一貫生産、循環型生産体制がもたらした持続可能な畜産
食肉の中卸業、加工業として昭和54年(1979年)に「肉の大商」を設立。そこから数え40年以上の間、畜産業に携わってきた大商金山牧場。「元氣のみなもとをつくってます」をコーポレートメッセージとし、手頃で美味しい豚肉を食卓に届けることを目標としている。美味しいに加えて安心・安全な豚肉を安定的に供給する。それを可能にしているのが一貫生産体制だ。平成20年(2008年)、山形県最上郡金山町に自社牧場を設立。翌平成21年(2009年)からは、自社ブランド豚「米の娘ぶた」の販売を開始した。そこへ従来あったカット部門の食肉加工場に加え、パック工場を新設することで、飼育から加工まで国内でも例を見ない一貫体制をとることになった。さらに国際標準規格であるISO 22000を認証取得、豚肉トレーサビリティシステムを導入することによって、美味しいに加えて安心・安全な豚肉を安定的に供給することを可能にしたのだ。
大商金山牧場が掲げるもうひとつのキーワードが“循環型”だ。地元地域の循環で飼育生産を行っている。「例えば飼料を海外のものに頼っていては、それがストップしただけで豚肉の供給は止まってしまう。そういう状況は避けたい」と代表取締役社長の小野木重弥は話す。自社牧場では地元契約農家の生産した飼料用米を配合した餌を豚に与え、豚から排出される糞尿を堆肥化させて、田んぼや畑に還元する循環型の取り組みを行っている。さらに平成29年(2017年)よりバイオガスプラントを整備し、豚の糞尿や食品廃棄物などの有機ゴミを再利用したエネルギーを生産し売電も行っている。バイオガスプラントの併設は牛を中心とした大規模な酪農では見られることだが、豚の畜産では珍しいという。施設の建設やメンテナンスに関しても地元の会社と協力し、安価で安定的な方法を模索している。
循環の環と畜産の六次化
「金山町の自社牧場を設立してから循環型というものを実感しています」と話すのは取締役の村上文彦だ。
「バイオガスプラントを設立してからはさらに循環の環が広がったと思います。そのほかに私たちは畜産の六次化を目指すことで“元氣な社会づくり”にも貢献できればと考えています」 六次化の具体例のひとつが地元金山町で作った飲食店「米の娘家」だ。もともと米の娘ぶたと地元の食材を使った餃子の生産工場を設立したが、より身近な形で消費者に商品を届けるために飲食店を併設した。食肉の生産だけでなく、加工、流通販売まで手がけることで六次産業化を図り、そのなかで農畜連携、雇用の創出など地域の活性化にも貢献している。
そのチャレンジは社員のモチベーションにもつながっている。米の娘家の立ち上げに関わった伊藤隆太は「新しいことにチャレンジできるのは楽しい」と話してくれた。伊藤は山形大学の人文学部出身。営業職として入社したが、最初は肉のことは何もわからない状態だった。カット部門などの研修で肉の勉強を徹底的にしたあと、米の娘家の立ち上げに携わった。 「これまで当社では行ってこなかった飲食店という業態へのチャレンジは楽しかったです。かねやま餃子を提供するお店だったので、浜松に餃子の修行に行ったんです。まさか食肉生産の会社で餃子の店に修行に行くとは思っていませんでした。現在、米の娘家では酒田ラーメンを提供しているんですが、実は満月さんというラーメン店へ修行に行ったんです。そういうチャレンジが楽しいんです。いまおかげさまで好評をいただいて、餃子は生協さんでも販売をする予定です。もし可能なら、もっと人口の多い地域で出店してみたいと思っています。同じようには経営できないだろうし、新しいチャレンジとしてやってみたいです」
農畜連携で循環型の生産体制をとることで、肉の安定供給と地域との連携をはかる。さらに再生可能エネルギーの生産も含めて地域資源や地域の特性を活かし、持続可能な社会づくりに貢献をする。そして畜産の六次化を図り、インテグレーターとしての役割も果たしているのだ。
衛生環境の整備、働く環境の整備がもたらすもの
バイオガスプラント、循環型農業など畜産業としては新たな試みをしている大商金山牧場だが、立ち戻るのは原点の「美味しく安全な食肉を届ける」というところにある。先にも述べたが、ISOの取得、食肉トレーサビリティの導入など、衛生面、品質面にも配慮をしている。管理本部で品質管理の仕事をしている佐藤哲は「品質管理という業務の特質上、ここまででいいというものはありません。だから先ほどのチャレンジという話の流れで言えば、衛生、品質管理は常に上を向いてチャレンジをしていくという感覚はあります」と言う。しかもそのチャレンジはそこで働く“社員”のためでもあるという。
「衛生管理、品質管理というのは、消費者のみなさまに安全を届ける仕事です。それに加えて、消費期限のより長いいわばロングライフの商品作りにも寄与するものです。それは食品ロスを減らすとともに、業務のスケジュールのスリム化にもつながるので、結果的に社員がよりゆとりを持って仕事ができるという環境につながるものでもあるんです」
会社としても社員の働き方の見直しも行っている。実は会社としてのキャパシティを超える大きな仕事を断ったという過去もある。経営としては大きな痛手かもしれないが、「社員を優先したい」という想いから断ったという。今後、一部の機械化や社内システムの構築、改善により業務を効率化していくことを考えている。小野木はこう話す。 「会社や仕事の規模が大きくなれば、受発注の管理からすべて事務作業がどうしても大きくなる。そのほか、社内のコミュニケーションシステムや、現在部門ごとに組まれているシステムを横同士のコミュニケーションが円滑になるようにシステム構築を見直したい。二度手間、三度手間となっている部分を効率化できれば、働く社員としてもゆとりを持って働くことができると思います。システムの見直しは急務だと考えています」
また、休日の体系を見直したことだけでも「実感として社員のモチベーションがあがったのがわかった」と村上は言う。 「流通の都合上、カット事業部はこれまで隔週の水曜日と日曜日が決まった休みだったのですが、これだと例えば土曜日に子どもの行事に参加するといった場合には有給をとらないといけない。これを土曜日と日曜日の連続休みになんとか変えました。そうすると目に見える形で従業員のモチベーションがあがったんです。これからもそういう働き方の改革は推し進めていく予定です」
企業としての今後の展開は、和牛の一貫生産の開始のほか、B to Cの強化、バイオガスプラントの横展開、飲食店を中心にした海外展開といったことを話してくれた。「夢と挑戦」という創業者の精神を受け継ぎ、新たな試みを続ける大商金山牧場。美味しくて安全な食肉を届けるという想いの先には地域と連携した持続可能な社会が見えていた。