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地域医療連携を通して、地域を共に創る

日本海総合病院 / 医師

インタビュー記事

更新日 : 2024年10月18日

救急、急性期に対応する病院として、庄内地域の基幹病院としての役割を担う日本海総合病院。人口減少などの地方が抱える問題に直面しながら、地方医療に取り組む病院に必要なものは何か。そのキーワードに「人々のつながり」と「医療DX」があった。庄内地域の未来を見据えて前に進み続ける日本海総合病院を深掘りして見ていきたい。

日本海総合病院 事業概要

1993年に山形県立日本海病院として開設。2008年に市立酒田病院と統合再編。法人名称を「地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構」とし、病院名称を「日本海総合病院」と定めた。現在27診療科を持ち、庄内地域における三次救急・専門医療を担う急性期病院として庄内地域の基幹病院の役割を担っている。いち早くPET(陽電子放出断層撮影)センターを開設してがん治療にあたっているほか、手術支援ロボットを導入するなど、最先端の医療を取り入れて、地域住民の治療にあたっている。  地域医療連携にも積極的で、2004年に地域医療連携室を病院内に設置。他機関と連携を始め、2018年には酒田市内の9法人(2022年9月現在13法人・団体)が参画する地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」を立ち上げ、中心となって運営にあたっている。また、施設間、医療従事者間で患者情報を共有する「ちょうかいネット」を運営する庄内医療情報ネットワーク協議会事務局も病院内に設置。より迅速でスムーズ、そして安全な医療を提供する体制づくりを進めている。

 

高度な最先端医療を提供

 日本海総合病院は、もともと1993年に山形県立日本海病院として設立された病院。1997年に災害拠点病院に指定、2004年にへき地医療拠点病院に指定されるなど、地域を支える基幹病院としての役割を担ってきた。そのなかで、酒田市立酒田病院の改築が市議会、市行政のなかで検討され、2008年に統合再編。日本海総合病院として再スタートを切った。山形県と酒田市を設置者として、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構がその運営にあたっている。

 庄内地域における、三次救急・専門医療を担う急性期病院として、2011年に庄内初の救命救急センターを開設。また、最先端医療へも積極的に取り組み、PET(陽電子放出断層撮影)センターを開設し、全身のがん細胞の有無、その状態などを診断できるPET/CTを庄内で初めて導入した。そのほかにも最新鋭の天井つり下げ型放射線透視装置と万能手術台を配備したハイブリッド手術室を整備し、高度で低侵襲な手術を可能とした。地域の基幹病院として高度な最先端医療を提供している。

 ただし、地域の基幹病院としての役割はそれだけではない。日本海総合病院は基本理念として次の3つの文言を掲げている。「安心、信頼、高度な医療提供」「保健、医療、福祉の地域連携」「地域に貢献する病院経営」。「安心、信頼、高度な医療提供」とは先に述べた通り医療施設、体制としての進化を指す。では、残りの2つはどうか。

「保健、医療、福祉の地域連携」について、理事長の島貫隆夫は「地域医療は、病院などの単体ではなく、さまざまなところで連携し、面で対応していくことが大事」と語る。

「庄内に住む人々の生活のなかの医療において、地域で完結できるような体制が必要となります。私たちは主に救急、急性期を担当していますが、それだけではなく慢性期医療を担当する機関、人々と連携をしながら運営しています」

 日本海総合病院は、県立日本海病院時代の2004年に地域医療連携窓口、その翌年に地域医療室を設置するなど、早い段階から地域医療に取り組んでいる。そして現在は病院内に地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」推進室を置き、地域医療の連携を進めている。

 地域医療連携推進法人とは、2017年に始まった医療連携推進業務を行う一般社団法人制度。この制度は合併や吸収といった形ではなく、各機関が独立性を保ったまま、例えば薬の共同購入、病床の融通といった連携ができる。人的連携もその1つだ。庄内地域だけではないが、地方の抱える大きな問題の1つが人材不足。日本海ヘルスケアネット内でも、人材不足にあえぐ病院、クリニックに対して医師や看護師などを出向させて、医療体制の安定化を図っている。

 それともう1つ地域医療連携で注目すべきは「ちょうかいネット」の存在だ。ちょうかいネットとは、医療機関の間でネットを介して患者の医療情報を共有するシステム。血液検査の結果やレントゲン、CTの画像情報などが異なる医療機関で共有でき、また薬の処方履歴も共有できることで、的確かつ迅速な診察、治療が行えるというもの。これは庄内地域全体で使えるもので、職種も医師に限らず、看護師、薬剤師、介護分野のケアマネージャーなども利用することができる。その運営母体となる協議会事務局が日本海総合病院内にあり、運営にあたっている。

庄内地域の基幹病院としての役割

 そして「地域に貢献する病院経営」。島貫は庄内地域全体を見渡して、次のように指摘する。

「庄内は2040年には人口が19万人を切ると言われています。そのときに必要なことは何か。これは医療従事者であるかどうかに関わらず、地域のプレイヤーみんなで議論していく必要があります」

 まず、病院単体としての立場で挙げてくれたのが、病院をダウンサイジングしていくこと。人口が減少していくなかで、いまあるインフラを維持し、加えて最先端の医療を取り入れていくのは難しい。経営ができなくなり破綻するという結果を招くことにもなりかねない。「そのため、病院としてはダウンサイジングしていくのは宿命です。そのなかで、地域全体の医療レベルを下げないようにするためには、病院単体で考えていてはどうにもなりません。医療資源の少ない地方だからこそ、地域がつながって面で支えていくことが必要なのです」と、最初に話してくれたことを再度強調した。

 人口における年齢比率が変われば、必要となる医療も変わってくる。それらを見据えながら、さまざまな可能性を模索する。患者数が減少するなかで、病院同士が競争するような状態になってしまえば、医療は崩壊してしまうのだ。そんな未来を招くことのないように、病院そのものはダウンサイジングしてでも、地域連携をすることで医療レベルを下げず、地域住民に必要な医療を提供する体制づくりに日本海総合病院は取り組んでいるのだ。

 ここで島貫は1つのキーワードを提示する。

「地域医療のレベルを維持し、安定化させるためには、地域連携というのは最重要項目です。それはまず人のつながりが必要。それに加えて今後は『データの活用』が必須になってきます」

 日本海ヘルスケアネットを中心に、医療施設、医療従事者といったリアルでのつながりを構築する。そしてちょうかいネットにより「データがつながる」ことで、よりスムーズで的確な治療に役立てる。それに加えて「データの活用」が必要だと言う。病院などの施設で集まったデータ。それをつなげて得ることのできる、地域医療全体のデータ。これらの膨大なデータにアクセスできるようにするだけでなく、データ分析を行い、医療行為の改善や地域に必要な医療体制などの未来像を描く。いわば「医療DX」が必要となると言う。

 人とのつながり、医療DX。これをキーとして「安心、信頼、高度な医療提供」「保健、医療、福祉の地域連携」「地域に貢献する病院経営」という3つはつながり、実現されるのだ。

院内にはホスピタルアートとして、至る所に絵画や写真が飾られているのも特徴

 

競争よりも協調が合言葉

 では、現場ではこれらの言葉をどのように受け止め、どのように行動をしているのだろうか。今回は、日本海ヘルスケアネット推進室、入退院支援センター、医療福祉相談係、病院改革推進室という4つの部署で働く人に来ていただき、その想いを聞いた。

「保健、医療、福祉の地域連携」で話をした、日本海ヘルスケアネットをその推進室にて運営している矢野剛は「日本海ヘルスケアネットは、いま13法人・団体が参画しています。病院だけでなく、例えば特別養護老人ホームといった介護施設、そして医師会、歯科医師会、薬剤師会も参画しています。そうして人々の『日常』に必要なところまで連携をして、地域に安心と安定を届けたいと考えています」と説明してくれた。

 現在13法人・団体が参加して連携を進めているそうだ。また、全国に30ほどある地域医療連携推進法人のなかでも高い評価を得ており、全国から医療関係者が視察に訪れることもよくあるという。うまくいっている理由は何かと聞くと、矢野は「人が協力的なこと」と答える。「競争よりも協調が合言葉なのですが、それが自然とできている。だから、みんなが全体最適という1つの方向を目指して連携できているのだと思います」と話してくれた。

 その連携が形だけではなく、現場でどう生きているか。まさにその現場で働く医療福祉相談係の本間真臣は「地域医療に携わる施設や人、みんなが助け合っているというのは実感として持っています」と言う。

「例えば退院時に病床や治療体制をほかの施設に事前に相談できる。もちろん逆に相談されることもしばしばです。以前、宮城の病院で仕事をしていたときは、正直なところ病院間、施設間が競争していると感じることもありました。それがここではほとんどなく、地域全体で医療に取り組んでいると感じています」

 入退院支援センターの池田久美も同様に感じているという。「例えば日本海総合病院に入院する人がいるとします。その人がどのような生活をこれまでしていたか。そして退院後どのような生活をするか。これはとても重要なことなのです。元々介護が必要だった人かどうか。これから定期的なリハビリが必要かどうか。医療やケアは途切れてはいけない。だからそういった情報を施設間で共有できるのはとても大事なことだと感じています」

 病院は病気やケガを治すところ。しかし、患者にはそれより前にも後にも「生活」がある。それをケアするためには、やはり地域全体で医療体制を提供するということが必要なのだ。本間は「池田の言うように、人々の生活に寄り添うのが医療、介護、福祉です。これから年齢層など人々が変わっていけば、生活が変わる。生活が変われば必要なものが変わるはずです。だから行政の仕組みにとらわれずに、その時々に必要な地域連携の仕組みを考えていければと思っています」と話してくれた。

 

医療データが創る未来

「地域に貢献する病院経営」。このキーワードに深くかかわる仕事をしているのが、病院改革推進室で働く新楯直己だ。現在、ちょうかいネットを主軸に施設間、医療従事者間で連携が進んでいるが、その中でデータを活用するためのICT化を進めており、新楯はその中心にいる。「その作業のなかで、膨大なデータが蓄積されていきます。そのデータを未来予測、それに付随する改善提案などといった形で有効活用できれば、なお有益だと思います」。新楯はもともとSEとして働いていた経験を持つ。関東からUターンした際にも、最初はSE、プログラマーの職を探していたという。

 

「実は職自体はけっこうありました。ただ元々、地域のために働きたいという公務員志向があり、大学も地域行政に関することを学んでいたので公務員も見ていたところ、偶然に『病院』というのを見つけて。そこで何となく、調べてみたらシステム関連の仕事もあるということがわかって。じゃあ、新しい分野だけどやってみようとなり応募しました」

 新楯はその経験を活かして、現在病院のデータを活用するためのデータマネジメントを主に手掛けている。そのなかで「データ活用」というキーワードを聞いてみた。

「医師や看護師などが、治療のためのデータを整えるというのは当然データ活用の1つですが、それとともに例えばある病院の長けているところ、もしくは弱いところ、というのも見えてきます。その改善のためのデータをまとめて、提案をするということもしています」

 例えば、1つの治療のために、仮に日本海総合病院では3日必要であり、しかも結果も良好。しかし、別の病院では7日ほどかかるといったことだ。そのエビデンスデータを整え、医療や経営改善のためのデータをそろえて改善案を提案する。そうすることで、医療レベルがあがり、ひいては経営も良くなり、結果的に地域医療の進化にまでつながっている。また、そうしたデータから、地域の医療に必要なもの、言ってみれば地域の医療の未来予想図も見えてくる。そのためには地域としてどのような動きをとるべきなのかといったことを描き出していくことになる。いわば「医療DX」だ。DXはICTとは違う。膨大なデータをまとめ、いつでも利用できるようにする。煩雑な技術の必要なく、簡単に使うことができる。それだけではDXにはならない。DXはそのデータを使って新たな価値を創出することだ。まさにそれがいま求められているのである。

 日本海総合病院の雰囲気についても聞いてみた。矢野は「日本海総合病院は部署を超えた連携ができているという実感があります」という。本間も「病院間、施設間での連携も大事ですが、病院内での連携も間違いなく必要です。私は社会福祉士の資格を持っていて、その立場から患者さんを見ていますが、医師や看護師、それから院内事務、それぞれと話をする機会は多くあります。こちらの意見もきちんと聞いてくれ、連携できているという感じがしています」と話してくれた。インタビュー中も、1つのキーワードが出ると、4人それぞれが言葉を重ねるように発し、発展的な会話が繰り返されていた。それぞれの立場から、それぞれの意見を出し、それが1つにまとまっていく。病院内での発展的な会話を聞いたようなインタビューだった。

 最後に新楯は「日本海総合病院は経営陣が高い視座で地域医療をけん引してくれているからこそ、みんなが同じ方向を見ることができているという感じがします」と話してくれた。池田はそれに加えて「経営陣というと、遠い存在のようにも聞こえますが、とても親しみやすい方たちです。だからこそ新楯の言うように、病院の見ている方向に納得し、私たちも同じ方向を見ることができるのだと思います」と話してくれた。

 庄内地域の医療を力強くけん引するリーダーである日本海総合病院は、さらに大きな視座で、地域全体で助け合いながら、人々の豊かで安全な生活を創り出すことを常に考えているのだ。そのために人がつながり、情報がつながる。そのつながった先に、地方の未来を見ているのだ。