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さまざまな人が行き交う街。人々の活気が溢れる商店街を目指して。

株式会社カクギン / 複数ポジション選択制

インタビュー記事

更新日 : 2024年03月06日

鶴岡銀座商店街。食料品や衣料品はもとより、寒鱈まつりをはじめとした数々の年中行事で、鶴岡の人々の生活を支えてきた商店街だ。しかし全国の多くの商店街がそうであるように時代の移り変わりとともに銀座商店街も徐々に活気が失われていった。店舗の種類を豊富にしたり、定住する消費者を増やしたり、加えて各種イベントの企画・運営をして、トータルで“ひとつの街”として商店街をデザインする試みをしている人たちがいる。

株式会社カクギン 事業概要

戦後に銀座商店街の商店街組合が作られ、その出資によって株式会社カクギンを設立。銀座商店街から商品の仕入れをする小売店舗を荘内病院内に作り、運営をしていくことを主な事業としていた。現在でも荘内病院内のコンビニを経営するという形でその事業は続いている。その後はカクギンが出資し商店街の運営をしていくという当初とは逆の形を取るようになった。日本海寒鱈まつりをはじめとした商店街で行われる大小のさまざまなイベントを企画運営するほか、鶴岡銀座商店街の中心部に位置する「まちづくりスタジオ鶴岡Dada」の運営をしたり、新店舗の出店や運営のコンサルティングをするなどして、街として商店街のデザインを手がけている。今後は小売業のスタートアップの場所や小さなイベントスペースを提供したり、定住する消費者を増やすといった方向を目指して街をデザインしていく。

「時間を忘れて楽しめる街」だった商店街

「いろいろなお店があって、友達と学校の帰りにブラブラしていましたね。メインの通りだけじゃなくて、横道に入ってもおもしろいお店がいっぱいあって、気がついたら2時間、3時間経っていたなんていうこともありましたね」

そう話すのは株式会社カクギンの社長であり、銀座商店街振興組合の理事長も務める阿部直人だ。カクギンは、戦後に組織された銀座商店街の商店街組合の出資によって作られた会社。設立当初の事業は、荘内病院内になる小売店舗の設立、運営。商品を銀座商店街から仕入れることで商店街の活性化を図ることがひとつの目的だった。現在は荘内病院内にあるコンビニエンスストアを運営するという形でその事業は存続している。

のちに商店街の経営状態の悪化などにより、当初とは逆にカクギンが出資、企画するという形で商店街の経営を手がけるようになった。現在、商店街への出店計画、誘致をしたり、商店街で行われる各種イベントの企画、運営を行っているのがカクギンだ。

阿部は銀座商店街にあるレコード屋に生まれ、幼い頃から商店街を見続けてきた。だから先ほどの「時間を忘れて楽しめる商店街だった」という言葉にも実感がある。「だった」というのは当然、今は違うという意味が含まれる。

「時代の移り変わりといえばいいのか、それとも人々の生活様式の変化といえばいいのでしょうか、その変化のなかで商店街はその役割を変えてきたはずです。それについていけなければ商店街は衰退してしまいます。残念ながら鶴岡銀座商店街は、ついていけない側だったので、徐々に衰退していってしまいました。寒鱈まつりなど、現在でも多くの方に来ていただけるイベントなどもありますが、日々の商店街はなかなかそうはなっていないのが現状です。父が亡くなってから商店街組合に入り、現在では商店街デザインをするカクギンの社長という立場ですから、それを盛り上げないと、盛り返さないといけないという思いはあります。それと同時に自分が生まれ育った街ですから、そういう姿を見るのはやっぱり寂しいという個人的な感情ももちろんあります」

現在の商店街を冷静に見つめてそう話してくれた。ならば、どのようにして盛り上げていくのか。そのデザインマップを聞いてみた。

スタートアップの支援を

今後の商店街の展望を聞くと、阿部は大きくふたつの話をしてくれた。ひとつは商店街にある店舗が活気を取り戻すためにという話。もうひとつは、商店街を“ひとつの街”とした場合、どのような街をデザインしていくのかという話だ。まずは商店街の店舗が活気を取り戻すための取り組みについて。

「現在の状態から活気のある場所にするにはどうしたらいいかというのは本当に難しい命題です。これという答えはありません。あるのだとすればそれを続ければいいわけですから。ただし、だからといって、このままでいいというつもりは先ほども申し上げたようにまったくありません。じゃあどうすればいいんだという話ですよね。これが難しい……。ただひとつ言えるのは、抽象的な言い方になりますが、今のままでは終わらないというエネルギーを持ち続けるということ。先ほどお話した、時代の変化についていくことを放棄する、ではないですけど、もうだめだ、このままでいいという感じになってしまえば、本当にもうだめだと思います。常に前を向いて進むというエネルギーが活気を生むはずです」

今のままでは終わらないというエネルギー。いつだって本質は抽象的な言葉のなかにあるのかもしれない。そのエネルギーのなかからざまざまな方策が生まれていくのだ。その具体的な施策のひとつがスタートアップ支援。とくに小売や飲食店などの起業を後押ししていくものだ。

「商店街のなかや、隣接した地域に小売り店舗の起業にチャレンジできるスペースを作りたいと考えています。新しいお店を出したいと思っても、資金的な理由などでなかなか一歩が踏み出せない人たちはいるはずです。その一歩を後押しするするためのスペースです。シェアキッチンなども用意して飲食店起業のハードルも下げて新しいエネルギーを迎え入れたいと考えています」

新たなスタートには当然「今のままでは終わらないというエネルギー」が溢れているはずだ。シェアキッチンのほかにも小さなイベントスペースの設置も進めているという。新型コロナの影響もあり大きなイベントを催すのはなかなか難しい状況にあるというだけでなく、年に数回の大きなイベントに加えて、常に小さなイベントが行われているという状況を作ることで商店街に活気を取り戻そうという取り組みだ。鶴岡銀座商店街の中心部に位置する「まちづくりスタジオ鶴岡Dada」の運営もその試みのひとつだ。

「生活様式の変化という話が出ましたが、いまは“お店に行く”ということの価値が薄れてしまっている時代です。だから“お店に来ることに価値を持たせる”というのはひとつの解決策。ただ物を売るというだけではだめだと思うんです。それへの解決策のひとつが小さなイベントなのかもしれません。いつもそこは動いているからそのとき、その場所でないと出会えないものがある。そういうことに“来る価値”が生まれるのだと思います」

さまざまな人が入り乱れる街に

次は商店街の展望のもうひとつの話、商店街を“ひとつの街”としてデザインしていくということについて詳しく聞いてみた。まず前提としてどのような街を目指しているのかについて話をしてもらった。その答えは時間帯によって「さまざまな人が入り乱れる街」だという。女性が多い街。子どもがたくさん遊んでいる商店街。そういう“ある特定の姿”というのを目指すこともひとつの方策かもしれない。実際にそういう街づくりを目指し、例えば女性客を意識したカフェが多く並ぶようにまちづくりをしたりしているところもあるはずだ。だが、阿部の目指す商店街はそうではない。

「私が目指すのは、時間帯によってさまざまな人が入り乱れる街です。朝はもしかしたら通勤の人たちがたくさん歩いているかもしれない。昼は洋服を買いに来たり、夕飯の買い出しなどをするお母さんたちでいっぱいかもしれない。放課後になれば子どもたち、学生たちが溢れ、夜になればその日の仕事を終えて食事をするサラリーマンたちで賑わう。人の住む街というのは、そういうふうに一日の時間帯によって表情が変わると思うんです。だからこそ目指すのは“さまざまな人が入り乱れる街”なんです。

私たちカクギンは、新規店舗の誘致と簡単なコンサルティングもさせてもらっています。でも、どんなお店でもいいから商店街に参加してほしいという考えではやっていません。さまざまな人が入り乱れる街というのを実現するためにも、多種多様な業種のお店が必要だと思っていますし、実際にそういったお店に出店していただくようにしています」

同時並行的に定住の消費者を増やす取り組みも進行している。そのためにはやはり多種多様な業種の店が必要になる。そうして相乗効果が生まれ、人々の生活がある街が生まれるのだ。

「さきほどお話したイベントというのも、さまざまな人、というキーワードにつながるかもしれません」と阿部は話す。銀座商店街で行われるイベントでもっとも有名といっていいのが寒鱈まつりだ。山形のみならず全国から人が訪れるビッグイベントだ。歴史もあり、人気もあるイベントというのは、えてして膠着化しやすいものだ。毎年同じようなイベントになりがちで、新たな客層も増えないということにも往々としてある。

「そこに“さまざまな人に入り乱れてほしい”と思い、試しに宣伝用のチラシの製作を若い女性に頼んだんです。そうしたらやはり変化があったんです。お客さんの層が少し違うものになった。そこで自分たちで、人の誘導、イベントの誘導ができるんだと気づいたんです。こういう姿になってほしいと思えば、それに近づくことができる。イベントを活用して、街を行く人たちをデザインしていくこともできるのかもしれないと。ただしやはりそこには“さまざまな人”がいてほしい。そういう商店街を作っていければいいなと考えています」

鶴岡の生活を支えてきた銀座商店街。これまでさまざまな人が暮らし、さまざまな人が行き交ってきたはずだ。そこにはさまざまな思いがあったはず。その商店街が萎んでいくのはやはり寂しい。しかし新たなエネルギーをもって商店街を活気づける動きがある。これからどんな人が行き交い、どんな生活がいと名前、どんな思い出が生まれるのか。どんな街が生まれていくのか楽しみにしたい。