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持続可能な「おいしい」を目指して。

株式会社平田牧場 / 養豚業務スタッフ

インタビュー記事

更新日 : 2023年12月27日

「平田牧場金華豚」と「平田牧場三元豚」。庄内のみならず、全国で注目を浴びているブランド豚だ。その理由は一言「おいしい」から。ただし、その裏には安心で安全なものを安定的に供給するという想いがある。今回は、おいしくて安全、持続可能な食を目指す平田牧場で働く3人に話を聞いた

株式会社平田牧場 事業概要

1953年に庄内で2頭の豚を飼育するところから始まった平田牧場。1964年に食肉直売所を開設したことで創業し、1967年に株式会社平田牧場が設立された。1953年から数えて現在まで70年近い歴史を歩んできた。 1971年に無添加ポークウインナーの販売を開始するなど、いち早く「安心で安全、そしておいしい食」へ目を向けて事業を展開してきた。また「平田牧場金華豚」と「平田牧場三元豚」という全国でも有名となったブランド豚を育てるなどおいしさと安心への研究を続け、2頭から始まった事業は現在20万頭の規模にまで成長した。また、養豚のみではなく、食肉加工や直営飲食店の展開など、さまざまな形で食を提供している。 SDGsが注目される以前から、持続可能な食を目指して、「飼料用米プロジェクト」や「有機畜産」などさまざまな試みを続けてきた。今後も再生可能エネルギーまで含めた、資源循環に取り組み持続可能な社会の実現に向けてプロジェクトを進めていく。

おいしいとともに、安心、安全を届けたい

1964年の創業から変わらぬ想いは「いちばん丁寧にいのちと向き合うブランドになろう」というもの。いのちを扱う会社だから、手間をかけて丁寧にすべての仕事を手掛ける。そして毎日の食卓を通じて、お客様に健康で安心な生活を提供する。これは一貫して変わることのない想いだ。

「新型コロナウイルス感染症の流行以降、私たちの生活は変わりました。平田牧場はそれに対応していかないといけないと思います。
 そう話すのは代表取締役の新田嘉七だ。

「新型コロナウイルス関連のことについて逐一対応していくのはもちろんのこととして、このコロナ禍でわかったことは、『いつ何が起こるかわからない』ということです。だから、これまでよりもさらに、持続可能な社会の実現を意識することになりました」

SDGsというのは、世界がこれからも持続可能(サステナブル)なものであるための開発目標だ。この言葉が一般的になったのは、2015年の国連サミットで採択されてからのことだろう。しかし、すでに平田牧場では1997年から始まった、飼料用米プロジェクトでその持続可能な社会に向けた取り組みをスタートしていた。

米を飼料として利用するこのプロジェクトは、日本の低い食料自給力を向上させるモデルとして全国から注目を集めている。飼料用米の生産は、日本の優れた米作りと農地を守ることにもつながり、減反田が有効活用されることで農家に活力が生まれるという循環も生んでいる。そのほかにも、再生可能エネルギーを積極的に、畜産や加工工場の電力として利用するという取り組みもしており、持続可能な社会の実現に向けた活動を長年続けてきたのだ。

おいしいが入社の動機

このように書くと、何やら難しいことのようにも思えるが、平田牧場は食卓に並ぶ豚肉を作る会社だ。だから、「おいしい」が一番の看板だ。「平田牧場金華豚」と「平田牧場三元豚」の2大ブランド豚を代表に、山形県内はもちろん、全国でその味は高い評価を受けている。また、地元の庄内地域だけでなく東京都内にも飲食店を複数経営しており高い人気を集めている。

その味に魅かれて転職を決めたのが、現在加工部となっている平牧工房でカイゼン室の室長として働く北野裕稔だ。

「とんや酒田店で初めて平田牧場金華豚のカツを食べた時に、あまりに美味しくてまさに『感動』してしまったんです。それで、冊子などを読み漁りこの豚肉について調べた所、酒田に食のリーディングカンパニーともいえる平田牧場という会社があることを知りました」と当時の感動を思い出しながら話してくれた。

北野は福岡県の出身。九州で設備エンジニアとして働いていたが、出張で来た庄内の豊かな自然や食に感動して移住をした。移住後は、前職の経験を活かし、半導体関係の会社に勤め設備保全などの仕事をしていた。そんなとき出会ったのがこの「おいしい」という感動だった。

「ぜひこの感動に携わりたいと思ってしまったんです」というが、その当時北野は40歳になろうかというところだった。まったく違う職種に飛び込む。それまでのキャリアとは関係ない仕事に飛び込むことに不安はなかったのだろうか。

「そういうのは、すべて吹っ飛んでしまいましたね。実はそれまで食にはまったく無頓着。それで人生を損していたんじゃないかと思えるぐらいの感動だったんです。だからすぐに直接本部に問い合わせをして、面接をしてもらいました」

そのとき正式な募集は出ていなかったそうだが、結果的にタイミングがよく、経験を活かせる仕事があり採用が決まった。「おいしい」が入社の動機、しかもそれまでの職種とはまったく関係ない場所に飛び込む動機となる。それが「おいしい」の魅力なのだ。

「私はいま、カイゼン室というところで、どうすればより効率的に高品質なものを作っていくことができるかという仕事をしています。また、スタッフの安全推進も仕事のひとつです。そういう形で『おいしい』に関われているのは、すごくうれしいですね」と北野は話す。

おいしいを可視化する

「私は秋田の出身で、酒田にはよく遊びに来ていました。そのときにいろいろなところで、平田牧場の豚肉を食べていたので、そのおいしさは学生のころから知っていました」と話すのは、2020年に新入社員として入社した金崎美奈だ。

秋田県立大学を卒業するときに就職先として平田牧場を選んだ理由は「日本の自給率をあげる」というコンセプトに共感したことだという。

「大学では植物や苔などの研究をしていたので、現在の仕事とはあまり関係がないものでした。でも就職活動の当時、いま思うとたまたまだと思うのですが、自給自足というキーワードが頭にあって、そんな中、平田牧場の循環型農業への取り組みを知ったんです。それで応募を決めました」

いま、金崎は生産本部研究開発の部署で働いている。豚の飼育、おもに子豚の担当をしている。子豚がいかにバランスよく栄養をとることができるかということを、品質の向上のために実地も含めて研究している。

いずれは、入社当時にきっかけとなった「飼料用米」についての仕事をしたいという。

「米で育った豚とそうでない豚との違いをより可視化したいと思っています。そこに更にどんな付加価値がつけられるか。きちんと説明して、おいしさ、安全性、健康への影響を知ってもらって、お客様に選んでいただけるようにしたいです」と話してくれた。

まだ入社2年目、新鮮な気持ちで仕事に取り組んでいるという金崎に人生の価値観を聞いてみると「新しいことにチャレンジし続けること」と楽しそうに答えてくれた。知らないことはもったいない、自分の中で色んな経験を積みたい、その先には自分自身の視野が広がり更に多くの世界が見えてくるからだと話してくれた。

「そういった思いに当社は応えやすい」と、チャレンジという言葉に反応して話をしてくれたのは総務人事課の郷守武志だ。「彼女のように多くのチャレンジをしたい方にとって、生産(養豚)から食肉製造、産直販売、外食・小売までトータルで事業を持つ当社は面白い会社だと思いますし、やる気のある方に会社としてどう答え続けるか、というのはとても大事なテーマです」と答えてくれた。

山形のよさを全国へ

郷守は関東からUターンで平田牧場に入社。

「私は2度のUターンを経験しているんです。出身は庄内。大学で関東へ行き、そのまま関東で就職しました。そこで地元から送られてくる、だだちゃ豆やさくらんぼなどを職場の仲間に食べてもらったら『おいしい!』と言ってくれたんです。しかも社交辞令でなく本音の感想でした。それまでは、地元の食べ物なんてあまり意識していませんでしたが、こんなに喜んでもらえるものがあるんだと、外に出て初めて気がついたんです」

7年ほどして一度目のUターン。その時に、地元の在来作物を育てる活動に参加したそう。それがきっかけになり、東京で山形の物産品を販売する会社へ転職することになる。山形の食の魅力をもっと日本中に伝えたい、と思っての決断だった。東京では、山形の食材などをPRする仕事を経験し、再度Uターンで庄内に戻ってきた。

「東京で山形を紹介するなかで、平田牧場のおいしさ、取り組みの素晴らしさを再発見したんです。私は地元ですから、そのおいしさは知っているつもりでした。しかし、知れば知るほど素晴らしいと思いました。山形のことを紹介する中でこれからも『食』に関する仕事を続けたいと考えるようになったので、二度目のUターン後は平田牧場に就職しました」

郷守は「大学生などの若いころは、可能性は東京にしかないと思っていましたね」と笑う。だが、二度のUターンを経験し、いまは山形の食に可能性を感じていると話してくれた。現在は総務人事として、スタッフが仕事しやすい環境づくりをすることが主な仕事だが、最近はSDGs関連で再生可能エネルギーの対応など突発的な業務も増えているという。だが、社会がどのように動き、何を要請しているのかを知ることのできるチャンスでもあるから、個人的には楽しんで、突発的な仕事、新しい業務にも向かい合っているという。

「SDGsが注目される以前から取り組んできた飼料用米プロジェクト、そして再生可能エネルギーの活用を通して地域の発展に寄与できればと思っています。飼料用米を食べて育った豚の糞は完熟堆肥にして水田の肥料に活用してもらっていますが、この他にも地域の生産者と広く連携して、独自の自給・循環に取り組んでいます。こうした取り組みを外に向けてPRすることで、観光・移住などの人の流れが活性化すると良いですね」

おいしさが感動を生む。北野の入社動機にもなった「感動」という言葉。2019年までは、会社の経営理念としてまさにその言葉が使われていた。「感動創造企業」それがひとつの経営理念だったのだ。「その言葉はすごく素敵だと思っています。まさに自分が感動した人間のひとりですから。これからもより多くの人においしさという感動を届けられたらうれしいです」と北野は言う。

現在、経営理念は「健康創造企業」というものに変わっているが、郷守は「それはより具体的になっただけ」と話す。「北野がいち消費者として感じてくれたおいしいという感動はもちろんこれからも追い続けます。ただ、感動にはさまざま理由があると思うんです。そのなかで、プラス健康というふうにより具体的に目指すところを明確にしたというだと思います。逆に健康じゃないと感動できないということだってありますし。食と健康は密接につながっていて、それを提供していくことでおいしさに感動してもらえたらうれしいです」

入社時からすでに健康創造企業が経営理念だった金崎はふたりに対してこのように話す。

「私はもともと、平田牧場の食品は、健康を意識したイメージを持っていました。無添加の加工品を作ったり、豚に対してもそう。だから目指すところと理念が合致している感じです。でも、いま感動創造企業という言葉を聞いて、それもすごくいいなと思いました。郷守のいうように、それらは別々のものではありません。おいしい、健康、安全、それはすべてつながって、私たちの生活を豊かにしてくれるのではないでしょうか」

おいしいが生む感動。安心、安全、そして健康が生む笑顔。持続可能なで豊かな社会は、食を取り巻く環境からも創り出すことができるのかもしれない。