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漁業の楽しさと海の恵みを届ける

有限会社仁三郎 / 料理人

インタビュー記事

更新日 : 2024年12月26日

庄内の海とともに歩む有限会社仁三郎。漁業と旅館運営を通じて、獲れたての美味しさや漁業の魅力を広めるべく精力的に活動中。その取り組みに込められた思いを紐解く。

有限会社仁三郎 事業概要

有限会社仁三郎は、山形県鶴岡市を拠点に、漁業と海辺の宿泊施設「旅館仁三郎」を運営する企業。昭和63年の創業以来、定置網漁を中心に、季節ごとに多様な魚種を水揚げしている。旅館では、獲れたての新鮮な魚を使った料理を提供し、宿泊客に魚本来の美味しさと感動を届けている。
また、漁業体験プログラムをはじめとした活動を通じて、漁業の魅力を発信。庄内の海の豊かさを広めるとともに、漁業への関心を高める取り組みを積極的に行っている。

漁業と旅館の二刀流

有限会社仁三郎は、山形県鶴岡市を拠点に、漁業と海辺の宿泊施設「旅館仁三郎」を運営している。旅館は鶴岡市三瀬地区に位置し、冬には名物「波の花」が舞う岩場のすぐ近くに佇む。全客室から雄大な海を一望でき、日本海に沈む夕日の美しさは訪れる人々を魅了してやまない。
昭和63年の創業以来、定置網漁を中心に、年間を通じてマアジ、サクラマス、ヒラメ、ワラサ、サケなど、季節ごとに異なる魚種を水揚げしてきた。多い時には6~7トンもの漁獲量を誇る新鮮な魚は、旅館での料理に活用され、宿泊客に「獲れたての味」を提供している。都会から釣りや観光で訪れる人々にとって、仁三郎の旅館は「特別な魚料理を堪能できる場所」として、多くの支持を集めている。


漁業の魅力を全国へ。次の世代へ。

仁三郎では、一般の人々に漁業の現場を体験してもらうプログラムを提供している。この体験は、普段漁業に触れることのない人々にとって、漁業の魅力を間近で感じられる貴重な機会となっている。プログラムは早朝、漁師とともに定置網漁に出るところから始まり、網を引き上げる迫力満点の作業に参加できる。目の前で大量の魚が網から姿を現す瞬間は、ダイナミックで非日常的な感動を味わえる特別な体験だ。
続いて、昼には漁港での水揚げ作業が行われる。ここでは魚を種類や大きさごとに分ける作業が待っているが、これが意外にも時間と労力を要する。何十種類もの魚を一つ一つ選別し、大きさに応じて仕分ける作業は、漁業の緻密さとプロフェッショナルな技術を実感させる場面となる。
さらに、この地域ならではの特徴として、夕方には競りが行われる。体験者は、自分が関わった魚が競りにかけられ、買い手が付く様子を目の当たりにすることができる。この流れを通じて、魚が海から市場に届くまでの一連のプロセスを理解することができる。実際に、地域の学生が自由研究として「自分が関わった魚がどの家庭に届くか」を追跡した事例もあり、この体験が学びの機会としても活用されている。

漁業体験を一般に開放することは、安全管理や準備に多大な手間がかかり、リスクやコストも伴う。それでも仁三郎がこの取り組みを続けるのは、魚がどのように獲られ、流通しているのかを知ってほしいという強い思いがあるからだ。取締役の伊関敦は、「普段食卓に並ぶ魚も、多くの人の手によって成り立っていることを知ってほしい」と語る。また、「自分で取った魚を食べる経験はかけがえのない財産になりますし、何よりその美味しさは格別です」とも話す。

さらに、仁三郎では漁師という職業に興味を持つ人を増やしたいという思いも抱いている。そのため漁業体験プログラムだけでなく、自社HPやSNSを活用した情報発信にも力を入れている。公式サイトには、漁業体験中の躍動感あふれる写真や、定置網漁で獲れた魚を使った豪華な料理の写真が並ぶ。また、「今日の定置網ニュース」や「旬のお魚情報」など、地域外の人々にも庄内の海の恵みを伝えるコンテンツを掲載。これらの発信を通じ、県外からも多くの小学生を含む家族連れが体験に参加するようになり、時には海外からの参加者を迎えることもある。伊関はこう語る。「漁業を発信する漁師が少ない現状で、私たちが発信することで漁業の楽しさを知ってもらい、将来漁師になりたいと思う子が一人でも増えたら嬉しい。」漁業体験を通じて、次世代に漁業の魅力を伝える使命感が仁三郎を支えている。

海とともに歩む企業、仁三郎の挑戦

「旅館仁三郎」は、訪れる人々に新鮮な海の幸を堪能してもらう場を提供している。漁業体験で獲れた魚や、自身で釣った魚を旅館の料理人が丁寧に捌き、新鮮な状態で提供する。この体験を通じて宿泊者は、「食」の背景を実感するとともに、魚本来の美味しさに感動を覚える。また、全客室から望む日本海に沈む夕日などの美しい景色も、滞在を特別なものにしている。


一方、働く料理人にとっても仁三郎は特別な職場だ。市場を経由せず、その日に水揚げされたばかりの魚を扱える環境は他にない。抜群の鮮度だからこそ、魚本来の味わいを最大限に活かす料理が求められる。種類も豊富で、市場に出回らない珍しい魚を扱うこともあり、料理人にとっては新たな挑戦と創造の楽しさがあるという。伊関は、「その日の魚に合わせた工夫を楽しみながら、お客様に感動を届けてほしい」と語る。

また、「山形産のトビウオを使ったあごだし」など、元の魚を活かした加工品の開発にも取り組んでいる。この看板商品は、雑味の少ない純粋な出汁を追求し、素材本来の美味しさを届けるため、徹底したこだわりで作られている。こうした加工品の販売は、仁三郎の鮮度へのこだわりを形にしたものであり、地元の魚を活用した新たな価値を生み出している。

これからも、庄内の海と地域に根ざしながら、新しい挑戦を続ける仁三郎。その取り組みは、多くの人々に海と漁業の魅力を伝え、未来を共に創る仲間を育む場となるだろう。次世代へ繋がる漁業の未来を見据え、仁三郎はさらなる可能性を切り開いていく。