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点をつないで面を描く。 分野にこだわらないからこそ生まれた新事業

株式会社庄内クリエート工業 / 電気設計

インタビュー記事

更新日 : 2024年03月30日

菓子箱の自動包装機など、いわゆる産業用省力機械を製造しているのがここ株式会社庄内クリエート工業。2013年から開発を始め、2016年から販売を開始したガン治療機で医療分野にも進出するなど、産業用省力機械を中心にしながらもさまざまな分野の機械製造を手がけている。特定の分野に特化するというの事業展開のひとつの選択肢だが、庄内クリエート工業は「広くお客様に求められる分野で」事業を展開したいという。その根底にはどんな想いがあるのか。

株式会社庄内クリエート工業 事業概要

1977年に前身となる鶴岡塗装工業を創業、農機具部品などの制作を開始した。1980年代の半ばには、現在も主要取引先のひとつとなる、旭化成エンジニアリング株式会社と取引を開始、産業用省力機械の受注を始めた。1990年に有限会社庄内クリエート工業を設立し、1996年に株式会社庄内クリエート工業に改組し、現在の体制をとるようになった。 お客様に必要とされれば、広く手の届く範囲で協力する。そんなモノづくりをモットーにし、創業当時から続く、自動包装機、菓子製造機などの産業用省力機械製作を中心にしながらも、印刷用製版機、携帯用電池検査機など、幅広いジャンルの機械製作を手がける。加えて、2012年からは川崎重工業株式会社とロボット関連事業の協力事業を始めている。 現在ではその幅をさらに広げ、2013年からガン治療機「アスクーフ8」の開発を始め、2016年に製造販売承認を取得し販売を開始した。高周波式ハイパーサーミアシステムと呼ばれるこのタイプ治療機の開発販売事例は国内でも珍しく注目を集めている。


点が線に、そして面になっていく

「平たく言うと“尖ってる”というのでしょうか、どこかの分野に特化するというのも、事業戦略のひとつだと思います。ただ、当社は創業からの歴史を振り返ってみても、特化しないことで“尖る”ことができているんだと思います」

こう話すのは庄内クリエート工業株式会社代表取締役社長の小田秀一。庄内クリエート工業は、設計から加工、塗装、組み立てまで一貫製造体制を持つ産業用機械製作会社だ。産業用機械といっても幅広い。事業戦略としてはその幅広いジャンルのなかから、どこか特定の分野に特化して事業を組み立てるということで特徴を出すというものを採ることもあるだろう。しかし庄内クリエート工業はあえてそれをせず、広い分野でさまざまな機械を製造している。

「歴史というのは、お客様つまり人とのつながりということです。創業当初は農機具の部品製作や塗装をしていました。その後ご縁があり、産業用省力機械の製作を任せてもらえ、さらにそのつながりから、印刷用製版機の製造が始まりました。そうして、人と人がつながって事業分野が広がって行ったんです」と小田は話す。

「こういうの作れないかな」という相談から仕事が始まったという。もともと持っていた技術に加え、発注先企業から技術提供を受ける形で新たな技術を磨いていった。小田がいうところの“縁”が技術を広げ、新たな仕事を生んでいった。この連鎖を小田はこう表現する。

「さまざまな機械を製造するということは、機械製造というフィールドから見たら“点”を打っていくという作業。点を打っていくことで、それがどこかで線になり、その線がつながり面となっていく。それが当社の事業上の強みになっていっているんです」

広い事業分野がつながっていく

繰り返しになるが、庄内クリエート工業が手がけるのは、菓子箱の自動包装機といった産業省力機械から印刷用製版機、それに加えて大手企業と協力してロボット関連事業にも参加している。このように手がける分野は幅広い。これは設計から加工、塗装、組立まで一貫製造体制をとっていることで技術を製品に活かす汎用性が高く、さまざまな製品に対応できるという事業上の特性からきている。そのため、さまざまな分野からオファーを受けることになる。そうして事業領域を広げていった。そのなかで培われてきた技術を活用し、自社製品を持つことができないだろうかとして足を踏み出したのが医療機器分野だ。

高周波式ハイパーサーミアシステムというガン治療機の開発に着手したのが2013年。このシステムはすでに開発され、製品となっているものもあったのだが、普及が進んでいなかった。この治療法は身体的負担が少ないのが特徴で、この治療法を手術、抗癌剤治療などと併用することで、ガン患者の生活の質の向上につながるのではないかと考え開発に踏み切った。既存の製品も参考にしながら改良を加え、新たなシステムで製品化を目指した。このときもこれまでの歴史で培ってきた“縁”から、さまざまな企業、人物から協力を得て製品化に至った。2016年に製造販売承認を取得。開発販売は庄内クリエート工業を含めて国内ではたった2社のみとなっている。

現在その高周波式ハイパーサーミアシステム「アスクーフ8」を扱うメディカル事業部を担当するのが佐藤州だ。秋田大学の工学部を経て入社した佐藤州は「自分がこの分野の仕事に従事するとは思っていなかった」と話す。

「ずっと同じ機械を作るのではなく、新製品、しかもそれを自社製品として扱うというのはリスクヘッジになるという経営的な事業展開の意図ももちろんわかっているつもりです。でもやっぱり自分がガン治療の分野に関わるとは想像していなかった。医療分野に関わるということは患者さんに対して責任を持たなくてはいけない。だから緊張感はありますが、とてもやりがいのある仕事だと感じています」

“きれいごと”を貫く力

人や企業とのつながりの裏には「エンジニア魂」があると小田は言う。「エンジニアというのはモノ創りのときに、少し高いハードルでも、例えば手の指の第一関節がひっかかるならやってやろうって思うんですよ」。その想いが経営基本方針にある「お客様に必要とされる、信頼を第一とする社員の会社」というものにつながっている。話を聞いた、長谷川寛も口を揃えてそこにやりがいを感じるという。機械事業部で班長を務める長谷川は「難しいと思ったものでもきちんと制作し、お客様に引き渡すことができたときの達成感はやっぱり大きいです。何というか、言葉にしてしまうと、当たり前というか“きれいごと”のようにも聞こえますが、そこにまさる達成感はないですよね」と話す。

長谷川の話のなかに“きれいごと”というワードが出てきたが、社長の小田もそのきれいごとを貫く力をつけなくてはいけないと話してくれた。庄内クリエート工業の経営理念が「モノ創りで社会に貢献。社員、家族を幸せにする会社」というものだ。経営理念といったものは抽象的な言葉で、きれいごとになりがちではあるのだが、たしかに“きれいごと”に聞こえる。それに対して小田はこう話してくれた。 「これがきれいごとだということはわかっているつもりです。ただし、きれいごとということは、これが実現されれば素晴らしいということですよね。だから、きちんと言ってしまう。それに向かって進み続ける。そうすることで、会社として力がついていくんだと思います」

先述のエンジニアとしての想いもその実現のためのひとつの心構え。ほかにも現場で働く人間がやりがいを感じられるように、人材教育制度、人事評価制度の見直しも行っていくという。そのひとつの具体例として面白い試みがスポーツを通じた意識改革だ。ブラインドサッカーやラグビーといったスポーツを通じてコミュニケーションやチームワークの重要さを学び、チームとしてひとつの目標をクリアすることのノウハウ、達成感を持てるようにするというもの。チームとしてまとまるためには、コミュニケーション、自己肯定感、他者受容といった様々なことが必要になる。庄内クリエート工業の目指すモノ創りにもそれらが必要だと考えているという。また、そこで得た達成感や感動を共有することでつながりが強まっていくのだ。そうやって培われた“人の力”が、きれいごとを貫く力になっていくと話してくれた。