸は、詩を読むことが好きな女の子が書いた詩。情景が思い浮かぶような詩を書く女の子がいることに驚きます。

里山に通う女の子から、「自分の持っている古着を売りたいけど、子どもだから金銭での売買は難しい。何か自分の持っている古着を売ることのできる仕組みはないだろうか」と丁度、相談を受けていて、里山に通う子たちと一緒にどうしたらその仕組みが成り立つのか?作戦会議をしているのよね、とお話されていました。古着をリユースするサスティナブルな精神と地域通貨のような仕組みを思い付いてしまう子どもたちには驚かされます。

 

お父さん・お母さんが持ってる色んな技が集まると、里山はもっと面白くなると思うんです。

「里山には個性あふれる子どもたちがいますが、そこには子どもの個性を認めて伸ばすことが上手な大人たちの存在があることも大きいと思っています。実はお父さん・お母さんたちも色んな得意技を持っているんですよね。今度、東京で一流の料理人をしている人が里山で一日限定のお食事会を開いてくださるのですが、色んなキャリアの大人たちが里山で活動していることが子どもたちにとっての、熱中できることを見つけるタネになると思っています。お父さん・お母さん自身の個性を活かした仕事のつくり方を私も一緒にお話を伺いながら見つけていけたらと思っています。」

黒田さんは、自分が得た気づきや経験を自分の子育てに活かすだけでなく、周りの人にもシェアする精神のある方だと感じます。なぜ、そこまで周りにもお伝えしようという精神があるのだろうかとお尋ねしたところ、7人家族の家庭で育ったこともあり「嬉しいことはシェアしたら7倍になるし、悲しいことはシェアしたら1/7になる。みんなでシェアして生きていこう。」と親から教わって育ったからかもしれないです、とお話されていました。


✍️ 編集後記

”その土地の良さを活かした子育て・教育のスタイル”ができると、子どもたちにとってかけがえのない体験ができるのではないか、と黒田さんのお話をお聞きして感じます。黒田さんが「都会は都会の良さがあるし、地方は地方の良さがある。どちらが良い、ということはなくて、居る環境の中でポジティブに生活できるかが大切だと思うんだよね」とお話されていたことが印象に残っています。「置賜エリアで子育てをする際には、いつでも相談にきてくださいね!」と快くおっしゃってくださる黒田さんがいることが何よりも心強い。置賜エリアでの子育ての楽しみ方を見つけるヒントになれば嬉しいです。(※黒田さんにご連絡したい方は、黒田三佳さんFacebookのメッセージよりご連絡ください。)

取材・文_谷山紀佳

里山ソムリエ 黒田三佳