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主役にはならない。気にせず使えて、いつもそこにあるものを目指して。

株式会社吉田段ボール / 段ボール製造オペレーター

インタビュー記事

更新日 : 2025年01月31日

ネットショップで商品を買うと、必ず段ボールに入って届けられる。段ボールは以前より私たちの生活に身近なものとなった。しかし、私たちは「この段ボールいいな」などと思うことはほとんどない。ただ「それでいい」と言うのは、今回話を伺った株式会社吉田段ボール。彼らの目指すものは、主役にはならないけれど、絶対に必要なものというものだった。

株式会社吉田段ボール 事業概要

1959年に設立され、60年以上の歴史を持つ会社。その名の通り梱包材として使用される段ボールの製造、販売を主な業務としている。山形県内におけるシェアは10%を超え、全国へ出荷される青果などの農作物の梱包材とともに、人気の高い山形ラーメンなどの加工食品業界の得意先が多いのも特徴。
県内の人口減少および就農人口の減少にともない、段ボールの使用量も下降していっているのが現状だが、最新のカッティングマシーンを導入し、より利用者の希望に沿った形に対応することや、納期も含めた発注に対する柔軟な対応で信頼を得ている。
また、梱包材としてだけではない段ボールの新しい可能性の開発も行っている。東日本大震災のときに、避難所へ防寒のために段ボールを無償提供したことに着想を得て、2024年には段ボールによるジョイントマットを開発、製造した。災害の避難所で組み立て・分解可能な布団代わりとして利用してもらうことを想定していたものだが、屋外イベントで来場者に座布団代わりに使用してもらった。実際に山形花火大会で配布し利用者から好評を得た。そのほかにも、おもちゃなどを作れないか開発が進んでいる。
梱包材として何も気にせずに使ってもらう段ボールを目指すとともに、従来の段ボールから発展し、新しい領域にもチャレンジしている。

お客様に「気にせず」使ってもらう段ボール

吉田段ボールは、創業から60年以上の歴史を持つ会社だ。段ボールは運搬コストがかかるため、全国的に出荷するということはほとんどない。吉田段ボールも村山地域を中心に、山形県内に段ボールを販売している。県内におけるシェアは10%を超え、主に青果や加工食品の梱包材として利用されている。

「私たちの扱う商品は、主役になるものではありません」と話すのは、株式会社吉田段ボールの代表取締役社長を務める吉田英二だ。
「我々の目指すところは、お客様が品質に疑問を感じることなく、普通に使っていただくこと。それが一番いい状況だと思っています。主役はもちろん梱包されている商品です。だからこそ、それを包む段ボールはお客様が気にされない品質を保たないといけないと考えています」と言う。

つながりが生み出すフットワークの軽さ

吉田段ボールは例えば全国的に人気のある山形ラーメンなどの加工食品を製造・販売するお客様も多い。そのため、形状や納期など様々な相談を受けることがある。それに対し吉田段ボールは柔軟に対応している。社長の吉田は吉田段ボールに入社する以前、大手の段ボール製造会社に勤めていた。大手と比較してその「フットワークの軽さ」は強みだと言う。
「大手は製造ラインなどが決まっており、生産ロットや納期がほぼ決まっています。だから小ロットや短納期への対応はなかなかしづらいというのが現状です。ただし、私たちは中小企業ですからそこへのフットワークは軽い。特に材料である段ボールシートについては当社に隣接している長いお付き合いのあるメーカーさんに融通をきかせてもらい極力お客様のご要望に応えられる体制を整えています極力お客様のご要望に応えられる体制を整えています」とあくまでもお客様第一の考えを話してくれた。

お客様にとってダンボールは商品の顔

営業もお客様のところへ行って、御用聞きをするだけでなく、形状も含め様々な提案をしているという。私たちは段ボールというと、モノを入れる四角い箱、というイメージがあるが、例えば果物がつぶれにくくなり生産者が箱詰めしやすい段ボールもある。言われてみれば「なるほど」と思うのだが、私たちはなかなか気づきづらいことかもしれない。今回話を聞いた工程管理部の伊藤智樹は「お客様からすれば出荷するときに使うもの、納品するときに使うものなので、お客様の商品の顔の一部ともいえるかもしれません。そのときによれよれの段ボールでは話にならないですよね。そういう責任を感じながら日々の仕事をしています」と言う。

営業部の金澤龍も「例えばスーパーなどで食品のコーナーに行くと、段ボールにも目が行ってしまいますね。あれはうちが作ったものだ、もっとこうしたらいいかもしれない、などと考えてしまいます。私たちはお客様に恵まれていると思いますね。地元に根付いた企業さまもお客様には多く、スーパーで考えたこと、感じたことなどを提案できたりなど、様々な発展的な話ができる環境なんです」と言う。主役ではないからこその責任を感じながら仕事をしているという。

社内改革と当事者意識を育むリーダー制度

吉田が社長に就任したのは2024年6月。そこから始めたのは、さまざまな社内改革だ。もともと社員同士のコミュニケーションは活発で意見交換も多かったが、それを体系化するためにリーダー制度を作った。各部署にリーダーを置き、現場の意見をより近いところで吸い上げる。そしてそれをリーダー会議で共有する。そうして全社的に業務改革、新規企画のタネをもれなく拾っていく形にした。リーダー制度の導入により、各部署では責任感と当事者意識が強まり、社員一人ひとりが自分たちの製造する段ボールの品質向上に対するこだわりを持つようになった。「自分たちが手がける製品は、お客様の商品イメージを左右する大切な要素である」という意識が社内全体に浸透しつつある。

また、60年という歴史を持つが故に機械の操作方法などのマニュアルも古くなってしまっていた。それを最新のものに作り替えていく作業も進行中だ。そうして作業を属人化させずに作業の効率化を進めている。伊藤は「入社前は工場というとちょっと怖いイメージもありましたが、まったくそんなことはありませんでしたね。当然最初は何もわからないので、例えばあれをとってきてくれと言われても、あれが何なのかわからなくて右往左往しましたが、厳しく言われることもなく丁寧に教えてくれました。そういう文化だったので、リーダー制もうまく浸透していると思います。私もリーダー会議に参加していますが現場からは要請を含め前向きな意見が出ることが多いと感じています」と話してくれた。

段ボールの新しい可能性を求めて

山形県は人口減少が続いている状況だ。それに伴い就農人口も減るなどし、生産量が減る。そうなれば当然、段ボールの使用量も減っていく。そのなかで、段ボールの新しい可能性を探っている。そのひとつの象徴がジョイントマットだ。最新のカッティングマシーンを導入し、裁断の自由度がかなりあがりCADで設計さえすれば、かなり精密なカットができる。そこで作られたのがジョイントマットだ。ジョイントマットというとウレタンのものが一般的だが、保温性の高さや廃棄のしやすさなど段ボールの特性が活かされている。
その着想はもともと東日本大震災のときにあるという。「市からの要請で大判の段ボールを無償提供したんです。何もなく寒い避難所での生活を段ボールの高い保温性で補うためです。そして2024年1月の能登半島地震のときに、もっと自由度高く使えるものが作れないかと考えてジョイントマットの開発を進めました。ジョイントマットなら大きさも形も自由にカスタマイズできるので、寝る時はベッドとして、昼間は分解して座布団として使うといったように、広くない避難所での生活にあったものとできるのではと思って作りました」と吉田は話してくれた。

伊藤は「ジョイントマットの発想を最初に聞いたときには、もうすでにウレタンのものがあるじゃんっていうのが正直な感想でした」と笑っていたが、「実際にいろいろ考え、さらに自身で使ってみるとすごく使いやすい。これは確かに避難所などでは有用だなと考えを改めさせられました」と言う。金澤は続けて「廃棄、リサイクルも簡単なので、避難所だけではなく、屋外のイベントなどでももっと使えると思います。実際に山形花火大会で来場者に配布したのですが、多くの方から好評をいただきました」と話してくれた。

「ジョイントマットよりも細かいもの、例えばジグソーパズルのような大きさ、細かさのものも現在の技術なら作れます。まだまだたくさんの可能性があると思います」と伊藤が言うと、金澤は「たしかに、そういったおもちゃもそうだし、いすのような家具もありかもしれませんね。コロナのときには、手指消毒のアルコールを設置するためのスタンドが段ボールでできないかと相談を受けました。まだまだ様々な形があると思います」と話してくれた。

私たちの生活にはかかせない段ボール。身近でありながら、その存在をあまり気にしたことのないものかもしれない。それは実は求められている状況なのだ。しかし、物を入れる梱包材としてだけでなく、ジョイントマットのように避難所の生活をサポートするなど、より私たちの生活に密着したものとなる可能性もあるのだ。