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「ツクルで世界は変わる」

株式会社SHONAI / キッズドームソライ 施設運営スタッフ【パート・アルバイト】

インタビュー記事

更新日 : 2024年12月21日

地域の街づくり会社である株式会社SHONAIが運営する全天候型の児童教育施設「KIDS DOME SORAI(以下、ソライ)」。「夢中体験を通じて子どもの個性を育む」を教育理念とし、何かを教えるのではなく子どもたちが元来備えている能力を引き出すことを目指す。2021年6月より館長に就任した渡邉敦(写真中央)、児童館チーム/広報チームの若林美和(右)、児童館チームの南澤朋佳(左)に話を聞いた。

株式会社SHONAI 事業概要

2018年秋にオープンした全天候型の児童教育施設。施設名の「ソライ」は、「天性重視・個性伸長」を軸に掲げ、庄内藩校「致道館」で江戸時代に採用された徂徠学の考案者である荻生徂徠に由来する。木造のドーム状建物を設計したのは、2014年に建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞するなど、国内外で活躍する建築家の坂茂氏。高さ6mのオリジナル遊具が設置されたアソビバ、約1000種類の素材と3Dプリンターやレーザーカッターなども含む200種類の道具が揃うツクルバ、約800冊の本が楽しめるライブラリで構成される。 「遊び」を主軸に子どもたちの夢中体験をデザインし、人生の土台となる生きる力を育む環境づくりを目指している。2020年からは学童教育「SORAI放課後児童クラブ」を開始し、夏休みも含めて学童行事を組み込んだ年間スケジュールを実践する。また2021年6月より、中学生以上も利用できる「オトナのツクルバ」、衣類のアートリメイク体験ができる「SORAI WEAR(ソライウェア)」をスタート。年齢の境なく「夢中」になる時間を楽しみながら「ないものはつくる」「個性を伸ばす」文化の醸成を目指す。



 

自分でやってみようという気持ちを育む

「ソライ」では、遊ぶ子どもたちに対して、大人のスタッフが何かを禁止することは人を傷つけたり、命に関わるようなことをしたりする場面以外にはあまりない。そもそも、何かを禁止する注意書きが非常に少ない。自分でできそうなことだと思えば、できるだけチャレンジしてもらう。子どもの発想を押さえつけることなく、好奇心と自発性をもっていろいろなことに取り組める環境を目指しているからだ。これまでに中国の深圳でSTEAM教育やMaker教育に携わり、香港では在住法人子女向けの教育事業に10年以上従事した経験を持つ館長の渡邉は、子どもたちの好奇心と自発性を伸ばすために大切なのは、「きっかけづくり」だと説明する。

「自由にどうぞと言われても、初めて来た子どもは、そう簡単には動けません。大人もやはりそうだと思います。本来は自由な発想に任せて楽しんでもらいたいのですが、どうしても発想が浮かばない子どものきっかけとして、『せっけいず』を設置しています。子どもの自由な発想をできるだけ阻害せずに、自分で選択して自分でやってみようという気持ちになるようなきっかけを与えることを我々は心がけています。子どもの自由な発想を大事にする。親や大人が邪魔をせず、自分で判断し、決断する機会を増やして自発性を伸ばしていくことを目指しています」

 

自由に遊ぶことができて、自由にものづくりができる。そこにコミュニケーションの広がりを生み出す取り組みのひとつが、毎週金曜日に行っている「アソビバミーティング」だ。2020年からスタートした学童教育「SORAI放課後児童クラブ」の参加児童を中心に、子どもたちが遊びを企画し、何時何分にどこに集まるかを決めたら自ら放送で呼びかけ、興味をもった子どもたちが集まって一緒に遊び始める。ソライに通い慣れた学童の子どもたちとビジターの子どもたちの垣根が消え、遊びを通してコミュニケーションが生まれていく。

「子どもがよりよく育つ環境には『三間(さんま)』が重要と言われています。時間、空間、仲間という3つの間を指すのですが、現代の子どもたちにはその三間が足りないと言われています。遊ぶ時間が足りない、遊ぶ空間が足りない、一緒に遊ぶ仲間が足りない。ソライに来たら、それを解消することができます。時間と空間は、来てもらった時点で解消されていますね。そして仲間。私たちは子どもたちとの関わり方をとても大事にしています。

ひとりブラジル出身のジェロというメンバーがスタッフにいるのですが、彼は子どもたちへの接し方がすごく上手で、親子で滑れる滑り台に立って股の間を滑らせる遊びをやっていたら、いろんな子どもたちが集まってきて子ども同士で遊び始めるような、そんな光景をよく目にします。我々の働きかけによって、そこにいる子どもたちが友だちになって遊べるようになるのがひとつの理想だと思っています」


この6月からは、衣類のアートリメイクを楽しめる「SORAI WEAR(ソライウェア)」と、中学生以上もものづくりを楽しめる「オトナのツクルバ」がスタートするなど、年齢の境もなくして「夢中体験」を共有できるようになる。教育の場として進化を続けるソライで働くことの魅力を次のように語る。

「館長に就任し、まず子どもとの関わり方をコンセプトとして改めて整理しています。、教えるのではなく問う、ルールや制限を極力設けない、失敗をポジティブに変えていくなど、これまでメンバーひとりひとりが大切にしてきたことを言語化する中で、ソライは施設のハード面を評価されがちなのですが、教育の理念・哲学も本当に価値のある教育施設だと実感しています。ここでは、メンバーひとりひとりのアイディアや想いから、既存の価値観に縛られない教育の場をつくっていけます。その制約は限りなく少ない。自分たちが思う教育の理想を追求できる場だと思っています」

現場で子どもたちから感じるポジティブな未来のイメージについて、今後厚みを増すコンテンツについて、あるいはソライで働くことのやりがいについて、児童館チーム/広報チームの若林美和と児童館チームの南澤朋佳にも加わってもらい話を聞いた。

子どもたちの自発性にハッとさせられる毎日

—ソライで働き始めた経緯をお聞かせください。

渡邉:私はずっと教育現場で働いてきましたが、中国を後にして庄内に来ることを決めたとき、日本で受験と関わらずに教育に携わるのは難しいイメージがあったので、まずは地域のことを知り、地域にどのように貢献できるかを考えました。それでヤマガタデザインのことを知り、真摯に街づくりに取り組む会社だと思って興味を持ち、応募しました。当時の人事総務部門でバックオフィスの一員として働き始めグループ全体の業務に携わりながら、いずれソライに関われたらと考えていたところ、社長の山中から声がかかって館長に就任したのがこの6月です。

—ご出身はどちらですか?

渡邉:私は山形市出身で妻が庄内出身で、庄内の自然の中で子どもと家族みんなで暮らしたいと思い、こちらで暮らすことを決めました。

—若林さんと南澤さんはいかがでしょうか。

若林:私は鶴岡出身で、関東で幼稚園教諭として働いていました。10年ぐらい前には、オーストラリアに2年半ほど行っていて、向こうでも幼稚園で働いたり、ベビーシッティングなどもしていました。関東からUターンしたのは、出産のタイミングです。実家に戻ってくるたびに自然も豊かですごくいい環境だけど、でも関東と比べて刺激が足りないとも思っていたんですね。だけど、ないものをどんどん作っているヤマガタデザインという会社があることを知り、すごく興味を持ちました。調べてみるとソライという施設も運営していて、徂徠学の個性伸長などを大事にしていたり、子どもの自由な発想の半歩先を進んで手伝っていくような姿勢に魅力を感じましたし、私は教育関係の仕事をしていたので応募しました。

南澤:私は高校までずっとバレーボールに打ち込んでいたため、高3で引退した時に将来を考えることができませんでした。当時、「〇〇になりたい!」という具体的な夢を見つけることができなかったものの、幼い頃から外国に興味があり、国際関係が学べる日本の大学に入学しました。大学時代にアメリカで短期留学に行ったことがきっかけでアメリカの大学に再入学し、さまざまなことを勉強しました。しかし、新型コロナの影響で2020年の3月に戻ってくることになり、地元に貢献できる仕事はないかと思いハローワークを訪れました。そこでソライと出会い、徂徠学の教育理念に基づき、子どもの個性を伸ばす教育に共感しました。教育施設だけでなくホテル事業や農業事業などにも力を入れているSHONAIに大変興味が湧き、子どもたちがひとつでも多くの経験を通して将来の進路を選択できるように自分が力になれたらと思い、応募しました。

—現在担当されている業務内容についてお聞かせください。

若林:アソビバとツクルバで子どもたちを見ることと、企画を担当しています。子どもたちにいろいろな場を作ってあげたいというのがソライに入った動機でもあるので、子どもたちがこんなのに夢中になるんじゃないかなと考えて、「アート」「サイエンス」「エンジニアリング」の3つの柱を中心に「せっけいず」を考案したり、ワークショップの企画をしています。子どもたちの発想がすごく自由なので、子どもたちから学ぶこともとても多いです。

南澤:私は何も経験がなかったので、受付業務から始まって、アソビバやツクルバで子どもたちを見て、あと学童にも携わっています。子どもたちから教えてもらえることも本当に多いですし、子ども一人一人の個性を学んでいけるようになってきたと感じています。

—積極性が出てきた子どもたちから学べることがある、というのは魅力的な職場環境だと思います。

若林:この前も、学童の子たちが外で遊んでいるのを見ていたら虫を捕まえた子がいて、そうしたらみんながすぐにツクルバに戻ってきたんです。ひとりが棒と袋を探して虫網を作り始めたら、別の子もマネして、「ここが弱いからワイヤー入れよう」とか「カゴも作ろう」とか、みんながコミュニケーションを取りながらアイデアが展開していくのが見えて、すごくいいなと思いました。何かがないから買うのではなく、どうするか考えて、作ってみる。そういう文化がどんどんできていることを感じます。

渡邉:やっぱり学童に来ている子は、ここの環境にも慣れて、なんでも使ってなんでも作ろうとなっています。何かをやろうとしたら、それを遮らずに自由にできる環境を作ってあげるのが私たちの仕事だと思っています。今年に入って学童の受け入れ人数も倍に増えているので、ビジターで来る子との垣根を取り除いていけるようにしたいですね。

—子どもと接する上では、やはり自由な発想を潰さないことが大前提ですね。

渡邉:何かしようとしていたら、危ないことだったら止めるべきですけど、頭ごなしにダメと言わず、本人に考えさせることが大事だと思っています。

若林:そうですね。虫を捕まえた子がツクルバに虫を連れてきたら「連れてきちゃダメ」と言ったらそれで終わりですけど、「連れてきて何をしたいの?」「ツクルバでどうしたいの?」と聞くとそこから会話が始まります。例えば蝶々を手に持っていたら、「鱗粉が取れて飛べなくなっちゃわないかな?」とか、最終的にその蝶々をどうしたいのかその子に考えてもらえれば、自分で考えて決めることを学べるんじゃないかと思っています。

南澤:ここではエンジニアリングのワークショップとか、アートやものづくりに触れられる機会も多いので、子どもたちがいろいろな経験をし、いろいろな経験を持つ大人と接することで視野も広がっていくと思うんです。子ども同士での刺激も生まれていますし、いつもツクルバで遊んでいる子が、友だちに誘われてアソビバに行って違う楽しみを見つけたり、外で虫取りをしている子を見たらそれをマネしたくなったり、ソライは子どもたちにとってすごくいい場だなと感じています。

 

—隣に「スイデンテラス」があったり、「NEWGREEN」のような農業部門があることも、子どもの視野を広げることにつながりますね。

南澤:農業に触れたことがない子どもも増えてきていますが、庄内の土地で株式会社SHONAIだからこそ畑で土に触れられる機会が作れると思いますし、そこには自分も携わっていきたいと思っています。

若林:衣類をアートリメイクする「ソライウェア」というプログラムが6月から始まりましたが、それも、スイデンテラスに泊まった人が巾着とかをもらえるので、そこにソライでペイントとかできたらいいね、というのが始まりでした。じゃあ、ただ何か描くだけではなく、いろいろな柄とか模様の意味を調べようとなって、例えば『鬼滅の刃』で流行ったネズコ柄と言われる模様は、本当は麻の葉模様という名前があって、麻の葉は強いから子どもの成長を願って使われたとか、そういうことも学べるのは面白いですよね。

—そこから巾着だけではなく、服やバッグもリメイクできるようにアイデアが展開したんですね。

若林:自分の服にワンポイントを足したり、リメイクして愛着を持って好きになってもらうという発想から始まって、じゃあゼロから作れたらもっと楽しいよねとなって、東北芸工大のテキスタイルの先生に話を聞きにも行きました。洗濯しても落ちない染料やシルクスクリーンの版を揃えたり、Tシャツとバッグを用意して子どもたちがオリジナルで自分の好きな虫の絵を描けば服で自己主張にもなりますし、子どもたちが喜んでいますね。

渡邉:どうしても量販店で買った同じ服を着ている子が多いので、「ソライウェア」で自分の個性をそのまま服にして、身にまとえるのはいいですよね。それと、同じ時期に「オトナのツクルバ」もスタートしたのですが、ソライに初めて親子で来たとすると、子どもは一瞬何していいか分からなくて戸惑っていたところ、子どもではなく大人がものづくりを楽しみ始めて、それを見ていた子どもも動き出す瞬間があるんですね。もともとソライのツクルバでは、大人に道具を使って何かを作ることを推奨してはいなかったのですが、大人が熱中するとそこに子どもが巻き込まれていくこともありますし、大人に夢中体験を提供することも意義あることだなと思って、この企画もスタートしました。

 

—地域や社会との繋がりはどうなっているのでしょう。

渡邉:ソライのビジネスとしては、児童館と学童だけでなく、サポーター企業からの協賛、さらに電力の販売取次を行う事業の「ソライでんき」も大事な役割を担っています。契約していただいた皆さまからいただく電気料金の一部が、ソライの活動に還元される仕組みになっているので、電気料金を通して地域の方々に教育に参加していただくことができます。それともうひとつ、地域とのつながりという意味では、ツクルバで用意している素材も、地域の企業が使用しなくなった端材や冊子などをご提供いただいたものです。それらの素材を「発明のモト」というネーミングを付けて、利用者が自由に利用できるようにしています。企業にとって利用価値はなくなっても、子どもたちにとっては、まさに「発明のモト」ですから。

若林:今年の夏にはスイデンテラスにソライルームという部屋が1室できます。子連れのお客さまが宿泊できる部屋で、ソライで楽しんだ気持ちをそのままホテルに持ち帰って、ホテルでも楽しんでいただけるプランなので、特に初めてソライを訪れたお客さまは、最初から最後までソライ尽くしで過ごせます。家庭では買うのをためらうような贅沢な木の素材のオモチャで遊んだり、ソライオリジナルのキットで工作したりと、夢中になれる環境を用意しています。

渡邉:ソライでは、夢中体験を通じて子どもたちのあらゆる力が伸びていくと考えています。宿泊施設であるスイデンテラスや農業部門のNEWGREENなどのグループ会社と連動し、地域教育を拡充することも街づくり会社だからこそ可能だと思っています。

子どもの自発性や好奇心を尊重し、元来備えている天性を伸ばすことを教育の核と考えるソライ。自由な発想で遊び、学ぶ子どもたちからもインスピレーションを受け止め、理想の教育を追求する場として、ソライ自身とソライで働くメンバーたちは、この先ずっと変化と進化を繰り返していくのだろう。