豊かな食を次の世代へ手渡すため、ともに地域を見つめ健やかな暮らしを支える。

株式会社主婦の店 代表取締役社長 大川 奈津子

パル、イズモ、ミーナなど、店舗ごとについた名前が特徴的な鶴岡市のスーパーマーケット「主婦の店」。食材の販売にとどまらない、「食」を切り口にしたさまざまな取り組みに込めた想いを、代表取締役社長の大川奈津子に聞いた。

1963年、まだスーパーマーケットで買い物をすることが一般的ではない時代に1号店をオープンし、以来鶴岡の人々の暮らしを支えてきた「主婦の店」。食料品だけでなく、時代のニーズに合わせてさまざまなものを提供してきた前身の「大川商店」時代も含めると、地域とともに歩んできたその歴史は100年を優に超える。

「新鮮で良いものをより安く、感謝を込めて地域社会に奉仕する」という社是のもと、ただものを売るだけではなく、地域に根ざしたスーパーマーケットだからこそできる取り組みにも力を入れている。

「地域のスーパーマーケットには食文化を伝承する役目があるという想いから、端午の節句の『笹巻き』や、大黒様のお歳夜の『黒豆ごはん』『田楽』『納豆汁』など、季節ごとの伝統的な行事食の販売には先代の頃より力を入れてきました。家族形態の変化などにより、かつてのように自分の家で一からつくられるご家庭は少なくなっていますので、これからも若い世代に引き継いでいけるよう、すぐに食べられる形で提供しています」

血となり肉となり生命を支え、子孫を残す力となる食べもの。それは「味だけではなく記憶として、どんなに時間が流れても受け継がれていくものだ」と大川は言う。伝統的な行事食を「昔ながらの味」で提供するのは、この土地の食べものを求める、「庄内人」としてはあたりまえの欲求に応えるためなのだ。

ものの売り買いを超え、ともに地域を見つめられる関係。

地域の人々の根底にある変わらない「ニーズ」を満たしながら、時代の流れに合わせ柔軟にスタイルを変化させられるのは、長く地域のために歩んできたお店だからこそ。じっくりと時間をかけて育まれてきたその関係は、「販売者」と「消費者」という枠組みを超えた広がりを見せている。
1つは、鶴岡市内にキャンパスがある山形大学農学部と連携して行う「スマート・テロワール(食料自給圏)」の取り組み。2016年4月、当時カルビー株式会社の相談役を勤めていた故・松尾雅彦氏の寄附講座として始まったプロジェクトで、畑作農家が飼料を、家畜農家が堆肥を互いに提供し合うことによる「畑作と畜産の連携」、生産から加工までを地元で行うことによる「農工一体」、地域内で販売・消費する「地産地消」により地域循環型の経済圏を目指すものだ。大学で飼育した「飼料まで地域産」が特徴の豚でつくったソーセージやハムなどの試食販売を、店頭で行ってもらっているのだという。
また、地域の野菜ソムリエさんによるミニ講座は、特に小さなお子さんのいるご家庭に人気だ。

「食に関心の高い若い世代のお父さんお母さんが、年々増えてきているように感じます。在来野菜など地域の食材のことを深く知り、その特徴を活かしたレシピを学ぶことができる内容は、食育的な要素もあり大変ご好評いただいています」

他分野の「力」とうまく連携をとり、「販売」という領域を超えてさまざまな地域のニーズに応えていく。これもやはり、長い時間をかけて育んできた信頼関係と、それを土台にしたニーズを読み取る力があってこそ可能なことだと言えるだろう。

異分野のキャリアを活かし、地域の健康を支えていく。

受け継がれてきた伝統、育まれてきた文化を、「食」を切り口に伝えてきた主婦の店。今後も事業を通じ地域の食の継承をサポートしながら、「『健康』に焦点を当てた取り組みにも力を入れていきたい」と大川は考えている。その想いは、彼女自身のキャリアからくるもののようだ。

「薬科大に進学し、卒業後は薬局や病院で勤務しました。その後、私の入社を機に医薬品関連事業がスタートし、当初は薬剤師として携わっていました。今は2足のワラジは履けませんが、最近『薬学』と『食』の根源的なつながりを感じられるようになってきて。漢方では『医食同源』といって、食べものが薬にもなると考えます。バランスのよい食事のために良質な食材と情報を提供し、地域のみなさまの健康な暮らしをサポートしていくことが、私がやるべきことなのではと考えるようになりました」

すでにスタートしている取り組みとして、山形県立米沢栄養大学との「適塩弁当」の共同開発、販売がある。「脳卒中の大きな要因となる高血圧の患者数が多い」「減塩への関心が低い」「食塩摂取量が高い」「減塩するための情報提供や環境づくりが不十分」「外食、惣菜、弁当の利用頻度の高い人は減塩が難しい」という課題を解決するため、県が同大学をはじめとしたさまざまな組織と連携して2015年度より行う「減塩プロジェクト」の一環だという。

「鶴岡や庄内地方だけでなく、視野を広げ地域との連携をはかり、私自身のキャリアを活かしつつ、スーパーマーケットとしてできる限り健康サポートに取り組んでいきたいと考えています。それが、地域社会の活性化になり、受け継がれた食文化を次の世代につないでいくためにも必要なことだと感じます」

「食を通じて地域の健康を支え『喜び』や『楽しさ』を届ける」。自らのキャリアを活かした新たな目標を掲げても、大川は決して浮き足立つことはない。それは、先代から受け継いだ「地域のお客さまの冷蔵庫代わりに役に立つ店」に磨きをかけ、レベルを引き上げていくことが、必要とされてきた役割を果たしつつ、新たな目標をも実現する道だと知っているからだ。

名称 株式会社主婦の店 代表取締役社長 大川 奈津子