「知らない地だから面白そう」国際会議や学術団体を支える経営者

西田美樹 株式会社PCO 代表取締役

日本全国で開催される国際会議をはじめとしたコンベンションを裏から支えるコンベンション企画運営会社である株式会社PCOの代表を務める西田美樹さん。結婚・出産を機に、東京から夫の故郷である富山に移り住んだ。「地図でさせない場所に住んでみるのも面白いかも!」。同僚の一言にインスピレーションを受けて、好奇心を胸にたどり着いた未踏の地・富山で、今や富山の魅力を国内外に伝える事業を展開する。豪快に活躍の場を広げる生き方に迫った。

 

 

未踏の地に住むワクワク感を胸に富山へ


Q:富山に移住した経緯は?


富山に来たのは2001年ごろで、もともとは宮城県石巻市の出身です。高校卒業後に進学のため東京に出て、就職し、富山出身の夫と出会い結婚。出産を機に富山へ移住しました。
東京で子育てしようとは思っていなかったので、富山と宮城のどちらに移住するかを当時働いていた会社の同僚に相談したところ、「今まで全く縁のなかった場所に住むのって面白そうだね」という言葉に共感して、富山に移住を決めました。何も予備知識なく、とりあえず富山に移り住んだ感じですね。

 

Q:富山でくらしてみた感想は?


移住したての頃は仕事もしていなかったですし、何かやりたいことがあってきたわけでもない。友達なんて一人もいなかったので、しばらくすると東京に帰りたいという気持ちになりましたね。それは富山だからということではなく、知り合いがいないことが大きかったです。それを夫に話したところ「だったら、好きな仕事でも探したらいいんじゃない」といわれて。それで入社したのが、今の会社です。

 

Q:それから約20年が経過しました


私たちの仕事は、地域の魅力を外の皆さんに伝えることも私たちの仕事の一つ。ですから、今ではとても富山に詳しくなりました。生活するには本当に快適な場所だなと思っています。とはいえ、1か所にとどまることがあまり好きではない性分で、昔から出張に率先して出かけていました。そうやって、自分の時間を確保できなかったら、富山を離れていただろうなと思います。

 

子育てをしていると、自宅と職場と保育所のトライアングルをぐるぐる毎日回っている状態になりますよね。そんな日々の中、出張をすると、強制的に自分の時間を確保することができるんです。もちろん家族の協力がなければ実現しないのですが、そうやって自分の時間を確保することが、家庭のためにもとても大事でした。ですから、後輩にも「出張」を強く進めています。

 

 

Q:各地を飛び回る日々の中、富山が一息つける場所なんですね


東京は便利だけど、近所づきあいもなく、頼れる人がいない。実家の石巻でもよかったんですが、少し田舎すぎる。富山のコンパクトさは、家族と暮らすには機能的でちょうどいい。私は姑と同居していて、子供たちの面倒を見てもらっていることもありますが、近所のお年寄りも含めて、緩やかに挨拶したり助けになってあげたりできるような関係づくりは必要だと思っていて、そういう環境が近くにある富山はちょうどいい所ですよね。

 

Q:姑や近所との付き合いがいやになって東京に戻る人もいますね


おばあちゃんがいる環境で子供を育てたい思いが昔からあって、それで姑との同居も全然ウエルカムでした。むしろ、自分がおばあちゃんのいる環境で育ったので、おばあちゃんがいない子育てを想像できなかった。おばあちゃんがいるからお母さんがお出かけできていたのをずっと見てきたので。もちろん、お母さんとおばあちゃんがけんかするような場面もたくさん見てきましたけどね。たまにきちんと衝突して、致命的なところの手前で止める。互いに許容しあって生きるバランスみたいなことを学んだ気がします。

 

何よりも子供にとっては関わる大人は多い方がいいと思っています。その最小単位が家族で、そこには愛がある。その世界の中で、おばあちゃんが逃げ場になってくれていたり、親には言えないことを言える存在にもなってくれる。最低限、子どものためにもそういうものを確保したかったので、東京での子育てはしないと決めていました。

 

 

「思っていることをやろう」と決めればプレッシャーはない


Q:PCOに入社したきっかけは?


東京ではデザイン事務所のイベント部門にいたので、そのスキルを生かせる仕事を探しました。ハローワークなど使って探したのですけど、当時は「子供がいると採用できません」というようなことをはっきり言われました。20年以上前って子育て中の女性が正社員になるのが今よりとても難しい時代でしたね。

 

その後、吹っ切れて、好きな仕事を探そう!と思い、インターネットで見つけたのが「生活ネット研究所」でした。(PCOは、生活ネット研究所から事業分割による設立した会社です。)
当時は求人を出していなかったのですが、「募集してますか?」と直接電話したら、面接してくれるということになりました。その時面接してくれたのが先代で当時の代表でした。

 

実は会社のホームページが更新されておらず、てっきりデザイン会社だろうと思って面接に行ったら、ちょうど新規事業としてコンベンション運営に取り組み始めていた時で、イベント会社の経験を活かして働いてはどうか?と採用してもらいました。

 

それで2002年に入社しました。創業者の羽根(由子)さんも含め、当時いた約5人の社員は全員女性でしたね。
(生活ネット研究所は1991年にデザイン会社として創業。2001年に富山国際会議場の広報計画業務をきっかけにコンベンション事業に参入し、03年にコンベンション運営を専門とするPCOを事業分割して創業した)

 

Q:代表になると思っていましたか?


思っていなかったですね。代表就任の話を持ち掛けられたときの詳細はあまり覚えてなくて…。2014年に役員に就任したのですけど、当時の代表の羽根自身は事業承継を前提に考えていて、60歳で代表をバトンタッチしたいと、昔から言っていました。コンベンション業務を始めて社員が増え、会社もこれほど大きくなるとは考えていなかったのではないかと思います。従業員承継以外の方法も色々検討したことは聞いています。
最終的には企業のカルチャーを承継できるのは従業員だという結論に至り、従業員の中で私が後継に選ばれて、代表になること前提で役員になりました。現在、取締役を一緒に努める松澤真希と共に、「二人が中心となって、今後の会社を経営してちょうだい」という感じでしたね。

 

Q:代表を任された際の心境は?


先代は地元では比較的名の知れた方でした。ですから、まわりの方々から「プレッシャーでしょ!」とよくいわれました。先代はタレント性やカリスマ性の強い方でしたから、同じことをしようとは全く思っていませんでしたし、同じことをする必要もないと考えていました。「自分が思っていることをやろう」と決めていたので、全然プレッシャーなんてなかったですね。

 

Q:失礼かもしれませんが、見た目があまり代表っぽくありませんね


私はなかなか他人に覚えてもらえないタイプなんです。ですから、何かわかりやすいトレードマークなりあったほうがいいなと思って。ある程度、普通と違うインパクトを与えなくちゃなと思ってやっていましたけど、基本的に好きな格好をしているだけではあります。

 

 

「何もないちゃ」と謙遜する県民性が好き


Q:コンベンションを誘致するうえで、富山をどのようにアピールするのですか?


開催地として選ばれるための条件は会議によって違いがあるのですが、会議が開催できて参加者が滞在できるホテルがあることが最低限必要な条件です。それに加えて、入国から開催地までの交通や、滞在する間に体験できることや地元の支援など、様々な要素を提案して、主催者が開催地を決定します。

 

コンベンションを開催すれば、地域にその分野のトップレベルの研究者たちが集まります。そこでコラボレーションやネットワークができ、両者に大きなメリットを生み出すことがコンベンションの一つの価値といわれています。単なる観光的な経済波及効果だけではなく、世界のナレッジが集まってくるコンベンションという機会を地域の教育や産業にも活かしていけるように、受け入れ側も進化していかなければと考えています。

 

富山の中でも、個人的に一番好きなのは、立山町にある「まんだら遊苑」。アートがあったり瞑想室があったり。あの世界観がすごく好きで、友人たちを連れていくと皆さんに喜んでもらえますね。

 

Q 2019年に40歳で社長に就任し、約5年が経過しました。色々な人と付き合う中で富山の面倒臭い面を感じたりしますか?


富山県の事業で「何もないちゃ(富山弁で「何もない」の意)撲滅運動」というのがあったこと知っていますか?北陸新幹線が開通して多くの人が富山に来ても、タクシーの運転手さんはじめ、「富山には何もないから」と言ったらお客さんは興ざめするでしょうと。そこで「富山のことをちゃんと紹介できるようにしましょう」という啓蒙活動のような事業だったと記憶しています。
でも、私は「何もないちゃ」という富山の人が個人的には好きで。もちろん、地域としてはちゃんと紹介してくれる人が増えて言った方がいいのだと思うのですが、みんながみんなそうでなくてもいいなと。富山の人が謙遜するところがいいなと思っています。

 

富山は保守的とか言われていますけど、初めの一歩をこちらから踏み込んでしまえば、多くの方は心を開き、とてもよくしてくれます。なんなら、結構、前のめりな方に出会うことが多いです。最初はこちらの様子を慎重に伺っているけど、その後はフレンドリーだし、親切だし、周りの目を気にしすぎるのはたまにキズと思う方もいて。まあそこは面倒だなって思うこともありますが、謙虚で慎重ってことにして、一緒に前に進んで行きたいと思っています。