山形発、地下水の技術で世界をリードする
1962年に山形で創業した日本地下水開発株式会社(以下、JGD)。農村地域の井戸掘削からスタートしたこの会社は、現在では地下水熱を活用した環境技術で国内外にその名を知られる存在へと成長を遂げている。特に注目を集めているのが、地下水を循環させながら雪を融かす「無散水消雪システム」と、地下水熱を建物の冷暖房に利用する「帯水層蓄熱冷暖房システム」だ。これらの技術は再生可能エネルギーを活用しながら環境負荷を軽減し、地域の生活を支える画期的な取り組みとして広がりを見せている。
「無散水消雪システム」は、地下水の年間を通して15℃前後という安定した温度を利用し、冬場の雪を効率よく融かすシステムである。この技術は1981年に日本初の実証に成功し、現在では全国の積雪寒冷地域で広く普及しており、JGDは全国の5割以上の施工をしている。特に山形市では、道路や商店街、通勤通学路など、多くの場所でこのシステムが採用されている。地下水を循環させることで枯渇を防ぎつつ雪を融かすこの仕組みは、持続可能な設計が大きな特徴だ。
また、無散水消雪システムの研究開発と同時期に、地下水の持つ熱エネルギーを他にも何か生かせないだろうかと考えた結果生まれたのが「帯水層蓄熱冷暖房システム」だ。「1975年頃にオイルショックの影響で、中東から日本に油が入ってこなくなり、電気代は高騰し、資源がない日本は非常に厳しい状況になりました。そこで、石油などの代替となる省エネルギーのシステムが必要だと国で研究開発に予算をつけてくれたことをきっかけに、山形大学工学部の先生方と熱エネルギーを利用したシステムの共同研究に着手したのです」と語るのはJGD代表取締役の桂木聖彦だ。
このシステムでは、夏に地下水を冷房に使用する際に温まった水を地下に蓄え、冬にその温熱を暖房に利用する仕組みとなっている。地球温暖化対策として注目を集めており、現在は秋田大学やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携し、さらなる技術革新を進めている。
未来を見据えたビジョン:脱炭素社会の実現に向けて
JGDの活動は持続可能な社会の構築に直結している。2021年に完成した山形県初のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)棟はその象徴だ。この建物では「帯水層蓄熱冷暖房システム」や太陽光発電、高断熱構造などを活用し、建物全体のエネルギー収支をゼロにすることに成功している。ZEBの実証プロジェクトにより、積雪寒冷地域でも実現可能であることを証明した。
さらにJGDは、ヒートアイランド現象の緩和やCO2排出削減にも取り組んでいる。「地下水熱の活用」という独自技術を深化させ、地域冷暖房や融雪だけでなく都市全体のエネルギーインフラとしての展開も視野に入れている。
持続可能な技術を生む原動力:地域とともに歩むJGD
JGDの強みは技術力だけにとどまらない。その根底には創業者である桂木公平氏の「地域社会に貢献する」という理念が息づいている。創業当時、山形県の農村地域では水不足が深刻な課題だった。桂木公平氏は「井戸を掘る代金はお米が採れてからで良い」と農家に井戸を提供し、畑を水田へと転換。これにより、地域農業が大きく変わり、山形県全体の農業発展に寄与することになった。
また、山形県全35市町村の多くに温泉を掘削し、観光資源としての魅力を高める取り組みも行った。桂木氏の情熱と技術は地域住民の生活を豊かにするだけでなく、山形の地域価値を大きく向上させる結果を生み出した。
現在の代表取締役の桂木聖彦氏がこの理念を受け継ぎ、さらなる挑戦として、国内だけでなく海外にも活動の幅を広げている。
地域から世界へ:JGDの挑戦は続く
現在、JGDは国際協力にも力を入れている。中央アジアのタジキスタンでは地下水熱を活用した冷暖房プロジェクトを展開中だ。同国はエネルギー資源に乏しいが地下水は豊富であり、JGDの技術がその課題解決に貢献している。「我が社で培って来た技術と経験を生かし、事業を成功させたい。そして、現地の事業者に技術育成も行い持続可能なシステムを構築していきたい」と桂木代表は語る。
国内では「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、新たな技術開発を続けている。JGDの取り組みは、単なるエネルギー技術の提供を超え、地域生活を支える基盤作りや、地球規模の課題解決に貢献するものとなっている。
地域社会を支え、未来を創る技術。その可能性を追求し続ける日本地下水開発株式会社の挑戦に、これからも目が離せない。