ゼロエミッションに向けたソリューションを提供
2020年10月に当時の菅総理大臣が、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言した。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、気候危機を回避するための目標と環境省は定義している。そのカーボンニュートラルに大きな役割を果たすのがゼロエミッションだ。エミッションは排出という意味。ゼロエミッションとは、環境を汚染するような廃棄物を出さない、もしくは廃棄物の再利用などを通して限りなくゼロにしようとする活動だ。
少し言葉の説明が長くなってしまったが、そのゼロエミッションに貢献する仕事をしているのが、株式会社高砂製作所だ。EVやPHEVの開発に欠かすことのできないバッテリー、インバーター、モーターなどの主要部品の性能評価に関する製品を、お客様の試験環境に合わせて組み上げ、それらを制御する測定技術と共に提供している。「この事業はもともとハイブリッドエンジンの試験装置や試験環境を作る技術などを提供していたところから始まっています」と話すのは、高砂製作所鶴岡事業所の所長を務める鳥海真一だ。
「現在、環境問題が深刻化してその解決策の1つとしてもEVは注目され、その技術開発が加速しています。私たちはエネルギーの制御技術を提供することで、その一端を担っているという自覚もあります。お客様とともに持続可能な社会の実現に向けた仕事をしていると考えています」と話してくれた。
会社を自らの手で動かす
高砂製作所はもともと日本電気の協力会社として1950年に東京都にて発足し、通信機器、放送機器の製造を事業の中心としていた。通信を制御する装置の研究開発、製造、販売をし、現在でも事業の1割ほどは通信関係の事業だという。
その後、1959年には国内初の半導体直流安定化電源の開発に成功するなどし、業界内で評価を高めていった。1963年には、日本電気の資本参加により系列会社となった。1969年には、鶴岡事業所の前身となる株式会社高砂電子機器製作所を全額出資の関連会社として設立した。2014年になると、高砂電子機器製作所を併合し、高砂製作所鶴岡事業所とした。
その高砂電子機器製作所に入社し、現在は生産管理部マネージャーとして働くのが菅原直人だ。「入社時は、高砂製作所と高砂電子機器製作所という別会社でしたが、合併することになっていろいろと学ぶところがありました。それは技術の面でもそうですが、会社との関わり方も変わったと感じています」と菅原は言う。
その1つが会社の中期目標を決める際に経営陣だけでなく社員も参加するファシリテーション活動だ。現場の声を会社全体の経営方針に反映させるための方法として取り入れた。
「会社全体を広い視野で見ることが必要なので、自分たちの仕事を俯瞰して見ることができるようになりました。また、他の部署とコミュニケーションをとるきっかけにもなり、さまざまな学びがあり成長につながったかなと感じています」と菅原は話してくれた。
また、生産技術に所属する長谷川里美は別の活動の話をしてくれた。「アジェンダ活動というのがあるのですが、これも2015年あたりから本格化したものです。簡単に言うと社内の課題に対して社員が部署を超えてチームになって考えて、改善案を提案していくという活動です」という。
発足当時、働きやすい職場作りをテーマにしたアジェンダ活動の中で、みんなが使う場所(トイレやロッカー)をきれいにという話がでたそうだ。「本社・鶴岡・営業拠点とそれぞれの部署から参加し、メンバーに女性も多く、働く環境としては大事な事だとなり、話が進みました。」そうして実現したのが記憶に残っているという。また「課題解決から会社が成長する事を目的としたテーマのアジェンダ活動もたくさんあります。その1つの成果として大学とのコラボです」とも話してくれた。
高砂製作所は、チャレンジしている学生を応援するという形で、東京大学、横浜国立大学、富山大学といった、さまざまな大学のフォーミュラプロジェクトとコラボしている。新しい可能性を広げる支援活動として行っているこの事業も現場社員からの声で進められているのだ。
アジェンダ活動の一環で整備されたトイレ
持続可能な社会、持続可能な会社に向けて
2022年に、アンリツの一員になりますますこの変革の雰囲気が社内に浸透していっている。「これからやりたいことはありますか?」という質問に対して、すぐに答えが返ってきた。菅原は「工場の自動化を進めていきたいと考えています。ただ、業種上、少量多品種という製造スタイルなのでさまざまなハードルはあります。それでもアンリツとの技術交流などで新しい学びがたくさんあるので、それを活かしていきたいと考えています」という。
同じように技術交流を活かしたいと話すのは製造部の佐藤大樹。現在は、システム電源と言われる、受注生産の大型電源の検査業務を担当している。製品完成までの流れとしては、営業がときには技術と一緒にお客様と細かい打合せを行い、仕様が確定すると、技術で設計を行い、生産計画が作成され、部品手配、製造、評価、検査と進んでいく。検査業務では、お客様に納品をする際には同席して動作確認をするといった作業にも関わる。「そのなかで、細かいサイクルで仕事を振り返って改善活動をしていくということに力を入れていきたいと考えています。そのためには、現場からの声が非常に重要になるので、それをきちんとキャッチアップしていきたいと思います」と話してくれた。
それに対して長谷川も「改善するにしても、現状を可視化できていないのも事実です。そういったことを電子化して『見える』ようにしていく。個々人が持っているノウハウを共有して、誰でもができるように変えていきたいと思っています」と言う。続けて「なんで今までどおりじゃだめなの。っていう考え方はもちろんあり、変えていくのは大変ですが、以前よりも、新しいことへ一度はやってみようかなという雰囲気があるように感じています」とも話してくれた。
所長の鳥海は「アンリツと高砂製作所は個々の製品をつくるのはもちろんのこと、お客様の声を聴きお客様と一緒に仕様をつくり技術と製造が協力して製品を提供するスタイルが似ている部分です。だから、違和感なく協力関係が作れるのではないかと思います」と言う。
未来に向けて再生エネルギーを使った工場を描きそれに向けチャレンジしようと考えているという。「そういった変化をトップダウンだけではなく進めていきたい。社員たちも自らが未来のなりたい工場を描き、その実現に向けて一歩を踏み出して欲しい。初めてのことにもポジティブにチャレンジしてほしい」と話してくれた。
最後に菅原は「変化はもちろん不安なところもあります。でも楽しみなところもたくさんあるのでいろいろ挑戦していきたいと思います」と話してくれた。
事業はもちろん、工場で再生エネルギーを使うことでゼロエミッションに挑戦する。持続可能な社会の実現に向けて日々奮闘する会社のなかでは、現場社員たちの声から変革が行なわれていく。持続可能な会社が、その未来のなかにはあるのかもしれない。
アジェンダ活動の一環でタイル壁紙に変更された食堂の一角