知りたい!富山の不動産事情【県東部】後編

インフラなどの利便性の向上や周辺環境の変化によって移り変わる首都圏の「住みたい街ランキング」同様、首都圏ほど激しい動きはないものの富山県内も住みたい人気エリアは時代と共に変貌している。
今、富山県の不動産事情はどのような変化が起きているのか。引き続きビルトの大江利男専務取締役に聞いた。

黒部市の独り勝ち!?

移住者に手厚い補助金交付などで人口流出を防ごうと四苦八苦する県内自治体において、「独り勝ち」と大江氏が明言するのが黒部市だ。
最近5年間で市の人口は数百人単位で微減するものの、世帯数は増えており、人口は4万人台をキープ。
北陸新幹線「黒部宇奈月温泉駅」が開業し、県内外への移動が楽になったことが黒部市の価値を高めた主要因であるのは間違いない。
だが、その他にも住みやすさを後押しする魅力が数多く詰まっている。

車で30分ほどの圏内に秘境・黒部峡谷や宇奈月温泉があり、市街地に黒部川扇状地湧水群が点在する黒部市。
飲み水や調理の水を湧水地から無料で利用でき、豊富な水量で水力発電の効率が良いため電気代も安い。
そんな豊富な水を活用しようとファスナーで有名な地元の大企業YKKをはじめ、多くの産業が立地し、農漁業も盛んだ。

〝田舎過ぎず、都会でもない〟。

市が住みやすさをアピールし、移住を呼びかけるのも納得できる。

そして今、世界が注目する画期的な街づくりが黒部市で進められている。
それがYKKが旧社宅跡地(同市三日市)約3万6000平方メートルという広大な敷地に展開している「パッシブタウン」だ。


 

その最大の特徴は、エネルギー消費量を同地域の一般的住宅の4割程度に抑制する点である。
黒部川扇状地の伏流水をくみ上げ、パイプで循環させることで、屋内が夏は涼しく、冬は暖かくなるという。
さらに、太陽光や富山湾からの季節風といった自然を取り入れて、従来のエネルギー消費を抑える仕組みだ。

2025年までに賃貸集合住宅250戸を完成させる計画。
街区ごとにそれぞれ著名な建築家が設計を担うという画一性から逸脱したユニークな街づくりを目指している。
カフェや飲食店、商業地も併設され、次世代の〝省エネタウン〟が形成されている。

複数の業者が区画ごとに整備する一般的な土地開発とは異なり、広大な敷地をYKKグループ1社でまとめて開発しているため、自由で調和のとれた形で道路や宅地、商業地を形作ることができるのが大きなポイントだ。

大江氏は「まさにデベロッパーが目指す理想形」と絶賛する。

すでに一部の街区は完成しており、YKKの社員に加え、一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっている。

 

シャッター商店街にスケート場!?

富山市の中心地には、「総曲輪(そうがわ)通り」「中央通り」といった東西に連なる中心商店街がある。
しかし、他の地方都市の例に漏れず、郊外にできた大型商業施設に客を奪われ、今では活気を失った「シャッター商店街」になりつつある。

 

商業施設やイベント広場が整備された総曲輪通りはにわかに人の流れが戻っているところもあるが、開発の遅れる中央通り側は閑散とした状態が続く。
そんな状況を打破しようと、中央通りエリアでは今後、大規模な再開発計画がスタートするという。

 

その活性化の起爆剤として期待されるのが、北陸3県では初となる大規模な「常設アイススケート場」だ。
国民的人気の高いフィギュアスケートにあやかった開発戦略とも伝え漏れるが、街中のスケート場建設は長年の市の悲願だったという。
住居の入る24階建ての高層棟、商業施設やオフィスの入る7階建ての低層棟にスケート場が整備される計画。

400人以上が入居する大規模マンションができることで、周辺の飲食店などへの波及効果があると関係者はそろばんをはじく。
2023年春に着工、25年秋の完成を予定するこの施設について、大江氏は「発想は斬新で良いと思う」と一定の評価を示す。
しかし、商店街の根本的な課題は「まだ解決されていない」と警鐘を鳴らす。


「開発で区画整理をしようとしても、その土地の所有者は元が商店街店舗の社長で、それぞれの主張が強く、そこに利権なども絡むから折り合いがつかない」と開発が進まない問題点を指摘。
「だから商店街は歯抜け状態に整備され、使い勝手悪い。行政も入り、商店街地権者の土地と等価交換できる土地を用意し、まとめて区画を整備すべきだ」と提案する。
腰の重い地権者たちを、どのように動かせるかが発展のカギを握っているといえそうだ。

 

地方の不動産屋は透明性が高い!?

不動産業界には「千三つ(せんみつ)」という言葉があるという。
その解釈の仕方はさまざまあるようだが、大江氏は「『千に3つしか話がまとまらない』と肌身に感じている」と不動産業界の事情を意味する言葉だと説明する。
「私は、年間を通して軽い話から、真面目な話までを含めると年間1,000件ほど、さまざまな不動産にまつわるお話を頂きますが、実際にほとんどは契約に至りません。」
 

全国津々浦々、競争が激しい不動産業界において、地方の不動産業者は東京や大阪などの都市圏に比べて「透明性が高い」という。
「都会は物件数も業者も多く、買い手や借り手が不利になる契約をしても表立つことは少ないが、地方は物件情報を隣近所で共有しており、悪徳な手口を使う業者がいればすぐに特定される」と大江氏。過去に殺人や自殺などがあった、いわゆる「事故物件」ついても告知はしっかりとされているようだ。

 

そういった物件は買い手・借り手がつかず表に出ることはほぼないが、購入費や家賃の安さから一定の需要はあるため、取り扱う業者はいるという。

 

実際に行ってみないと伝わらない街の雰囲気

移住先の住宅選びは、目で見る情報だけでその土地の特徴を見極めるのは難しく、限界がある。
一度も訪れたことのない地域に住もうとするならば尚更だ。

大江氏は「ローカル的な集落の人たちの温かさに触れたり、ワークショップで親しくなった仲間と過ごしたいと思い移住を決める人もいる。
どんな仲間がいるか、コミュニティーがあるかが移住の決め手の要素にもなってきている」と、近年の移住者のマインドの変化を指摘する。

住宅地や商業地、インフラなどの整備状況、交通の利便性、人口密度や風景、気候、教育環境、生活コスト…。

多くの移住者が住居を見せる際に参考とし、重視するのがこうした要素だろう。

都会であればこうした要素に重点を置いて移住を決めても大きな公開はないだろう。
しかし、地方、とりわけ田舎ではそうはいかない。
その地域に根付く文化や風習、伝統、地域や近隣住民とのコミュニティーが大きく生活に関わってくる。
住民になれば地域行事や近隣地域の清掃への参加など、「郷に入っては郷に従え」を求められることがほとんどだ。

ただし、地域との結びつきが強くなれば、農作物のおすそ分けや子供の預かりなど、困ったときの相互扶助が都会に比べて圧倒的に充実する。
順応できれば「住みやすさ」を何倍にも高めてくれる。

 

その地域にどんな特徴があるのか。実際に訪れ、そこに住む人々の話に耳を傾け、知ることが移住に向けた大切な一歩といえる。

 

(取材日:2021年10月21日)

株式会社ビルト

当初は、売家・売地の仲介業務を2名のスタッフで始めた会社でしたが、今では不動産事業を中心に、介護事業、温泉事業と幅広く手がけることができるようになりました。
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