生地(いくじ)の清水(しょうず)めぐり

神明町の共同洗い場は階段状に槽が仕切られ、飲み水のほか、果物を冷やしたり洗濯物のすすぎなどに使われる。
水を通して近隣住民が懇談する憩いの場でもある。

絹の清水(左)は隣にあった豆腐屋の豆腐が絹のように滑らかだったことからこの名前が付いた。弘法の清水(神明町東)は、ステンレス製のシンプルな槽が冷たさを引き立てる。
 

生地地域には多くの観光客も訪れ、観光ガイドによるツアーも実施されている。写真は清水庵の清水

水温は1年を通じて11~14度前後(清水によって異なる)と安定していることから、近隣ではお酒や豆腐作りにも利用されている。
まろやかな口当たりで、だしを利かせた和食に適しており、お茶やコーヒーを淹れるためにと県外から採水に訪れる人も珍しくない。
せっけんの泡立ちがいいようで、洗髪や洗顔に使う人もいるそうだ。

 

〝名水の宝庫〟として名高い富山県において、ぜひ、訪れてほしい名水地が黒部川扇状地に位置する生地(いくじ)の湧水群だ。
約20カ所の湧水名所が街中に点在する珍しい地域で、それぞれの湧水地で異なった味と水質を楽しめるのはもちろん、景観や湧き出す水のせせらぎ、醸し出す水場の匂い 雰囲気が多様に調和し、五感に訴えかける。

訪れた人の喉だけでなく心も潤してくれる。


約20カ所の湧水名所が街中に点在する珍しい地域で、それぞれの湧水地で異なった味と水質を楽しめるのはもちろん、景観や湧き出す水のせせらぎ、醸し出す水場の雰囲気が多様に調和し、五感に訴えかける。
訪れた人の喉だけでなく心も潤してくれる。

 

清水を「しょうず」と呼ぶ

生地地域は、黒部川が日本海に流れ込む扇状地にある小さな漁師町。
この地域では湧水のことを清水「しみず」ではなく「しょうず」と呼んでいる。
岩の間から湧き出た水という意味で、北陸地方でそう呼ぶ地域は他にもあるという。
初めて訪れる人は、各所に表記される「清水」の読み方にも注目しよう。

そんな生地の清水は、3000メートル級の立山連峰に積もった万年雪がゆっくりと解けた天然水。
成分が溶けにくい花崗(かこう)岩の地層を通って湧き出すため、カルシウムや鉄などの含有量(硬度)が小さく、適度にミネラルを含んだ軟水というのが特徴だ。
水温は1年を通じて11~14度前後(清水によって異なる)と安定していることから、近隣ではお酒や豆腐作りにも利用されている。
まろやかな口当たりで、だしを利かせた和食に適しており、お茶やコーヒーを淹れるためにと県外から採水に人も珍しくない。
せっけんの泡立ちがいいようで、洗髪や洗顔に使う人もいるそうだ。


多種多様な湧水

生地地域では、点在する約20カ所の湧水地でそれぞれの異なった個性と特徴を堪能できることが他の湧水地にはない面白さだ。

例えば、造り酒屋の敷地内に湧く「岩瀬家の清水」は井戸の深さによって軟水と硬水の2種類が湧き出しており、銘酒「幻の瀧」の仕込みに使われている清水の飲み比べができる。
ミネラルを多く含む硬水は、クエン酸とブドウ糖を加えるとスポーツドリンクになるというから、夏場には熱中症対策として自家製ドリンクを作ってみるのもいいだろう。

禅寺や邸宅の庭先から湧き出す清水もあり、景観や自然の移ろいを感じながらおいしい水を味わうことができる。
階段状に流しが設けられている清水は、飲み水のほか炊事や洗濯にも利用されており、脈々と受け継がれた地域住民が水を通して懇談する憩いの場でもある。
水をためる槽も石造りやステンレス製と清水によって素材が異なり、せせらぎがその水の流れる音が心を癒してくれるからと清水の傍で録音して心地よいBGMとして利用する人もいるというから驚きだ。

中には多少寂れていたり、屋根もない簡素なつくりの湧水地もあり、清水をめぐりながら生地地域の変遷を感じ取ることもできる。

もちろん、多くの清水は現在も地元住民が利用しており、階段状に流しが設けられている清水では、湧き出し口から順に飲用、炊事用、洗い物用とルールが決まっている。公共の場であるので、利用者がいる場合に採水する際は、お声がけするなどマナーの順守にも心がけてほしい。

 

家計に優しい水の恵み

富山県は立山連峰から流れる豊富な水量を生かした水力発電が盛んで、大手電力会社の中で最も安い電力料金を設定している。
発電にかかる燃料費が少なくて済むため、安定した電気を割安で利用できる。

特に黒部市近隣の住民は、市内各所にある井戸や湧水地から飲料や料理に使う水を無料で利用できるので家計への恩恵はさらに大きいのだ。
ちなみに湧水群地域内では住宅建設時に地下水を利用するための自噴井戸を敷地内に掘削することが珍しくない。

自宅に上水道を引かずに生活用水のすべてを私用の清水で賄う住宅は地域内に700軒以上あると言われる。
こうした豊富で上質な水と安い電力の恩恵を受けようと、黒部川扇状地には多くの企業の工場も集まっている。
ファスナー製造で有名な地元、YKK(黒部市)の広大な工場をはじめ、アサヒ飲料(入善町)といった大手飲料メーカーが工場を構え、清涼飲料水の原料に黒部の水を使っている。


行き方
黒部川扇状地湧水群が採水できる「清水の里」へは、最寄駅であるあいの風とやま鉄道生地駅から車で約5分。
北陸新幹線の停車するJR黒部宇奈月温泉駅からは直通の路線バスで約30分。
高速道路を利用する場合は、北陸自動車道の黒部ICから車で約20分。
近くにはくろべ漁業協同組合直営で新鮮な魚を味わえる「魚の駅生地」がある。

生地駅前などには点在する清水の場所を示すマップが設置してある。
ちなみに、弘法大使大師が杖を突いたら湧き出したという言い伝えから名付けられた「弘法の清水」が生地には3カ所ある。
それぞれの違いを楽しんでほしい。
 

 

黒部観光ガイド

北アルプスの山々から流れ下る黒部川の水は地下水となり、生地のあちこちで清らかな湧き水となって地表に出てきます。この湧水のことを「清水(しょうず)」と呼び、生地の人々は昔から飲み水、炊事、洗濯などに利用してきました。
2007年の富山県の調査によると、黒部市で約750か所の自噴井戸が確認され、いたるところで水が湧いているといっても過言ではありません。生地地区には全部で20か所の湧水スポットがあり、湧出量や水質、味わいがそれぞれに異なります。水温は1年を通じてほぼ11℃前後で、適度なミネラルを含んだ「おいしい水」として親しまれています。