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現場主義が創り出す、世界中を繋ぐ庄内発の無線機

JVCケンウッド山形株式会社 / 株式会社JVCケンウッド山形/調達担当

インタビュー記事

更新日 : 2023年08月21日

国内シェア第1位、世界シェア第4位。日本はもとより、世界中で使用されている無線機を製造しているのが今回インタビューを行った株式会社JVCケンウッド山形だ。ここ庄内の無線機がいかにして、世界で評価される品質を創り出しているのか。その秘密は徹底した現場主義だった。

JVCケンウッド山形株式会社 事業概要

1981年にトリオ株式会社の出資により、山形県鶴岡市中央工業団地に東北トリオ株式会社として設立された。トリオ株式会社が株式会社ケンウッドと社名変更するのと同時に、1986年に商号を「株式会社山形ケンウッド」に変更。後の2011年に、ケンウッド、日本ビクター、および関連会社が株式会社JVCケンウッドとして統合した際に、商号を現在の株式会社JVCケンウッド山形に変更した。  設立当初より無線機関連の製造を主業務としていたが、1990年代に入ると、FM放送機を始め、無線機関連製品における自社開発製品の製造を始める。設立当初、生産技術部は神奈川のケンウッド内の事業部にあったが、無線機関連製品は専門的な技術を要し、製品の品質向上などには製造現場からのフィードバックが不可欠となるため、JVCケンウッド山形の工場に生産技術、設計を移管することとなった。現在、無線機世界シェア4位(国内1位)を誇るJVCケンウッドの製品のうち、ハイエンド製品を中心に製造を行っている。


世界シェア4位を誇る

 株式会社JVCケンウッド山形は、神奈川に本社を置く株式会社JVCケンウッドの主要生産事業会社のひとつとして無線機を中心とした、通信関連製品、業務用製品を製造している会社。モトローラに続いて世界シェア2位を誇るJVCケンウッドの無線機を支える生産現場だ。JVCケンウッドの無線機のなかでも主にハイエンド機器を生産しており、その品質は高い評価を得ている。無線機といわれるとどこか遠い世界の話のようにも思えるが、飲食店やショッピングモールといった身近なところでも使われているものだ。そのほか、JVCケンウッド山形で製造しているハイエンド機器は、学校の無線放送に使われるものや、消防、警察、警備といった場でも広く使用されている。

 世界シェア4位ということはつまり、国内だけでなく海外でも広く導入されているということだ。国連加盟国の日本大使館では、JVCケンウッドの無線機が使用されている。また、アメリカ、ヨーロッパ市場での信頼はあつく、アメリカでは連邦政府、消防、警察といったパブリックセーフティ分野で広く採用されている。その無線機はここ山形で設計、製造され届けられているのだ。

現場主義が創り出す品質

 なぜそれほど高い信頼をうける製品が創り出せるのだろうか。その理由のひとつを「ノウハウの蓄積」だと、取締役社長の佐藤は言う。

「無線機の設計、生産というのは、専門的なノウハウが必要がとなります。例えば一般の家電と比較すると、無線機のみに使うような汎用性のあまり高くない知識と技術が必要になるということです。我々はその無線機を工場が設立された当初から進めてきたので、蓄積されたノウハウがあり、その点でアドバンテージがあると考えています」

 JVCケンウッド山形はもともと、1981年にトリオ株式会社の出資により、山形県鶴岡市中央工業団地に東北トリオ株式会社として設立された。トリオ株式会社が株式会社ケンウッドと社名変更するのと同時に、1986年に商号を「株式会社ケンウッド」と変え、またJVCケンウッドとなった際に同じく現在の株式会社JVCケンウッド山形に変更したという経緯がある。東北トリオとして設立されたといったが、これはもともと無線機の基板などを作っていた工場を整理統合しての設立だった。工場設立から数えても40年以上の歴史があるということだ。その間に蓄積されてきた専門的なノウハウは何よりも大きな財産となっているという。

 また「現場主義」も高い品質を支える大きな要因のひとつだと佐藤は言う。工場設立当初は生産技術部門、設計部門は日本の多くのメーカーがそうするように、神奈川の事業部に置かれていたそうだ。しかし、精緻な技術を要する機械のために、設計の段階では想定しなかったことは必ずどこかで発生する。それに合わせて設計や生産体制を柔軟に変えていくには、設計、生産技術といった上流の過程も現場のすぐそばにあったほうが対応がしやすいし、“ものづくり”の観点でいえばその方がより良いものを創れるのだ。現場ファーストの判断により、神奈川の事業部から、専門の部門を山形の工場に移管し、設計、生産技術、生産現場という三者での製造体制を作り上げた。その迅速な連携が、高い品質を創り上げているのだ。

生産の現場から

 現在、技術部設計チームで働く伊藤功大(写真右)は「歩いてすぐのところに生産現場があるというのは設計としてはすごくありがたいことです。生産技術の人間も近くにいて、目指すものを創るためには、どこをどう変えていく必要があるかというのをみんなで話し合えるので、結果的に品質も生産スピードもあがっていきます」と話す。

設計は図面を引いて終わりではない。品質をチェックし、不具合があればカスタマイズしていかなくてはいけない。そのフィードバックがすぐに来るのは大きい。例えば設計は日本、生産は海外の工場ということであれば、組みあがった製品をチェックするために数日を要するということになる。そこから修正をして再度生産となれば当然多大な時間が必要になる。それがひとつにまとまっていれば迅速で柔軟な対応ができる。それは当然品質向上にもつながっていく。

現在は自動化推進チームに所属している冨樫直希は以前、福島でカーナビを生産する会社で生産設計をしていた経験があるが、そのときの体制と比較して「やっぱり設計と現場が近いというのはすごくいい環境」と答える。「実際に歩いていける距離、もっというと見えるところに現場があるわけです。だから現場からのフィードバックがはやいというのは当然なのですが、実は逆に設計側が生産現場のことを考えながら設計をするようになるんです。この双方向のコミュニケーションは、生産を円滑にする大きな要因だと思います」

「例えば、この箇所とこの箇所で同一のネジを使ってもらいたい、という細かな部分の声も現場からあがってきます」と話すのは生産技術チームの池田俊之だ。「ネジの種類が違えば、それだけミスが起きる可能性も増えてきます。そういったことは現場でしか実感できないことです。そういう細かなことが不具合をなくしていくことに確実につながっています」

 そうしてできあがっていった生産体制は汎用性を持っている。冨樫と同じく自動化推進チームに所属する小野寺星子(写真)は「マレーシアに導入したネジ締めの機械は効果が高く、品質が安定し、ミスの発生率が著しく下がったと報告を受けました」という。

小野寺は高校を卒業後、関東の大学へ進学。就職は地元山形でと考えていたが、学生時代に学んだ設計の仕事があるかどうか不安だったという。「庄内には生産工場がたくさんあるけども、設計などの仕事はやはり都心にあり、あまり庄内にはないイメージでした。しかし調べてみるとここに設計の仕事があったんです。それで応募して入社。しかも生産と近いからいろいろと学ぶことが多く、技術者としてある意味想像よりも学びが多く成長できる場所でした」

冨樫と小野寺が勤務するロボット開発室

小野寺らが開発した自動ネジ締め機

庄内から世界へ

 冨樫は無線機製造が専門的であることを指摘したうえでこういう。「専門的なノウハウが必要な製品ということは、経験も大きな価値です。そうなると経験知といった部分で、技術や知識が属人化するリスクもあります。それを解消するためにも設計、生産技術、現場と密なコミュニケーションをとれる環境は素晴らしい。会社としても部署をローテーションで回すようにするなどし、それぞれの立場からの考え方がわかるようにしてくれています」

人事によると、JVCケンウッド山形では定期的に配置ローテーションを行うという。別のワークフロー部分を学ぶことでより商品や技術についての理解度が高まり結果的に良いモノづくりへと繋がるだけでなく、ここで働く従業員のやりがいや成長にも繋がっていくそうだ。そうすることで従業員は能動的になり、自らのキャリアプランや目標を意識する社員が増えてきたとも言う。

「いろいろと新しいことをやろうとしている会社だと感じます」というのは池田だ。「最新情報を吸収し、それを活用して私もいろいろとチャレンジしたいと考えています。会社としてはマルチスキルを目指しているので、自分もレベルアップしていきたいと思っています」

池田は鶴岡高専卒業後に設計として入社し、現在は生産技術で活躍している。人事ローテによりワークフローの異なる部署で経験したことが、今の仕事にも役立ち、さらに自分自身の成長意欲にも繋がっているという。

 その声に合わせるように伊藤も「1から設計をやっていきたいと私は思っています。ここ山形で1から始めて、製品、生産現場を最終最後まですべて完結させる製品に携わる。それが私の目標です」という。「自分が設計、製造した製品が目の前で使われているのを見るのはこの仕事をしているうえでこのうえない喜びです」というのは小野寺。「シンガポールにいったときにふと見たら、警察や警備の人たちが私たちの製品を使っていたんです。そのとき、うまく言えませんが『あーっ!』という感覚になりました」と笑いながら教えてくれた。

 冒頭にお伝えした通り、JVCケンウッドの無線機は世界シェア第4位。世界のそこかしこで利用されているものだ。それがここ庄内で生まれ、世界中に届けられている。加えて、地元の学校、消防、お店などの身近な生活も支えている。無線機は人と人を繋ぎ、コミュニケーションを育む機会である。人なしには存在しない。今日もこの世界のどこかで、JVCケンウッド山形がたくさんの人と人を繋ぎ世の中を支えている。それは、取材を通して庄内の誇りの一つであると感じずにはいられない、そんな庄内を代表するモノづくり企業である。