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富山の伝統産業を世界へ発信する鋳物メーカー

株式会社能作 / 直営店販売スタッフ(パート)

インタビュー記事

更新日 : 2024年06月27日

「人と、地域と、能作」

 

能作は最高の製品やサービスをお客様にお届けすることはもちろん、永年にわたり受け継がれてきた高岡銅器の伝統や職人技術、その背景にある想いを伝える取り組みにも情熱を注いでいる企業だ。

正に人と地域に支えられており、これからもさまざまな事業を通じ、お客様や地域の皆様に幸せと豊かさを提供していくと意気込む。

 

今回は、本社FACTORY SHOPで店長を務める女性社員に、能作の職場環境や仕事のやりがい、そして“働くこと”について伺った。

 

石田 春香さん 入社5年目(中途)

 

2018年 株式会社能作 入社(パート勤務)

2021年 株式会社能作 正社員として雇用、本社FACTORY SHOP 店長 就任

 

子どもは小学生の息子が1人。子育てと仕事の両立をはかる。

株式会社能作 事業概要

1916年、富山県高岡市で創業。

 

高岡は1609年、加賀藩主の前田利長が“高岡”の町を開いたことを機に、“商工業の町”として発展を遂げる。開町から2年後の1611年、前田利長は現在の金屋町に7人の鋳物師(いもじ)を招き鋳物工場を開設。これが、今では国の伝統的工芸品に指定されている「高岡銅器」の長い歴史の始まりとなる。以来400年以上経った現在も、高岡は銅合金鋳物の産地として日本一のシェアを誇り、仏具、茶道具からブロンズ像、巨大な釣鐘など、日本で作られる銅器の90%がここ高岡で作られている。

 

能作は創業以来、高岡の鋳物づくりの歴史を受け継ぎ、下請けメーカーとして仏具や茶道具を中心に製造を続けてきた。

 

その後、2001年に自社ブランド「能作」を立ち上げ、自社ブランド第1号製品の真鍮製「ベル」を発売。のちにニューヨーク近代美術館(MoMA)の販売品に認定される。

 

2003年には錫(すず)という金属素材に着目し、世界初「錫100%」の鋳物製造を開始した。手で自由に曲げたり引っ張ったりして形を変えて使える「KAGO」シリーズが大ヒットし、世界的に注目される伝統工芸ブランドとして成長。錫100%製のテーブルウェアは、国内外の星付きレストランで使用されている。

 

職人技術をもって引き出される素材本来の美しさや特性。それらを生かしたデザイン性の高いインテリア用品やテーブルウェア、医療部品等を通じて、国の伝統的工芸品に指定される「高岡銅器」の魅力を伝え続けている。

また、職人から職人へと受け継がれてきた高度な技術や知恵を次の世代へと継承するべく、素材・技術研究や製品開発に取り組んでいるほか、伝統技術や文化、職人の精神を広く知らせる産業観光事業に注力している。

 

2017年に新設した工場兼社屋は、グッドデザイン賞や日本サインデザイン賞大賞など数々のデザイン賞を受賞している。ここでは、来館者は工場見学や鋳物製作体験、カフェレストランなどを通じて、能作や高岡銅器について五感で体感できる。

 

さらには、主力製品の錫にちなんで2019年に錫婚式事業を開始。現在では、錫婚式文化を日本に広めるため、全国の式場やホテルと連携し、富山県以外での錫婚式もプロデュースしている。

 

2020年には、台湾に子会社「能作貴稀金屬股份有限公司」を設立。ブランドコンセプトストア『能作台灣品牌概念店』をオープンさせ、台湾市場へ能作ブランドのみならず富山の魅力を広めるとともに、日本の伝統的職人技術を台湾から世界へ向けて発信している。

 

<主な受賞歴>

2008年:経済産業省「元気なモノ作り中小企業300社」に認定

2011年:「第1回『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞」審査員特別賞受賞

2012年:日本鋳造工学会「第1回Castings of the Year賞」受賞

2013年:「第5回ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞

2016年:能作克治が藍綬褒章を受章
2016年:「第1回三井ゴールデン匠賞」グランプリ受賞

2017年:本社工場が「第51回日本サインデザイン賞」大賞受賞

2018年:本社工場が日本インテリアデザイナー協会「JID AWARD 2018」大賞受賞

2019年:本社工場がグッドデザイン賞受賞
2019年:「第13回産業観光まちづくり大賞」経済産業大臣賞受賞

2021年:「ヘバーデンリング」がグッドデザイン賞受賞

2022年:台湾のブランドコンセプトストアが「2022金點設計獎(ゴールデン・ピン・デザインアワード)」空間デザイン部門・年間最優秀デザイン賞受賞

2023年:ダイヤモンド経営者倶楽部 2022年度「マネジメント・オブ・ザ・イヤー」大賞受賞

 

生まれ育った地で就職したいとUターン、そして結婚と出産

 

石田さんは富山県内の高校を卒業後、兵庫県西宮市の短大へ進学。大学生活は充実していたが、富山よりも都会の雰囲気が漂う街になかなか慣れることができなかった。短大卒業後、

「生まれ育った富山が一番住みやすい。家族も友達もいて安心できる場所で生活したい」

との思いからUターンをした。

 

 

就職したのは、アジアやアフリカの民芸品などを輸入販売する会社。世界中から仕入れられた素敵なアクセサリーや雑貨を店舗で販売する接客に従事した。

 

「この会社では、商品の仕入れから商品ディスプレイや接客の仕方、売上の伸ばし方などのお店づくりを店舗のスタッフに任せる方針だったので、自由に自分の工夫次第で商品が売れるようになる経験を積めることが楽しかったですね」

 

仕事を楽しみ、充実した社会人生活を送っていた石田さんは、その後、結婚と出産を機に9年働いた会社を退職。専業主婦として家事と育児に専念し、子どもの成長を見守る日々を送っていた。

 

 

結婚、出産を経験し、社会から離れたことでわかった“自分がやりたいこと”

 

家庭で家事と育児をこなす毎日。

 

「子育てもかけがえのない貴重な時間。でも、自分は外で働くことが好きだったんだ…」

 

結婚と出産で一度社会から離れたことで、自分にとって仕事の大切さを改めて感じ始めたという石田さん。出産から2年半が経ち、育児にも少し慣れて落ち着いたことから、パート勤務の仕事を探し、工場で品質検査の仕事に就いた。

 

「働くことで社会や人の役に立っているという実感が湧いて、純粋に働くことの楽しさを感じました」

 

その後、高岡市に引っ越したことをきっかけに工場の仕事を退職。働くなら、好きだった接客販売の仕事にもう一度関わりたいと思うようになり、子育てと仕事の両立をはかれる職場を探していたところ、能作の直営店スタッフの求人を見つけた。一般的に店舗での接客販売の求人は終業時刻が遅いが、能作の本社FACTORY SHOPは18時に閉店する。

 

「これなら私でも働けるかも」

 

せっかくのチャンス。自分のやりたい仕事に挑戦してみたいと思って応募し、採用された。

 

 

再び接客販売の仕事に

 

こうして、パート採用として能作の本社FACTORY SHOPで、やりたかった接客販売の仕事に就いた石田さん。FACTORY SHOPでは、接客やギフト包装、発注、ディスプレイのほか、産業観光の鋳物製作体験でいらしたお客様のご案内対応などをこなす。前職で接客販売の経験を十分に積んではいたが、今まで伝統工芸や鋳物を扱ったことはなく、どんなふうに見せたらお客様に欲しいと思ってもらえるか、能作の製品の魅力をわかりやすく伝えることが難しかったという。

 

「お客様は伝統的工芸品のどんなところに興味をもつのか。能作の製品はなぜ人気なのか」

 

始めはわからないことが多かったが、お客様と対話を重ねるうちに、逆にお客様から能作の魅力を教わることが多く、奥深さを学んだという。

 

 

 

パートから正社員に

 

能作で働いて3年目。

 

「仕事が大好きだと思って働いていたので、もっと責任をもって長く働かせてもらいたい。ここで仕事を続けたい」

 

そう思うようになっていた頃、正社員登用の話をもらった。子どもは小学生になり、家族の支えもあることから、正社員になることを決意。本社FACTORY SHOPの店長を任された。

 

 

職場はチーム。チームで考えて、チームで作り上げていく

 

店長を任されるようになり、周りのスタッフと協力してやっていくことの重要性に気づいたという石田さん。前職での経験から、販売の仕事は売上重視だと思っていたが、能作でスタッフと共に働いていくうちに、数字だけを追いかけるのはよくないという考えになったという。

 

「自然と人が集まってくるようなチームの雰囲気。そして、同僚が皆、健康で、笑顔で、毎日楽しく出勤できることが売上よりも大切」

 

「職場の雰囲気が良いことは、一番重要なこと。それがお客様にも伝わると思うんです。お互いがお互いを思いやる気持ちをもって働くことが自然とできているなと感じるようになってきました。良いチームワークを築いていきたいですね」

と笑顔で話す。

 

 

本社FACTORY SHOPは他の直営店と違い、本社にある店舗ゆえに工場見学や鋳物製作体験、本社イベント、カフェ利用の目的で来館したお客様とも接する機会がある。

 

「本社でしか味わえない魅力を感じてもらえる店舗ってなんだろうかと考えます。他のブランドではできないお店づくり、来店の楽しさを感じてもらえる空間にしていきたいです。お客様の思い出に残るような場にしていくにはどうしたらいいか考え、発想を豊かにしていきたい」

 

「産業観光のイベントで、地域の人をはじめ、遠方からお越しのお客様が楽しんでくれたり喜んでくれたりする姿を見ると私たちも嬉しくなります。共存共栄だと思っているので、“ハッピー”の循環を本気で目指しています」

 

 

 

やる気のある人にチャンスを与えてくれる会社

 

能作での働き方の柔軟さについては、残業がほぼなく、有休休暇や時間単位年休を取りやすい職場の雰囲気があるため、プライベートと仕事のバランスをとりやすいという。

 

「能作の曲がる錫製品は、『曲がってしまう』という短所だと思われていた錫の特徴を『曲げられる』という長所に変えた発想の転換が起源です。『なにごとも決めつけないでまずやってみよう』という精神をもち、自由な発想でチャレンジできる会社はなかなかないと思います。他部署の人も交えてアイデアを出しやすい雰囲気があって、上司とも話しやすいオープンな関係なので、ちょっとした相談もしやすいと思います。自分たちで考えて実現するところまでやらせてくれるのでやりがいがありますし、やる気のある人にチャンスを与えてくれる会社だと思う」

 

と、社風に対する思いを話してくれた。

 

 

 

仕事のやりがいと求職者へメッセージ

 

日々の業務マニュアルはあり、基本的なマナーを学ぶことはできるが、その先の、どうやったらお客様により喜んでもらえるかなどは、自由な発想で自ら考えて行動できるところに、能作での仕事の醍醐味を感じるという。

 

「ギフトを探しにいらっしゃるお客様が多いので、どんな想いで探しているのかなどをお客様と会話しながら提案することが楽しく、この仕事のやりがいだと思います。製品の美しさや伝統技術、デザインへのこだわりが見える製品を扱うことで、それをより魅力的に見せるにはどうしたら良いか、センスを磨くことができ、学ぶことができると思います」

 

「能作の直営店での仕事は、人と関わることが好きな方、周りへの思いやりをもって接することができる方に向いていると思います。特別な資格や接客経験がなくても心配ありません。製品を理解してお客様へ伝えたいという気持ちがあればチャレンジできる仕事です」

 

 

“母”として、 “ひとりの人間”として。大切なことは“自分がどうしたいか”ということ

 

子育てと仕事の両立をはかる石田さん。最後に、子育てしながら働く立場として、働くことに対する考えを伺った。

 

「『女性だから結婚して家事や育児をするべき』『男性は仕事に専念するべき』など、昔からの固定観念に悩む人もいると思うんですが、大切なことは“自分がどうしたいか”ということ。私は出産と育児で一度仕事を離れ、再び仕事に就き、社会の役に立っているという気持ちになったときに生きているなと感じました。人を楽しませたい、助けになりたいと思い、仕事ができることに救われた気がしました。それを日々の家事や育児でも感じるのですが」

 

「子育てする女性が仕事をすることは家事や育児に何ら影響のないということや、私が働く姿を子どもが見て育つことで、子どもにプラスの影響を与えると信じて働いていきたいと思っています」

 

和やかな表情で、一つひとつ丁寧に思いを語ってくれた石田さん。なによりも、共に働く仲間を思いやり、みんなが楽しくやりがいをもって働けるようにと考える姿が印象的だった。