住んだことのない地域で、未経験の仕事をしたい
今回取材に応じたのは、ともに大学卒業後に富山県以外での社会人生活を経て、Iターン、Uターンで転職し、富山市で働くことを決めた2人だ。
鈴木は茨城県出身。東京の大学を卒業後、そのまま都内の動画配信サービスなどを提供する企業に就職した。営業企画などの業務を10年ほど担当した後、あるプロジェクトがひと段落したのを機に、今後のことを考え始めた。「自分の知らないところにいって、これまでの経験を活用しながら新しいことを始めてみるのも面白いのではないか…」。

さまざまな選択肢や可能性を探る中で、妻の故郷である富山県の企業に転職する方向を見いだした。そこで見つけ出したのが朝日印刷の中途採用の募集だった。製造業という点でも興味があったし、特定分野に特化して、そのトップシェアを占めることで、安定した経営基盤を維持できているという事業展開に面白さを感じた。
しかし、募集要項を見てハッと気付く。募集していたのは人事職だった。まったくの未経験職で、これまでの職歴を十分に活かせるという確信はもてなかった。
それでも、一度決めた決意は揺るがなかった。「知らない場所で、やったことがないことに取り組むことも面白いのではないか」。高まった挑戦心と好奇心が入社への気持ち強く後押しした。
戻って気付く富山の素晴らしさ、上海から移住決意
一方、富山市出身の江端は東京の観光系学部のある大学に進学後、留学先だった米国の大学を卒業。その後、昔から興味があったという中国で不動産投資コンサルタント会社に就職した。上海で、日本企業の駐在員向けの不動産仲介や、日本人向けの投資物件を紹介するなどの業務を担当。上海で知り合った現地の男性と結婚し、約9年間勤務した後、子育てのため富山に戻ってきたという珍しい経歴を持つ。

「子育てのために1年間休職して富山に戻ってきました。ですが、1年間期間限定だと考えて、欲張って富山県内の色々な場所を巡るうちにその素晴らしさに気付いてしまい、定住しようと決めました」
休職していた上海の会社をそのまま退職し、富山に移住。夫は上海に残り現地での仕事を続けたが、幸い富山と上海を結ぶ直行便の飛行機があったことで、定期的に家族で会うことはできた。地元での生活に戻る中で、住んでいた家の近所の小さな会社で短時間業務の仕事に就き、徐々に子育てしながらも働ける生活にシフトしていった。
そして、子供がある程度成長したことを機に、再びフルタイムで働きたい思いが募り、企業を探し始めた。そこで、偶然、中途採用の応募を見つけたのが朝日印刷だった。
ただ、募集していたのは、鈴木と同様、全く経験のない社長室での業務。経営に関する開示資料作成など経営戦略立案のサポートに携わるという仕事内容だったが、「何とかできるだろう」という根拠のない自信が勝った。そして面接に臨み、「最初に対応してくれた人の印象がすごくよく、入社しようと決めました」
社員の要望かなえる難しさがやりがいに
「山が近い」
住んだことのない富山での生活を始めた鈴木が、この街で最初に感じた印象だ。天気や気温、季節によって姿を変えて聳える立山連峰に心を奪われた。「茨城県にはそれほど高い山がなかったけれど、富山は市街地にいても、海にいても、山にいても、どこにいても山が見える。見え方が毎日違って、面白いなと思いますし、見え方は違っていても、いつもきれいだな!と思います」
富山での生活にはすぐに慣れたが、新たに就いた人事という職場では四苦八苦することも多かった。
「人事への要望には社員からの要望もあります。もちろん、その要望をしっかりかなえるべく、人事制度などの見直しを図るわけですが、調べてみると実現するのが現実的じゃないと分かることも多いです。要望はかなえられないと回答せざるをえないときは、やはりもどかしさは感じます」。鈴木は人事改革の難しさを吐露する。
それでも、難産の末に制度化できた人事改革もある。そのひとつが、2年前に導入した地域限定総合職だ。
これまで朝日印刷は、製造職と事務職以外は原則、全国転勤があった。しかし、地元に残って子育てや介護にも従事しなければならない、転勤を希望しない社員も一定数いた。そうした社員の要望実現に向けて導入したのが、転勤を望まない社員が希望する地域で働き続けられる地域限定総合職だ。
「転勤を好まない世代からの要望はかなりあって、ニーズのある制度を作り上げることができたと思います。価値観が多様化し、働きがいも大切ですが、同じく大切なのは働きやすさ。これをいかにして実現していくか。やりがいはあります」。未経験ながらも、ひとつの形として制度を作り上げられたことに、鈴木は達成感と充実感を強く実感する。
「社員からの要望をかなえられたときはすごくうれしいですね。その人の自己実現や夢を助けてあげることなんだと思ったときは、仕事のやりがいを感じられます」と鈴木。「他社がまねしたいと思えるような画期的な人事制度を実現したい。この働き方って朝日印刷だからこそできる働き方だねと、多くの社員に喜んでもらいたいですね」。人事の仕事を通して育まれた「利他の心」が、社員の働く意欲を刺激している。
時間を有効に使える働き方制度に感謝
鈴木ら人事部の制度改革に、子育て中の江端も大きな恩恵を受けているという。
「フレックス勤務という制度にすごく助けられています。午前10時から午後3時までのコアタイムでの仕事を満たせば、午後3時以降は早めに仕事を切り上げられるんです。不足した分は、月単位で労働時間を調整できるという制度で、ちょっと子供を病院に連れて行かなければいけないときや、銀行や市役所に行かなきゃいけないってなったときに時間を調整できるので、本当に助かっていますね」
そんな江端は、今年7月に社長室から分離される形で新設された経営管理部コーポレート課で働いている。中途入社して1年が経過し、上場企業として義務付けられている情報開示業務などに精を出す。
「具体的には、会社法や金商法に準じた書類を作成し、開示をしています。そのほかにも、株主や投資家に対して企業の経営・財務状況などの情報を提供するIR業務も行っています。経営管理にフォーカスした役割を担っているといえます」
中途入社後の1年目は、「とにかくミスないように仕事をしっかり覚えることを重視した」と振り返る。今後は、「チームで達成できるような何か新しいプロジェクトに携わったり、いろんな部署と横断的にチームとしてやっていくことに関わりたい」と意欲を燃やす。
対談、「ここが富山のいいところ」
県外、海外での生活を経て、富山での生きがいを発見した2人。人事部部長の西田良弘も交えて、改めて富山で生活する魅力をテーマに対談してもらった。

鈴木「東京では電車で基本的に移動をしていたので、遠出をしようとするとお金がかかるところがあり、行動範囲が限定されがちでした。富山県で生活していると基本的に車の移動で、自分の行きたいところにすぐに行けるなと思いましたね」
西田「東京は駐車場代も高いからね」
江端「ただ、雪が降ると大変。数年前は本当にひどい雪で生活が大変でした。東京から来た人が富山でスノータイヤを着用せずに車を運転しているのを見ましたが、本当に危険です。冬場はスノータイヤは必須だと伝えたい」
西田「江端さんは改めて富山に帰ってきて印象は変わった?」
江端「18歳まで住んでいたころと比べるとかなり印象は違いますね。開発が進み、市電が南北と東西に走り、環状線もでき、本当に便利なコンパクトシティになりました。夫の両親が富山を訪れた際には、『スイスみたいにきれいな街だ』って驚いていましたよ。上海では毎日、満員の地下鉄で通勤していて、本当にストレスを感じていました。富山での生活ではそれが改善されて、本当にQOL(生活の質)がすごく上がったと感じますね」
西田「一度富山を出て、戻ってくれば違うように感じますね。昔は価値を感じていなかったものに価値を感じられる。私も18歳で一度富山を出るまでは、何もない田舎だと思っていましたが、戻ってくると水がおいしい、魚がおいしいと感じられるようになった。富山、いいところですよね」
江端「海外から日本に戻ってくると、物価が安いうえに質も伴っていると強く感じます。モノやサービス全般的にそうですが、例えば、朝日印刷が製造するパッケージでも、開け口の表示があったり、簡単に折りたたむことができたりと、使いやすいよう工夫を追求している。日本人の優しさ、お客さまに対する気遣い、いかにお客さまを満足させるか、そういうところにつながっていると思います」
鈴木「私は滑川の駅前にある入浴施設が好きなんですよ。立山連峰や富山湾を一望できて最高です。下のフロアには軽く運動できるスペースもあるので、汗をかいたあとに、そのまま風呂とサウナを堪能できる。富山に来てから風呂に目覚めましたね」
西田「渋いところ好きだね(笑)」
鈴木「やはり車移動が中心になると、どこにでも行きたくなるという考えになりましたね。このラーメン屋がうまそうだと思ったらすぐに行ける。東京だと、この一杯のためにわざわざ電車を乗り継いで移動して、さらに店頭で並ぶとなると、なかなか足が向かない」
江端「夏はキャンプや海、冬はスキーといったアウトドアな生活は上海ではしていませんでしたし、できなかったですね。富山だからこそできることはすごくいっぱいあると思う。夫は富山で風呂とサウナに目覚めましたね。私よりも通っています(笑)。上海には日本のように衛生状態が整った大衆浴場があまりなかったので…」
西田「2人とも富山を巡りまくっているね」
鈴木「小さい美術館や博物館なども結構ありますよ。散居村ミュージアムや立山にあるカルデラ砂防博物館とか。つい足を運びたくなってしまう」
西田「(富山市水橋に)世界一かわいい美術館というのもあるよね」
鈴木「できるだけローカルなところから攻めてやるという意気込みで行っていますよ」
江端「そういう場所はどのように調べていますか」
鈴木「インターネットでも探しますし、周囲の口コミなども参考にします。何気なく通ったところで見つけて、とりあえず行ってみようというのもありますね。先週は岩瀬浜の灯台に登ってきましたよ」
西田「店構えとか看板がちょっと気になって、その時は入れなくても、次の機会に狙い撃ちで行ってみようとなるよね」
鈴木「私、まだ(立山黒部アルペンルートにある)『雪の大谷』に行けてないんですよ」
江端「ぜひ、行ってみてください。雪が降る前の秋のシーズンも、きれいですよ。(自家用車は使えず)バスでしか行けないのですけれど、ものすごい道がクネクネ曲がっていて、道中は酔いますけど(笑)」
求められるコミュニケーションとプロフェッショナル意識
最後に、朝日印刷で働く社員に求める人材像について鈴木に聞いた。

「パッケージは商品の顔です。それはお客さまのお仕事の中の大切な一部を預からせていただいている意識がある。お客さまのニーズをいかに引き出すか、パッケージを形にしていく工程では、営業、企画開発、技術、製造など幅広い部門が協力していかなければいけない」と強調する。そのうえで、「そうした仕事で最も大事なのはコミュニケーションです。コミュニケーションを大切にし、かつ、お客さまの商品の顔となるものを作っているんだ!というプロフェッショナル意識を大切にしてもらえる人材に来てほしい」と訴えている。
