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町工場から経営者を生み出す

田村技研工業株式会社 / マシンオペレーター

インタビュー記事

更新日 : 2024年11月21日

田村技研工業は金属の精密部品を加工する会社。QCDをあげていくことを心がけているが、それは常にお客様目線。何を求めているかを考えることで、サプライチェーンという立場でのQCDを生み出している。また、会社のミッションとして、さらに視野を広げたものづくりのみらいも見据えている。そのミッションとはどんなものなのか。

田村技研工業株式会社 事業概要

1989年設立。半導体装置や工作機械、食品機械などの商業用機械に使われる金属精密部品の加工、組立を行う。最新テクノロジーを融合させた図面管理システム、製造進捗管理システムを運用し、「迅速な対応」「臨機応変な対応」「廉価な対応」を提供。高いQCD(品質、コスト、デリバリー)が機械製造メーカーから高い評価を得ている。
 2022年に田村昌樹氏が代表取締役に就任し、新たに会社のビジョンを制定。特に「共に成長する」というところにスポットがあてられ、新たな技術や分野にも積極的にチャレンジするなど、会社とともに社員の成長を促す試みを実践している。また、生産技術継承とともに、経営視点で仕事を見ることを進めており、社内から製造業を担う経営者を輩出したいとしている。そうすることで、製造業の未来を明るいものにしたいと考えている。

1つうえのQCD

 製造業でよく聞かれる言葉が「QCD」。Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字を並べたものだ。製造業には欠かすことのできない最も重要な要素であることは間違いない。どの会社もQCDの精度アップを心がけているだろう。ということは、そこに何らかの差をつけて独自性を出していきたいと考えることもあるはずだ。
 金属の精密部品を加工する田村技研工業は、QCDにプラスアルファすることを目標としている。代表取締役の田村昌樹はこう話す。
「私たちは例えばクオリティに関して、100年安定品質を提供するということを掲げています。また、コストに関しても、WinWinコストとして、ただ安く作りますというだけの価格提供はしないようにしています」

その裏側には、サプライチェーンの1つとして自社が存在するという自覚がある。1つのものづくりをしていくなかで、「安定した部品供給」ができなければ流れはそこで止まってしまう。価格も同じだ。いくら安く作るといっても、会社が立ちいかなくなるような値段ではいつか破綻がきてしまう。それをきちんと自覚して、安定供給のできる工場や仕組みづくり、適正価格での提供を目指している。精密部品を作る技術の継承、技術力の向上はもちろんだが、もうひとつ広い視野、つまり「ものづくり」という観点で自分たちの仕事をとらえるからこそできる、もう1つうえのQCDといえるのではないだろうか。

 現在営業部で働く阿部晴佳は「納期の部分では、クイックレスポンスを心がけています。やはり納期でお困りのお客様も多く、短納期品で話ができると『助かった。また次もよろしくね』といっていただけることがあります」と話す。それとともに仕事のなかで、会社のいうサプライチェーンとしての自覚も生まれるという。「仕事の流れの中で協力会社さんにお願いするということも営業部で行っています。そのやりとりのなかで、ひるがえって、品質、コスト、納期ということがいかに大事か感じることがあります。そして、協力会社さんが抜けてしまうと仕事が成り立たないということを考えると、私たちは部品製造メーカーでありながら、さまざまな会社と連携して1つのものをつくっているんだという感覚を持つことも多くあります」と話してくれた。

ものづくりとひとづくり

 また、オペレートグループのマネジメントを行っている石川裕太は製造現場の観点から「QCDは常に中心にあります」という。「マネジメントという立場でいえば、例えば品質を向上させるための対策書においては技術だけでなく、雰囲気も重要視しています。やはりチームでやっていることなので、働く環境は重要だと感じています」
 また、QCDの話に続いて石川が会社のミッションについて話をしてくれた。「新しく制定された会社の理念として3つのミッションがあるのですが、そのなかの1つにひとづくりというものがあったんです。それがうれしかった」

田村技研工業では、田村昌樹が代表取締役に就任した2022年から新たに会社のミッションを定めた。石川のいう3つの文言とは「ものづくり、ひとづくり、みらいづくり」というものだ。それぞれのミッションは、ビジョン(理想)として以下のように紐解かれる。
ものづくり「手に職を! から両手に職を!」
ひとづくり「仕事の中に成長を実感できる日本一の町工場!」
みらいづくり「日本のものづくりの光を陰からささえる!」

 田村はこのビジョンについてこう話す。
「両手に職をというのは、技術の幅を広げて新たな可能性を広げていきたいという思いからつけました。私たちの仕事では、ともすると1つのことを極めるという職人気質に寄ってしまうこともあります。そうではなく、加工も溶接も組み立てもできるというように、できることの幅が広がれば、当然新しい可能性は生まれてくると思う。それで『両手に職を』という言葉をつけました」
 また、ひとづくりに関して、日本一と掲げることによって、目の前のものづくりに必要なスキルだけでなく、ものづくりトータルで考える力やスキルを、身に付けていってほしいという。
 石川はそれに対して「会社とともに、自分もステップアップしたいというのは働く人間のうそのない気持ちだと思います。研修制度など、ここ数年で始まった制度もたくさんあります。昔はいわゆる町工場的なところ、例えば背中を見て覚えろみたいなところもありましたが、どんどん刷新されていると感じています」と言う。
 もちろん新しいことへの不安もあるが、それよりもチャレンジの楽しさ、よりいいところを見つけることの楽しさでやりがいが大きくなっていると話してくれた。

町工場から経営者が生まれ続ける未来へ

「このものづくりとひとづくりの両輪を回していくことでみらいづくりをしたいというのが私たちの想いです」と田村は言う。
「私は社会人になってからずっと製造業で働いてきたので、ニュースなどで日本のものづくりが陰ってきたと言われると寂しい。そのときに、私たちの立場として何ができるか。それはメーカーが求めているものに対して応え続けていくことです。ただし、うちの会社だけではそれはできません。私たちと同じように部品を加工している会社ははじめ、サプライチェーンすべてがその方向に行かないといけない。しかし、継承問題など経営者が減ってきているという問題もあります。そうなると経営者を作っていくしかない。それがわたしたちのミッションにあるみらいづくりなのです」
 そうしてビジョンにあるように業界全体を「ささえていく」というのが理想だと話してくれた。このみらいづくりに、阿部、石川のふたりも共感している。阿部は「会社のミッションとして、経営者を作りたいというのは珍しいと思います。それは視野の広さともいえるのではないかと思います。わたしもぜひチャレンジしたいと思っています。言葉は壮大になりますが、わたしも未来を作っていける人になりたいなと思っています」と話してくれた。
 石川もミッションに共感したうえで「マネジメントという立場、そして部下を育成するという場面でも、自分自身成長している最中です。いまの仕事そのものが、経営者を目指すという行為につながるともいえるので、なかなか難しいことだと思いますがいろいろ考えてチャレンジしたい」と話してくれた。

今回のインタビューで感じたのは、田村技研は自社だけでなく社会全体や社員のことまで本気で考えて、共に成長することを大切にしているということだ。会社が生き抜くことも当然必要だ。そのうえでサプライチェーンとしてものづくりに関わり共に生き抜くための、もう1つうえのQCD。そして社員と共に成長する。さらに、ミッションの3つめにある「みらいづくり」は「ものづくりの世界が成長していく」ための理念だ。田村技研工業は「社会・社員と共に生きて共に成長するを体現している会社だった。
10年後に、田村技研工業を卒業した人材が、地域の製造業を支える一助になっているかもしれない。そう思わせてくれる取材であった。